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ふたりの王子 ー発見

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「はあ、ベルナル。帰ろうぜ。俺は病むぞ」
「そうだな、兎に角寒い。スープパスタが食べたい」
「同感」
 アリアナは家族とは合流してはいない。これ以上はベルナルもコルクスの精神が崩壊しそうだった。幸せな男爵家族は末っ子三女の結婚を素直に喜んでいた。自営の稼業の事もあったのだろうが末っ子の花嫁姿を楽しみにしていたのである。
 それが婚約破棄のうえ魔の森に置き去り、行方知れず、陛下が戻られる数日間とはいえ、家族もろとも罪人扱い、幸せの絶頂から奈落の底に落とされたのだ。そしてベルナルはその当事者だった。命令とはいえ自分のした事への罪に心が潰されそうだった。

 ふたりの王子は元カビラ家の家を脱出しスープパスタ屋で温まる事にした。温かいスープは罪悪感に支配されたベルナルの心に火を灯した。ベルナルは王都でアリアナを積極的に探していた。しかし、モダンの街ではそんな気分ではなくなった。

「コルクス、お前この閉ざされたモダンで何やってたんだ。茶葉屋にも行ってなかっただろう」
「ベルナル、俺は家族がいるんだぞ?家族の為に金を稼いでいたに決まっているだろう」
「金は王家から振り込まれているだろう」
「それは別の話だ」
「そうかよ。どうやって稼いでた?」
「業務ギルドって知っているか?俺は錬金や魔術に詳しいからポーションの作り方を伝授していたのさ」
「そんなの金になるのか?」
「ポーションを作って商人ギルドで取引したいんだろう」
「お前がポーションを作って売ればいいだろう。なぜ教えるんだ」
「ポーションを作れる若者が今不足しているんだ。モグリベルだってポーションを遠くから輸入しているだろう」
「じゃあモグリベルで教えろよ」
「モグリベルは業務ギルドなんてない。モグリベルは遅れている。今のままじゃあシシリアキングスに吸収されるだろうな」
「…まさか」
 ベルナルは確かにシシリアキングスと比べると色々と遅れている事は否めなかった。

 ユグンからアンバーの街道はしばらく開通する事はないらしい。距離があるので仕方がない事だが、ベルナルは暇を弄んでいた。コルクスは教室があるからと別れた。コルクスが講師をしている姿に興味が出て来たベルナルは業務ギルドに向かうことを思い付く。コルクスがどんな事をしているのか気になったのだ。

「なにかお探しですか?」
 受付の女性に話しかけられた。
「いえ、友人が講師をしているらしいので見学させてもらおうと思ったのですが…」
「そうですか。事前に言って頂ければよかったですけど、講師からの紹介もないのでお入れする訳には参りません」
「なるほど、そうですね。すいません」
「いえ」
「沢山の教室があるんですね」
  業務ギルドの中にあるボードには沢山の教室の宣伝用に作られたチラシが貼ってあった。
「お仕事をお探しですか?何かの教室をお求めですか?お仕事でしたら、なにか自信がある職種がございましたら、力になれるかもしれませんよ」
「いや…俺は兵士崩れだから」
「では、剣術とか得意なのでは?」
「まあ、少しは…」
「剣術も人気ですよ。ライバルが多いですが人気の講師になったら独立なんて出来ますからね」
「へぇ、それはすごいなぁ」
「お客様は見目麗しいので人気がでそうですね」
「ハハ、見た目と剣術は関係でしょう」
「女性限定の剣術ではどうでしょう!?」

 などと明るい職員の女性と話をしていた。その時、ひとつの教室が終わり多くの女性が退出して来た。ベルナルはコルクスの教室かと思ったが華やかな女性が多い事に気が付いて、コルクスの教室ではないと思って端に寄った。
 そして、きゃあきゃあと数人と女性に囲まれたひと際目立つ女性が最後に出てきた。
「シン先生、また来週伺います」と、周りの女性たちが代わる代わる礼を言っている。
「ええ、皆さんまた来週に」
 にこやかにお礼を言っている水色の髪のひと際目立つ美しい女性にベルナルは見覚えがあった。それは紛れもなく、あのシンフォニー・クローリーだった。

「シンフォニー・クローリー!?」
 思わず、ベルナルは叫んでいた。
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