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ある女
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誰に看取られる事もなくひとりの女が処刑された。と、ある日のモグリベルの歴史の書に記載された。女のヴァナも処分され女は抹消された。
女の名はシンフォニー・クローリー
今世紀最大の悪女として世に名をとどろかせた女だ。
シンフォニーは処刑されるその日が来る事をただひたすらに待つしかない地獄のような日々を過ごしていた。
そして等々その時がきた。数人の騎士と国王がシンフォニーのいる牢へと現れた。あれから随分と日にちが経っていた。シンフォニーは処刑のその日を見届ける為に訪れた国王に最後のあがきを見せた。
「陛下、出過ぎた事をお許しください。どうかどうか…」
「お主はわしを軽んじた。国のトップのわしの上を行こうとしたのじゃ。許されると思うか?」
「申し訳ございません。申し訳ございません」
「アリアナが魔の森に置き去りにされてからもう1ヶ月だ。まだ見つからぬ。そしてユリウスは国を出た。お主の家族は平民に落とされ隣国に亡命し行方知れずじゃ。隣国のお主の見合い相手にも謝罪、お主はわしに、とんでもなく恥をかかせてくれたのぉ」
「申し訳ございません…どうか、ご慈悲を…」
シンフォニーは震える。
ゲッソリと痩せ、髪も恰好も囚われた時からそのままの状態が続き、ボサボサの頭で学園一の美女で秀才の面影はまったくなかった。
「シンフォニー、君のヴァナはすでに処分した。君はこの世には存在しない」
「陛下…」
「最後の情けだ」
「え?」
「ここのカギを1日かけ忘れる事にする。何処へでも行くがいい」
陛下はガチャリと何かを落として騎士と共に去った。
そこには残されたシンフォニーと見張りの兵士がいる。しかし扉は開いている。陛下が落とした包みを拾って見ると金貨と銀貨が数枚入っていた。そして見張りの兵士がバサリと使い込まれた汚れたローブを投げて寄越した。シンフォニーはローブを羽織ると牢を出た。遠くの方で陛下と騎士の数人がこちらを見ている。シンフォニーは頭を下げ、走り去った。
「陛下、よかったのですか?」
騎士のひとりが陛下に問う。
「後を付けてどうなったか見届けろ。城の外に出れば、今までの様に誰が守ってくれる事はあるまい。そして悪い奴らなんて五万といる」
「見届けるだけですか」
「見届けるだけじゃ」
「承知しました」
シンフォニーは平民の暮らしなどした事はなかった。しかし、賢いシンフォニーはヴァナがないとどうなる事になるかも分かっていた。
城を出たシンフォニーは誰もいない事を確認し、国王が落とした巾着袋の中身を確認した。金貨3枚に銀貨5枚だ。
シンフォニーは王子の婚約者を亡き者にしようとした悪女だと、絵姿ごと新聞に記載されて大スキャンダルとして国民に知らされている。憎まれ者のシンフォニーはモグリベルの王都ではなにをされるか分からない。モグリベルから出た方がいいだろうと考えた。
シンフォニーは王都の繁華街を避け、あまり流行っていない古着屋に入る。ドレスと髪飾りを売ると男性物の衣服を選んで買った。店でナイフを借り、その場で長い髪を肩まで切った。髪は女の命である。シンフォニーは生きる事を望み、生きる手段として髪を切ったのだ。
古着屋の女主人はゲッソリとした女をシンフォニーとは気が付かず、訳アリ女だと察した。
「あんた追われているのかい?なにしたのさ」
古着屋のおかみが問いかける。
「別に兵士から逃げている訳ではないわ。ちょっとしくじっただけよ」
「そのキレイな巻き毛の水色の髪、どうするんだい?買い取ろうか?」
「これも買い取ってくれるの?」
「こんなキレイな髪ならカツラ用に売れるさ。銀貨2枚でどうだい」
「お金が必要なの。銀貨3枚にしてくれない?」
「仕方ないね。銀貨3枚だ」
「ありがとう、助かる」
「美人だねぇ、男紹介しようか?」
「隣国に行きたいの。どうすればいい」
「隣国かい?駅馬車で行けば5日で着くよ。銀貨5枚くらいじゃなかったかねぇ。自分で食料を持っていかないと1日に1回、少量のパンと干し肉しか渡して貰えないよ」
「ありがとう、食料と飲み物を持っていけばいいのね」
ドレスと髪飾りで男の衣服を買ったとしてもお釣りが来た。食料と飲み物も確保をして駅馬車まで急いだ。短くなった髪は後ろで縛り、ゲッソリとした見た目に化粧っけのない顔はちょっと影のある美形の男に見えた。
女の名はシンフォニー・クローリー
今世紀最大の悪女として世に名をとどろかせた女だ。
シンフォニーは処刑されるその日が来る事をただひたすらに待つしかない地獄のような日々を過ごしていた。
そして等々その時がきた。数人の騎士と国王がシンフォニーのいる牢へと現れた。あれから随分と日にちが経っていた。シンフォニーは処刑のその日を見届ける為に訪れた国王に最後のあがきを見せた。
「陛下、出過ぎた事をお許しください。どうかどうか…」
「お主はわしを軽んじた。国のトップのわしの上を行こうとしたのじゃ。許されると思うか?」
「申し訳ございません。申し訳ございません」
「アリアナが魔の森に置き去りにされてからもう1ヶ月だ。まだ見つからぬ。そしてユリウスは国を出た。お主の家族は平民に落とされ隣国に亡命し行方知れずじゃ。隣国のお主の見合い相手にも謝罪、お主はわしに、とんでもなく恥をかかせてくれたのぉ」
「申し訳ございません…どうか、ご慈悲を…」
シンフォニーは震える。
ゲッソリと痩せ、髪も恰好も囚われた時からそのままの状態が続き、ボサボサの頭で学園一の美女で秀才の面影はまったくなかった。
「シンフォニー、君のヴァナはすでに処分した。君はこの世には存在しない」
「陛下…」
「最後の情けだ」
「え?」
「ここのカギを1日かけ忘れる事にする。何処へでも行くがいい」
陛下はガチャリと何かを落として騎士と共に去った。
そこには残されたシンフォニーと見張りの兵士がいる。しかし扉は開いている。陛下が落とした包みを拾って見ると金貨と銀貨が数枚入っていた。そして見張りの兵士がバサリと使い込まれた汚れたローブを投げて寄越した。シンフォニーはローブを羽織ると牢を出た。遠くの方で陛下と騎士の数人がこちらを見ている。シンフォニーは頭を下げ、走り去った。
「陛下、よかったのですか?」
騎士のひとりが陛下に問う。
「後を付けてどうなったか見届けろ。城の外に出れば、今までの様に誰が守ってくれる事はあるまい。そして悪い奴らなんて五万といる」
「見届けるだけですか」
「見届けるだけじゃ」
「承知しました」
シンフォニーは平民の暮らしなどした事はなかった。しかし、賢いシンフォニーはヴァナがないとどうなる事になるかも分かっていた。
城を出たシンフォニーは誰もいない事を確認し、国王が落とした巾着袋の中身を確認した。金貨3枚に銀貨5枚だ。
シンフォニーは王子の婚約者を亡き者にしようとした悪女だと、絵姿ごと新聞に記載されて大スキャンダルとして国民に知らされている。憎まれ者のシンフォニーはモグリベルの王都ではなにをされるか分からない。モグリベルから出た方がいいだろうと考えた。
シンフォニーは王都の繁華街を避け、あまり流行っていない古着屋に入る。ドレスと髪飾りを売ると男性物の衣服を選んで買った。店でナイフを借り、その場で長い髪を肩まで切った。髪は女の命である。シンフォニーは生きる事を望み、生きる手段として髪を切ったのだ。
古着屋の女主人はゲッソリとした女をシンフォニーとは気が付かず、訳アリ女だと察した。
「あんた追われているのかい?なにしたのさ」
古着屋のおかみが問いかける。
「別に兵士から逃げている訳ではないわ。ちょっとしくじっただけよ」
「そのキレイな巻き毛の水色の髪、どうするんだい?買い取ろうか?」
「これも買い取ってくれるの?」
「こんなキレイな髪ならカツラ用に売れるさ。銀貨2枚でどうだい」
「お金が必要なの。銀貨3枚にしてくれない?」
「仕方ないね。銀貨3枚だ」
「ありがとう、助かる」
「美人だねぇ、男紹介しようか?」
「隣国に行きたいの。どうすればいい」
「隣国かい?駅馬車で行けば5日で着くよ。銀貨5枚くらいじゃなかったかねぇ。自分で食料を持っていかないと1日に1回、少量のパンと干し肉しか渡して貰えないよ」
「ありがとう、食料と飲み物を持っていけばいいのね」
ドレスと髪飾りで男の衣服を買ったとしてもお釣りが来た。食料と飲み物も確保をして駅馬車まで急いだ。短くなった髪は後ろで縛り、ゲッソリとした見た目に化粧っけのない顔はちょっと影のある美形の男に見えた。
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