上 下
19 / 33

第19話

しおりを挟む
 ウィスタリアは貴族に生まれながら平民並の魔力もなく生活魔法すら使えない。魔法が使えない人間はこの世界では障害者と認定される事もある。しかし、先代のモンブラン婦人が一族に魔法が使えないモノがいる事は恥だと言う事でその事は伏せられていた。

 皆が魔力があるのが当然の世界でひとりだけ魔力のない生活は困難の連続だった。まだ貴族だという事もあり、生活自体はなんとかなっていた。しかし徐々にそれは露呈することになる。それは当然だ。学校に行けば嫌でも魔力がある人との差が出てきてしまう。しかもバレないようにしならければならない。

 それでも元気に生活しているのに心の病ですって?どうして心が病む事があるのか、贅沢だなとウィスタリアは思う。強者には強者にしか分からない悩みがあるのだろうか。




 ビヨンセとウィスタリアはその日に貴婦人宅で夕食を一緒にする事になっていた。行った所で助けてやれる事などないのになぜ行くのだと思うが、母はこれも人助けなのだと言う。悩みが無いわけではないが心の病気になるほどでもない者が助けるのは当たり前の事だ。という事らしい。

 話を聞くだけでも人とは心が安心するものですと母は言う。だからって私はいるのかとも思う。



「ヴィヴィアンヌ、お夕食のご招待、ありがとう。お義母様の具合はいかが?」

 ビヨンセが招待してくれた事に挨拶をする。ヴィヴィアンヌ・アウロー男爵夫人だ。ビヨンセとはお茶会で知り合い、世間話程度はする仲ではあるらしい。

「モンブラン婦人、来てくれて嬉しいわ。義母は気分がいいのか暖炉の前でゆっくりしているわ」

 暖炉の前で老婦人がカップを手にソファーに座っている。

「お義母様、モンブラン婦人が来てくれましたよ」

 そう話しかけると老婦人はゆっくりとこちらに向き直った。

「おや、まあ…あの美しかったビヨンセ?!嘘みたいだね!年を取るとどんな美人も台無しだ。後ろの…あんたはよかったね。年とっても同じだろうよ」

「ちょ、ちょっと、お義母様?!せっかく来て頂いたのになんて失礼なことを!」

「本当の事だろう、ほっほっほ」

 ヴィヴィアンヌは慌てて老婦人を連れて部屋に戻った。



「…優しかったあの婦人があんな嫌味をいう人になるなんて…」

 昔の母を知っているのだろうが、あまりにひどい言葉にビヨンセはショックを受けているようだがウィスタリアは知らない老婆に憐みの目を向けられた。ひどい屈辱だ。



「あれが心の病気というの?」

「何かに絶望してああなっているのだと思うのよ」

「…そうですか…」

 絶望したら酷い嫌味を言ってしまいたくなるのだろうかと疑問が出て来るウィスタリアだったが、それより気になったのは老婦人がしていたネックレスだ。年代もののいいネックレスなのだろう。モヤモヤとしている。いい魔石はモヤモヤしている。きっと価値の高いモノに違いない。ウィスタリアには一生あんな宝石は身に着ける事はない。もちろん母もいいネックレスをつけているがモヤモヤ度が違う。

 鑑定ギフトなどないウィスタリアはこのモヤモヤ度で判断している。パーティーに来ている婦人は指輪やイヤリングなど沢山身に着けている宝石の中でそのモヤモヤ度の高い宝石を褒めると大抵の人は喜ぶ。

「どう?ヴィヴィアンヌの苦労が分かるでしょう?」

「だから、ムリよ。兄さまに頼んだ方がいいわよ」

「ベゴニアには頼めないわよ。あの子は栄養剤の事でもう王族になる人よ」

 決まっているの?

「しかも今回の魔法水の発見で決定的よ。そんな人に個人的な事は頼めないでしょう?」

 私にはいいの?

「その王族が管理するようになった泉を私がどうする事も出来ないのはわかるでしょう?」

「ウィスタリアは森にこっそりと今まで通り入って普通に貰ってくればいいわよ、うふふ」

「お母様は娘を犯罪者にしたいの?」

「またぁそんな大げさな事を言って…」

「兎に角、ムリだから」

 そんな話をしていると、ヴィヴィアンヌが戻って来た。



「ごめんなさいね、せっかく来てくれたのに。ウィスタリアも久しぶりね。会えてよかったわ」

 昔、ウィスタリアもお茶会に参加していた。

「ええ、あの…力になれずごめんなさい」

「え?ああ、魔法水ね…いいのよ。ムリなのを分かってお願いしただけだから、それよりお食事にしましょう」

 3人は食事を共にした。



「最近、あんな事に?」

 ビヨンセはヴィヴィアンヌに聞いた。

「ええ、少しずつかしら、あんな人ではなかったのに…今では私にもひどい事を毎日言うのよ。本当にもう辛くて耐えられない…」

 一通り、苦情や悪口をヴィヴィアンヌに言わせた後、ようやく落ち着いたのか最近の流行りや噂話に花が咲いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

夫に離縁が切り出せません

えんどう
恋愛
 初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。  妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。

婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~

扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。 公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。 はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。 しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。 拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。 ▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ

処理中です...