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「何をしている?」
 騒がしかったのか他の男性職員が話しかけてきた。女性職員は慌てて言った。
「いえ、何でもありません。大丈夫です」
「大丈夫ではありません。この人が私の作成した魔法円を売れない欠陥品だからと返してくれないんです。売れないのなら持って帰りたいんですけど」
「またか…取引出来ない商品は取引相手に返却するよう取り決めをしたばかりだろう。私に見せなさい」
「…」
 女性職員はリアを睨みつつ魔法円を男性職員に渡した。
「ふむ…これで全部かね?5枚?」
「はい」
「どれも丁寧に書かれていますよ。取引は初めてのようですが、とくに問題ないようです。全部買い取らせて頂きますよ。まだまだ粗削りですが十分に売り物になります。1枚200ルーでどうでしょうか。全部で1,000ルーです。大銅貨1枚ですね。これに懲りずにまた作成したらぜひ持ってきて頂きたいです。魔法円は1枚が最高1,500ルーで取引させて頂いく事もいますから。それと今回の非礼はお詫びいたします。ですので今回は不快にさせたお詫びに大銅貨3枚で取引させて頂けませんでしょうか?」
 眼鏡を掛けたインテリ風の男性職員は頭を下げた。これで終わりにしてくれと言う事だろう。
 チラリと先ほどの女性職員を見ると、下を向いて顔を真っ赤にしている。
「今回の件はきちんと処分の対象にさせます。職員の中にはどうやらあなたのように、若く控え目な新人に不当な言いがかりをして魔法円を奪い、自分の懐に入れている者がいるようです。このような事を無くすように動いてはいますがなかなか無くならない。本当にお恥ずかしい限りです」
「事情はわかりました。それでいいです」
「ありがとうございます」
 ヴァイで取引を終えると女性職員はすでにいなかった。


 ちょっといやな気分にはなかったが、自分の作成した魔法円が売れた事は嬉しかった。大銅貨1枚の価値だけど、1枚に2時間掛かった物だけど、これからいい魔法円を作れるようにするし。魔法円でケチが付いてしまったが素材のおかげで思いのほか冬の支度の軍資金が入った。リアは気分よく買い出しに出かけた。

 冬の支度の他に魔法円に必要な紙やインクを買いに行った。行った先は魔法専門街、魔法に関する物や魔術具作成に必要な物が売っている専門街だ。魔法円は羊皮紙にインクが必要になる。束で羊皮紙を買い、冬には籠って練習するつもりなのでいるのでインクは瓶ごと買った。3万ルーもした。インクは高価な為一般では自分の瓶を持っていその瓶に入れてもらうのだ。軍資金がたんまりとあるのでそこは気にしないようにした。店にはキレイなガラスペンがずらりと並んでいる。高価なものや安値のものまである。
 魔法円や陣を描くにはガラスペンが使用される。ガラスペンにインクを通し自身の魔力を半分混ぜて描くのだ。うまく混合させキレイに描く事が出来れば虹色になる。虹色の魔法円は高額だ。そこまでうまく描けれるのであれば魔法陣を描いた方が利益はいいだろう。虹色の魔法円なんて高すぎて逆に売れない。

 ガラスペンの購入は今回は保留だ。ハウスには古いものではあるがアルディが使っていたガラスペンが山ほどある。うまく描けれるようになれば買ってもいい。

 食べ物や調味料や文具、コートや下着にと色々と買い込んだ。以前泊まった宿に向かう。予約はお昼に済ましていたので問題ない。5日ほど滞在予定だ。まだまだ買いたい物がある。雪が降る前に森に戻ればいいのだ。

 リアは5日滞在すると決めた時に家族を探そうと考えた。シシリーにいるのか、シシリーから出て次の街に向かっていたら来年の春はシシリーの次の街アンバーに向かう事になる。きっとモジャも一緒に行ってくれるだろう。

 探すにしても手掛かりがない。貴族籍を抜いたからと自身で作ったヴァナは没収されたりはしない。だからリアのように新しくヴァイに作り直していたりしていないはずだ。しかし、元貴族とバレないように名前を変えている事はあるだろう。
 どうやって探すのかリアには分からなかった。
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