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 廊下の外に出たシャロンは珍しく私達に尋ねた。

「どう思った?」

 私は少々面食らったが率直に答えた。

「誠実な人だと思いました。少なくとも善人だと思います。でなければ自白剤を飲めるとは言えないでしょう。ここに持ってきたのだから効果には自信があるはずですし」

 ローレンスも頷いた。

「それに積極的に犯人を捕まえようとしていた気がします。でなければあんな風に自分の推理を話したりしないでしょうから」

 シャロンは呆れて肩をすくめた。

「そう思わせたいだけかもしれないわよ。彼は専門家だから自分がないと言えばそれを覆すのが難しいのを知っている。アーサーもあり得ないと断言することで自分を容疑者から外す算段かもしれないわ。ただ」

「ただ?」と私は聞き返した。

 シャロンは先ほどまでいた部屋のドアを見つめた。

「彼が善人だっていう意見には同意するわ。悪い人じゃない。だけどだから人を殺していないとは言い切れない。戦争と同じよ。人は正しいと思えば殺人も虐殺も厭わない。平和な世の中だと大量殺人は悪だけど、戦場だとそれは英雄になるのだから」

「それは……そうですが……」

「それに彼も部屋で魔法使っていたわ。コップや鞄から魔法痕が見えたもの。見えないところでは彼でさえ法律違反をしているということになる。まあ、普段から魔法使いがプライベートな空間で魔法を使うのは当たり前だから仕方がないけど」

 そんな。あんなに優しそうな紳士でも人が見てないところでは魔法を使うのか。となると彼も怪しく見えてきた。

 私が混乱しているとシャロンは告げた。

「坊や達も覚えておきなさい。主観や時代によって変わる価値観という名の狂気は思考を鈍らせるわ。いつの時代も頼りになるのは真理と論理。強く生きたいならこれらを求め、磨きなさい」

 いくつもの時代を過ごしてきたからの言葉なのだろう。

 私だって父とは価値観が合わない。祖父となれば尚更だ。時代時代に正義も悪も形を変えていく。

 なら正しさなどというものは悪行に目を瞑るための免罪符でしかないのかもしれない。

 しかし同時に我々軍人はそれがどれだけ悪だとしても上がやれと言えば従うものだ。理不尽さを飲み込み、間違いに目を瞑って任務をこなす。

 果たしてそれが私の求めていた正義なのだろうか?

 一度疑問を抱くとそれは毒のように体内を駆け巡った。
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