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シンの事情 Ⅲ

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「ユリウス…?」

「今日からお前たちは私の奴隷だ。刑期なんてないようなもんだと思ってくれ」
 男の言葉に女達はガヤガヤと騒ぎ出す。

「まぁ落ち着いて聞いてくれ。キレイな部屋とベッドに美味しい食事付きだ。キレイな女にはドレスも買ってやろう。悪くないだろう?」
 男は女達に説明をした。訳が分からなかった。

「おまえの刑期を言ってみろ」
 男はひとりの罪人を指さして言った。

「わ、わたし?ゴールドが5キロだよ」
「なんだ、そんなものか…おまえは?」
「ダイヤが50グラムだ」
「ふん、おまえは?」
「ゴールドが10キロ」
「おまえは?」
「ダイヤが80グラムだよ」
「どいつもこいつも対した事ないな」
 男はつまらなさそうに肘を付き、見張りの男に指示を出した。

「水色は右だ。あとは左だ」
「は!」
 男がそう言うと先ほどまでヘラヘラとしていた見張りは背筋を正し、女達を誘導した。
 シンは他の罪人達と離れてしまった。

 ひとりになったシンは別の部屋に通された。そこには数人の女が控えていた。
「今日はこの女だけだ。頼むぞ」
「分かりました」
 女達はシンを取り囲み、服を脱がせ裸にした。
「何をする!やめてくれ」
「大丈夫よ。体を清めるだけ」
「清める?」
「あなたは元貴族?やはり所作が違うわね。とびっきりの物を用意しましょう」
「何を言っている?」
「すぐに分かるわ」
 シンはこの数ヶ月の垢を全身洗い落とさされ以前のような白い肌が露わになった。
「やはり美しいわ」
 短くなった髪にウィッグ付けられ胸元が大きく開いたゴールドのドレスを着せられた。キレイにメイクをされ、イヤリングやネックレスに指輪を付けられて以前の美しいシンフォニーに戻った。

 シンは女達に連れられて大広間に通された。そこにはひとり大きなテーブルに付いた先ほどの男がいた。
「やはり君は美しいな。君は僕の昔の婚約者に似ている」
「これはどういう趣向ですか?」
「まぁ食事をしようよ。お腹が空いているだろう」
 目の前には豪華な食事がどんどん出て来た。男はパクパクと食べている。

「美味しいよ?食べないのかい?毒なんて入ってないから」
 と、笑っている。

 シンは黙って食べた。お腹は減っていたし毒が入っていたってどうでもよかった。そして最後にはコーヒーとデザートが出て来た。
「僕はコーヒーなんて下品な飲み物と思っていたんだよ。でもとても美味しいし甘いものと合うよね」
 男はゆっくりとコーヒーを飲み干しシンに向かい合った。

「君は元貴族なのかな?その美しい所作はどこで身に着けたの?」
「モグリベルの城ですわ、ユリウス。お忘れなのかしら?」
「あれ?やっぱりシンフォニー?似ていると思ったんだ。アハハ」
 やはり、ユリウスだった。

「ユリウスこれはどういう事なの?あなたはこの国でなにを?しかもこんな城みたいな…」
「処刑されたと聞いたのに生きていたんだね。君に会えて嬉しいよ。君は僕を完璧に騙したんだからね」
 冷たい視線にゾクリとした。
「そ、それは申し訳ございません。あなたに捨てられるのが怖かったのよ。もう許して下さらない?」
 シンは以前のユリウスではないと悟り、生意気な口を利くのを控えた。

「まあ、もう昔の事だしね。君のおかげで僕はあのモグリベルから解放されたし能力も開花させる事が出来た。感謝するよ」
「開花?」
「そうだよ。不思議だよね。あのままモグリベルにいたら僕は国王になっていたけど、この快感は得られなかった。そして僕は自力で一国一城の主になった」
 ユリウスは自分に酔っているようだった。

「君は僕の妻になるんだ。そして一緒にこの国を大きくしよう。君がいればとても有利に事が運ぶだろう」
「…」
 シンはユリウスが何を考えているのか分からない。とても正気の沙汰とは思えない。

「近く僕は独立を宣言するよ。名はユリウスアイランド、なんてどう?」
「ダサいわ」
「やっぱり?皆から反対されるんだけど…じゃあ君が考えて」

「え?急に言われても…」
 シンはユリウスが考えた名で活動するのは嫌だった。それならばと考えを巡らせた。

「ブロンエクレトン」

「なんてどうかしら?」
「へぇいいね。なんて意味だい?」
「輝くような白よ」
「素敵だ」

「このアンバーはブロンエクレトンとなるんだ」

 
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