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第21話  数学

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カカカカッと黒板にチョークで数字を書き込む音が耳を傾けずとも入ってくる。

「ここはこうだからな。この不等式は簡単だからみんな大丈夫だと思うが・・」

 教壇に立っている数学教師が前置きをして不等式の生徒達に向けて行う。

 う~ん。

 俺は心中でうめき声に似た声を出す。

 それはなぜか。それは至って単純な
理由だ。俺の数学能力が最底辺だから。俺は数学が大の苦手であり大嫌いである。そのため、教師が説明していることはほとんど理解できない。なんだよ、不等式って。名称は知っているけど、計算なんかできねぇよ。

 どうにもならないことを心中で愚痴る。そうしている間にも、教師は黒板に補足事項を書き込みながら説明を続けている。全くわからない。

 理解できないにしても記録はしておくべきだと、本能が言っているのか。とりあえず、板書に書かれた数式をボールペンを使ってノートに書き込む。書き込んだとしても法則の1つも読み取ることはできないが、バカの1つ覚えといった形のようにノートにひたすら
コピーするように書き留める。

 そして、説明が終わり、次の問題の説明が行われる。また、板書に書かれたものをアレンジせず、ノートに丸写しする。これの繰り返しで毎回、俺は授業を終える形となる。幸いのことに、この教師は生徒を当てて問題を回答させるようなことはしないので、クラスメイト全員の前で、問題を間違えて恥ずかしい思いをすることはない。それが唯一の救いである。これがあったら俺のメンタルは多分、もたないだろう。

 そのようなことを考えながら同じような作業を行っていると。

『キーンコーンカーンコーン』

 チャイム音が教室の中で響き渡る。

「よーし。今日はここまで。お疲れさん」

 数学Ⅱの授業はこれで終了した。

      ・・・

 俺は帰りのホームルーム終了後、帰りの支度を早々と済ませる。

 その後、後ろの戸から教室を出ると、廊下を歩いて職員室に向かう。

 職員室の前に着くなり、戸を開けながら「失礼します」と断りをいれるなり、室内に入室する。

 入室するや否や、俺は数学教師が着席する机まで歩を進めるなり声を掛ける。「すいません」と。

 そして、7時間目で説明していた問題の答えについて、なぜそうなるのかということを詳しく教えてもらうため、ご教授をお願いする。

 すると、先生はその問題について教えてくれた。しかし、先生も忙しいのか。急ぎ足で簡単に説明をされた気がした。そのためなのか、俺の数学能力の低さなのか、まったくと言っていいほど理解できないのであった。

 わかったこととしては、その問題の回答だけである。こんなものノートを見ればすぐわかることである。

 わからなかったと正直に自白すれば良かったかもしれないが、先生から"わかっただ"オーラが嫌なほど醸し出されていたため、言い出すことができなかった。

 しかし、人のせいにはしてはいけない。理解力が乏しい俺にも責任があるのだから。

 そう自分の心に言い聞かせるも、一方で"これからどうしようか"という悩みも脳裏に同時並行で浮かび上がる。

 とにかく中間テストまで放課後は教室で勉強だな。

 そう決心した頃には教室の目の前に俺は来ていた。

 そのまま流れに任せるように教室内に入室する。

 教室に入ると、珍しいか珍しくないのか。教室には誰も生徒が存在しなかった。まぁ、勉強するには好都合か。

 そのような考えを抱きながら、俺の席がある場所に歩み寄ると、そのまま着席する。

 その後、すぐに薄い板状の学生カバンを開くと、中から数学Ⅱの教科書を取り出す。

 取り出すなり、いち早く学習に励む。

 勉強を始めて30分は経過しただろうか。答えがわかった問題は3問。笑えるレベルである。壊滅的に進んでいない。

「ああー」

 思わず大きな声を出しながら、机に頭を突っ伏す。今回のテストでは、赤点ギリギリを回避しなければ。だが、このままでは赤点
まっしぐらだ。

「どうしたの赤森君?頭なんか突っ伏して」

 聞きなれた声が耳の中の鼓膜を刺激する。

 俺はハッとして机から顔を上部に上げる。顔を上げると、教室の様相が視界に
拡がる。

 その瞬時に、教室の入り口付近で佇んでいる朝本さんを視認できる。朝本さんは笑顔で俺に微笑みかけてきている。

「い、いやっ」

 誰もいない仮定で教室にいたので、朝本さんに声を掛けられても、上手く言葉を返せない。これが、コミュ障というやつか?

 朝本さんは沈黙したまま俺の机の元まで歩み寄って来ると、腰を折り曲げながら机に置いてある数Ⅱの教科書を上から覗き見る。

「数学勉強しているんだ?テスト勉強」

 朝本さんは俺にそう疑問を投げ掛ける。

「うん」

 返事をしながら俺は首肯する。

「真面目だね赤森君。」

 朝本さんは俺の反応を見ると、俺を笑いながら褒めてくれる。

「そんなことないよ」

 褒められることになれてないのか、それとも照れ臭いのか。平凡などうでもいい言葉しか返せない。

「実は、俺数学が苦手なんだ。それで、残って勉強しているんだ」

 自分でもわからないが。なぜか朝本さんに勉強ている事情を述べていた。誰かに救けでも求めていたのか。

「そうなんだ。どのくらいわからないの?」

 レベルを確認するため、朝本さんは確認をしてくる。

「どのくらいかは正確にわからないけど。今日の数学の授業の内容は全然わからなかったよ」

 正直に返答する。事実だからね。

「なるほどね・・」

 朝本さんはそうつぶやくと顎に人差し指を当てながら考えるしぐさをする。

 少しすると、朝本さんは俺の顔に視線を向ける。

「じゃあ、私が教えようか?」

 朝本さんは突然、そのようなことを俺に提案してきたのだった。 
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