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上司からの勧告。(2019年2月中旬)

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 私の仕事は「書店から返されてきた本を出版社へ送り返す」というものを行なっている。
例えで言うと、売り場に置くことのできない消費期限切れの食品の回収する業者だ。回収して数量計測を行い各品の担当業者へ送り出す、そんな仕事をしている。

 …へ?それじゃ分からない?
 それは申し訳ない。そしたらアレだ、本編の【書店ダンナと取次ヨメコ】の前半をザクッと見てください。説明だけで長くなっちゃうんで。

 この日は翌日発送の仕事が終わり、書類不備のあった本を書店へ返送するための作業を始めたところだった。
「如月、ちょっと休憩室」
 有無を言わせぬ気配を持った上司が口早にそう言って、廊下の方へ顎をいなす。
 当時、私は周囲の細かい音もやたらと気にしやすくなっていたため、カナル型のシリコン耳栓を嵌めて仕事をしていた。
ちょうどこの時は作業がひと段落していたこともあって、それを一度外していたのですぐに反応して頷き、ペンを置いた。
 部署からすぐ近くの休憩室へと向かうと、そこに居るのは上司だけ。十年以上顔を知っている相手とは言え、お呼び出しはやはり精神的にとてもクるものがある。
 私、何かしたっけか?今月入ってミスしてたって言われてるし…それだよな絶対……うわぁん、ごめんなさい。
「……如月さ、最近また眠ってるらしいな」
「え?」
 予想と違っていたお咎めの一言。しかも身に覚えが無いことで、思わず疑問符で返したら、上司が目を丸くした。
「お言葉ですが、私、寝てた覚えないですよ?」
「いや、でもな。最近また寝てるって報告が入ってるんだよ」

─また、というのは。この話を書き始めるよりもずっとずっと以前から私は眠っていることがあった。
 ただその頃の居眠りというのは、住んでいた場所に問題があって睡眠不足を起こしてたからなので、この件とは状況が異なる。

「そう言われても…。たまに何で声掛けられたか判らない時あるんですよね」
「声掛けられてるの?」
「ええ。[大丈夫?]って訊かれる事があるんですけど、別に何ともないし…なんかたまに手が重く思う事はありますけど」
「…如月、それ本気で言ってる?」
「はい」
自信と責任を持って頷いた私に、上司はしばらく首を傾げて何かを言い澱む。
怒っているというよりかは、言うべきかどうかを悩んでいる、と言うべきだろうか。
変な顔を続ける上司は何も言わず、私もどうしてそんな顔をされているのか判らずに黙るしかなく。気まず過ぎる沈黙に目を泳がせる。

「…お前、一度医者に見てもらった方が良いんじゃないか?」
仕事第一の上司から出たその一言は、あまりにも予想外だった。

「去年(2018年)の秋ぐらいに、[如月が立ったまま寝てた]って報告もあったんだよ」
 随分唐突な面白笑えない報告ですね。私初耳なんですけど。というかどんだけ器用だよ。
「さすがにそれは無いだろと思って流してたんだが……[大丈夫か?]って声掛けられてるのが不思議って、おかしいと思わないのか?」
「何ともないのに掛けられてる時点でおかしいと思ってますよ。よく分からないけど怒鳴られたこともありますし」
「……それは注意しておく。とりあえず、一度受診してきてもらえないか。じゃないと、こちらとしても相応の処遇をしないとならなくなる」
「……はい…?」

相応の処遇。臨時雇いの私に考えられるそれは、減給、別社へ左遷、最悪の場合は……そういうこと、だよな。
そこまで言われるということは、つまり自分ではわかっていないうちに日中の居眠りが多かったという事だ。

─ この上司、インフルエンザ発症して2日で出社してくる気合でどうにでもなる論を持つ、やや脳筋タイプ。
 如月が入社した当時に直属だった。
 何度か別の部署の役職持ちになった後に本社研修を挟んで、何の因果かまた直属上司となった人なのである。

 そんな「自身も他人も仕事人間であれ」を押し付けて来ていた人が病院受診を勧めて来るとは。

「……判りました。次の公休で行ってきます」
私の返答に頷いた上司が「報告は必ずな」と一言。部署へ戻って良いと言うように扉を開けてくれる。
耳栓を戻しながら自席について、雑誌のタイトルや価格を書面に書かれているものと合っているかの照合作業を再開する。
(終業まであと一時間無いし、残り作業終わったら明日作業分の仕分けしておこう)

そう思って作業を始めてまもなくして、ふと時計をまた見る。
(…あれ?)
おかしいな、さっき時計見てから十五分進んでる。周りが何を話していたかは聞こえてたし憶えてる。何でこの数分間の記憶が無いんだろう。
手元の作業は……全然進んでない。

なんで?自分で自分の行動が思い出せない。どういうこと?


寝て、た?


─文章で見ると嘘くさく感じるかもしれないが、コレが当時の如月の反応だった。
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