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第13話 一緒に登校

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「宏君ー!」

 そんな声が聞こえた・・。気がする。

 
 俺は今現在、自分の部屋にあるベッドで寝転がっている。

 いわゆる寝ている状態だ。


「宏君ー!そろそろ起きないと学校に遅刻するわよ」

 ドアを開けて俺の部屋に入って来た人物がベットに足を運んで近寄るや俺の体を上下に揺する。やっているのはお母さんだろう。

「もうちょっと」

 俺は体を揺すられながらも寝返りを打つ。まるで抵抗するかのように。しょうがない。眠気が強いのだ。

「宏君が起きてくれないわね」

 お母さんはそうつぶやく。もう少し寝れそうだ。

「私も今日、朝早かったし宏君と寝ようかな!」

 ん?なんか俺が寝ている横がごそごそとしているのだが。

 俺は再度寝返りを打ち眠い瞼を無理やり開けてごそごそとした自分の横を確認する。

「えっ。お母さん!何してるの?」

 確認するとお母さんが俺の横で体を傾かせて添い寝をしていたのだ。俺はその光景を目にしたことで驚きのあまり目が醒める。

「なにって、宏君の隣で寝ているだけよ」

 お母さんは何気ないように返答してくる。てか、距離が近い。

「俺はもう子供じゃないんだよ。隣で寝ないでよ!」

 俺は怪訝な顔をしてお母さんを軽くたしなめる。

「そんなこと言っちゃって、宏君は私の立派なかわいい子供よ」

 お母さんは笑顔でそう言うと俺の体を抱き寄せる。俺の顔がお母さんの胸にうずめる形になる。

「ち、ちょっと。お母さん!」

 突然の出来事に驚く。

「ふふっ。宏君、今日は学校を休んで一緒に寝てもいいのよー?」

 お母さんは腕に力を込めて俺を抱きしめる。抱きしめた際にお母さんの豊満な胸が俺の額にぼよんっと当たる感触が伝わる。本当に勘弁してほしい。

 この後、2分ぐらいして俺が、「学校に遅刻するから」と伝えるとやっと解放してもらえた。長かった。

 俺は自分の部屋がある2階からリビングのある1階に降りると、お母さんが用意してくれた朝食を摂る。ちなみに今日の朝食は長ネギや油揚げが入ったみそ汁に温かいご飯。その上、おかずとしてベーコンがあった。

 朝食を食べ終わると学校の制服に着替えて歯を磨く。歯を磨き終わると、自分の部屋がある2階に上がり今日の授業の支度をする。

 ピーンポーン。

 
 俺がカバンの中に教材を入れている真っ只中、インターホンの鳴る音がする。「はーい」というお母さんの声が耳に入ってくる。誰だろう?近所の住人の人とかかな。

「あら、もしかしてあなた香恋ちゃん。久しぶりねー」

 お母さんの上機嫌な声が2階の俺の部屋まで聞こえてくる。なんでそんな上機嫌な声が出るんだよ。うん?ちょっと待て。香恋ちゃん?まさかな。

「宏君ー。香恋ちゃんが来てくれたわよー」

 お母さんに1階から声をかけられる。

「はーい」

 俺は返事をすると半信半疑ながら自分の部屋を出て下の階に向かう。

 階段から降りるとすぐに廊下が存在するので自動的に靴箱のある玄関も目に
入ってくる。

 そこにはさらさらな鮮度抜群なピンク色のボブヘアーに学校の制服を身に纏った女の子がいた。

「お、おはよう。敦宏」

 玄関にいる香恋が挨拶をしてくる。やはり俺の想像は当たっていた。

「お、おはよう香恋」

 俺は普段の堂々とした口調ではなく歯切れの悪い香恋の口調に釣られたのか俺も歯切れの悪い挨拶をしてしまう。多分それだけが原因ではないと思うけど。

「で、なんで家に来てるの?」

 俺は率直な疑問を口にする。当たり前だ。香恋が俺の家に来る理由なんてないに等しいからな。それに、もしあっても俺にはわからない。

「い・・一緒に学校まで行くからよ」

「はい?」

 想像もしていない答えが香恋から帰ってきた。そう言った香恋の頬は少し赤く紅潮していた。

「なんで俺と?」

 思わずそう聞き返してしまう。

「な!?そ、それは・・」

 香恋はそれだけ言うと俯き視線を俺から逸らして口ごもってしまう。どうしたの香恋?

「と、とにかく一緒に行くわよ!」

 香恋はそう言うと俺の腕を強引に思いっきり引く。

「ち、ちょっと待って香恋。まだ靴履いてないからー!」

 俺が靴を履いていないのに無理やり腕を引っ張って外に連れて行こうとするので言葉で制止させるために必死に訴えかける。

 この後、すぐに靴を履いて香恋と一緒に家を出た。カバンは1階に降りてくるときに持っておりていたので靴を履いてすぐに家を出ることができた。てか、なんでお母さんは俺達の掛け合いを黙って温かい目で見ていたんだろう。温かい目で見る光景ではなかったと思うけど。

        ・・・

 俺と香恋は学校に行くために住宅地の通りを肩を並べて歩いている。

「それにしてもいきなり家に来るなんて驚いた」

 俺はあのときの自分の感情を率直に口にする。

「なにを驚いてるのよ。昔はよくやってたじゃない」

 香恋は呆れた顔をしながらそのようなことを口にする。いやいや、昔はやってたっていつの頃の話?それ多分小学生のときの話だよね。確かに小学生のときまではそんなことを香恋は良くしてたけど。今、俺達、高校生だよ。しかも、ここ最近まで会話すらしてなかったんだよ?

 俺の感情など露知らずであろう香恋は堂々とした足取りで俺の横を歩いている。足取りは俺と同じくらいのスピードで進んでいるように見える。俺は足取りを合わせているつもりはない。香恋も同じように見える。2人の歩幅も違うだろう。なのに同じくらいのスピード。これは幼馴染だからだろうか。

 まあ、このことはさておき俺と香恋は他愛もない会話をしながら住宅地の道を歩く。

「それにしても香恋と話すのは楽しいな」

 俺は意識せずにそのような言葉をぼやいていた。中学校に上がってからずっと疎遠で今日みたいに話す機会がなかったからこそ出た言葉だろう。

「な、なに言ってるのよ。あんたこんな他愛のない会話をしているだけで楽しいわけ?私は楽しくないわよ」

 香恋はそう言いながらも頬を赤く紅潮させて歯切れが悪い言葉を返す。

 
 俺は香恋の言葉を聞いて「こんな掛け合い昔やってたな」と思い出して懐かしい気持ちになる。

「ねえ、敦宏」

「なに?」

 なんか香恋の声音が先ほどより冷たくなった気がする。気のせいかな。

「あんた、昨日一緒にいた子にもそんなこと言ってるんじゃないでしょうね?」

 香恋はやや鋭い眼光で俺を見て聞いてくる。

「い、言ってないよ」

 香恋の気迫に押されて歯切れの悪い返答をしてしまう。

「本当でしょうね」

 香恋は疑うように俺の顔に顔を接近させて俺の目を覗きこんでくる。鼻と鼻が触れるくらいの距離に香恋の顔がある。ち、近い。

「う、うん」

 香恋の顔がすぐ近くにありながら俺は首を縦に振る。香恋の顔がこの距離になってからなんか体が熱い。

「そう」

 俺の言葉と態度を確認して顔を離す香恋。離れたことで少し距離ができる。いやー、本当に近かった。

「確かに、言ってること本当そうね」

 香恋の言葉にホッとした表情を浮かべる俺。

「あと、昨日いた女の子について詳しく教えて教えてもらうから」

「え、なんでそうなるの?」

 俺は咄嗟にそのような言葉が出る。

「忘れてんじゃないわよ!昨日そう言ったじゃない!」

 昨日?・・げっ、確かに昨日言ってたな。完全に忘れてた。

「だから、昨日言ったように同じクラスの・・」

「もっと詳しく」

 俺の言葉を遮る香恋。睨めつけるような目で俺を見てくる。怖いよ。

 この後、俺は学校に向かいながら香恋に俺が知ってる朝本さんについてのことを香恋に話した。
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