上 下
131 / 139

-潜入-

しおりを挟む
 リアは侍女に「今日はひとりにしてほしいから朝まで来ないでほしい」と伝えた。城の出入口にはもちろん監視の兵士やリアの部屋の前には騎士もいる。逃げられない事は明らかだ。人身御供にされる可哀そうな美少女を前に侍女は憐れんだ。
 そして朝までひとりにする事を約束した。自ら死を選ぶかもしれない、しかしそれもまた人生なのかもと思いながら侍女は下がった。しかし、それでは自分が管理を怠ったとして処罰を与えられてしまう。夜中に1度見に来ればいいだろうと思ってもいた。

 リアは赤い糸が縫い付けられているポーチを取り出した。中にはメイク道具が数点入っているだけだ。持ってこれたのはこれだけだ。あとは持ち込み禁止にされポーチの中身もすべて確認された。
 ポーチはもちろん時空間ポーチになっているものだ。コスモポリタンでレッドスパイダーの赤い糸を買い自分で縫い付けていた。そのポーチから動きやすい普段着のワンピースと黒のショールを取り出し、ドレスから着替えた。そしてオーロを呼び出し、アンバーに転移して貰った。

 オーロが転移した所はユリウスが建てたという白い城の裏側だ。城だというのに辺りは暗く人影はない。

「これがユリウスの城…」
 とりあえず箒を取り出し城を一周した。ユリウスがいつもどこにいるのか、どこに向かうのか、違う行動をする時間はいつなのかを調べる必要があった。

 城にはいなかった。これは見かけ倒しの城なのだろう。ハリボテだ。謁見の間以外は木造で土壁だ。いずれ手を入れるのかもしれないがここには住めないだろうと思った。

 プカプカとユリウスが居そうな場所を飛んだ。城からもっと奥にある作りかけの豪華になる予定の邸を見つけた。見張りが数人いたが裏手に回るとやはり誰も居なかった。まともな兵士などいないのだろう。
 ようやく、ユリウスの姿を発見する事が出来た。食事をしている。食事が終われば寝室に向かうだろう。リアは静かに邸の屋根に降りた。

 ユリウスが居た邸の場所は鉱山入口の近くだった。王族が住むには少々小さく威厳も格式もないが今後広げられるように工事が中断しているようだった。
 そしてリアは屋根裏の窓から侵入した。鍵が掛けられていたがオーロにガラスを溶かしてもらった。その屋根裏には古くなったメイドの服やエプロンなどが乱雑に置かれてあった。リアはそのメイド服を拝借した。
 リアはメイドのフリをして邸内を見学した。中もやはりハリボテでユリウス達がいるであろう所は辛うじて、それっぽく造られていた。

 貴族の屋敷など大体の造りは一緒である。リアはそれっぽい所をユリウスの部屋だと想定して部屋に入った。その部屋には高級な家具や大きなベッドがあった。やはりここなのだろうと閉められていたカーテンをレースのカーテンを残しすべて開け、窓から部屋を出た。これで外から様子が見えるぞとリアは小さなテラスで待ち構えた。

 カーテンを開けた事により明かりが漏れた。部屋に誰か入って来たのだ。レースの隙間から中を覗くと、ユリウスが見えた。カーテンを閉められるかと思ったがユリウスはそのままベッドに横になり明かりが消えた。
 リアはしばらくの間ユリウスを見張っていた。これは昼にまた来ないと行動が分からないなと思っていたところ、部屋に明かりが漏れた。
 ユリウスは一人で部屋から出たようだった。リアは静かに部屋に入り、ユリウスの後を追った。
 しかしそろそろ気配が消える魔法円も切れる。設定は6時間ほどだ。リアはアンバーに着いた時に魔法をかけていた。夜中の2時、この時間に明日また来ようと思った。
 部屋までオーロに送って貰いベッドに入った。その時、侍女が部屋に入って来た。様子を見に来たようだ。危なかった。

 リアは毎日、夜中に抜け出してはユリウスの様子を探りに行った。1日目に2時に起き出して外出していたのはその日だけだったようで、リアが抜け出して見に行っている時間にはベッドで寝ていた。
 侍女には夜中に様子を見に来るのは止めてくれと頼んだ。「あなたの足音で目が覚めてしまう。それから寝られない」と主張したのだ。侍女はリアが食事もきちんと取って時間になれば寝て起きいたので夜中に様子を見に行くのを止めざるを得なかった。今はナイーブになっているのだろうと考えた。
 

 そしてアンバーに行く日程が決まり近づいていた。リアはまだユリウスの資金元を把握していない。しつこく、夜中に行ってもダメなのだろうかと考えていたその日、ユリウスが等々夜中に置き出して一人で鉱山に入って行った。これを逃したらまた数日は動かないかもしれないと、リアも鉱山の入口に向かった。

 鉱山は今は停止しているようだった。誰にも入らせないようにしている。そこにユリウスは入った。
 箒に乗ってユリウスの後を追う。明かりがある方へ慎重に進んだ。中は真っ暗でリアも少し明かりを持っていないと進めないほどだった。

「おお、育っているな。私のカワイイ子供達よ。魔石に魔素がなくなっている。あと少しだな」
 ユリウスの声がした。明かりを消して声がする方を除いた。ユリウスは魔石に手を翳し、魔力を注いでいた。
「このくらいでいいだろう。また一週間後に来るからな」
 ユリウスは何かにキスをした。そして来た道を戻り鉱山は封鎖された。鉱山は隠れる場所がたくさんある。リアに気が付かずユリウスは屋敷へと戻った。

 残されたリアは明かりをつけ、ユリウスが話しかけていたものを見た。そこには宝石であろう原石が埋まっていた。大きな魔石にはユリウスの魔力が並々と入っているのだろう。栄養ドリンクのように注がれている。

 なるほど資金元はこの宝石の原石なのだ。リアは落ちていた小さなカケラを拾い持ち帰った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す

MIRICO
恋愛
オレリアは幼馴染に失恋したのを機に、薬学魔法士になるため、都の学院に通うことにした。 卒院の単位取得のために王宮の薬学研究所で働くことになったが、幼馴染が騎士として働いていた。しかも、幼馴染の恋人も侍女として王宮にいる。 二人が一緒にいるのを見るのはつらい。しかし、幼馴染はオレリアをやたら構ってくる。そのせいか、恋人同士を邪魔する嫌な女と噂された。その上、オレリアが案内した植物園で、相手の子が怪我をしてしまい、殺そうとしたまで言われてしまう。 私は何もしていないのに。 そんなオレリアを助けてくれたのは、ボサボサ頭と髭面の、薬学研究所の局長。実は王の甥で、第二継承権を持った、美丈夫で、女性たちから大人気と言われる人だった。 ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。 お返事ネタバレになりそうなので、申し訳ありませんが控えさせていただきます。 ちゃんと読んでおります。ありがとうございます。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

さっさと離婚したらどうですか?

杉本凪咲
恋愛
完璧な私を疎んだ妹は、ある日私を階段から突き落とした。 しかしそれが転機となり、私に幸運が舞い込んでくる……

処理中です...