異状恋愛

記憶違いの女

10月21日 AM 3:16

来客を知らせるインターフォンが響く。 
数分前にマンションの前で挨拶を交わしたばかりの婚約者かと思い、時に気にも止める事なく扉を開ける。
「ーーーーっ！？」 
男の姿を見るなり抱きついて来たのは婚約者では無く、肉体関係に置いていた女の姿。 
「何でお前が居るんだっ…ここは教えていない筈だ！！」 
「何を…言っているの……？私に合鍵、くれたじゃない」 
微笑みを浮かべる女の言葉の意図が取れないまま差し出された手を恐る恐る見ると、紅く汚れた部屋の鍵が握られていた。 
「変な女に盗られて…取り返すの、大変だったんだから…」 

ー合鍵をくれた？ 
   盗られて取り返した？ 

一体何を口走っているのか男には皆目検討もつかず問い直そうとすると、片腕で抱きついた格好のまま手の中の鍵に見とれている女の髪から鉄のような臭いが香っていることに気付く。 
「此れからはずっと一緒なのよね？指輪もくれたんだもの」 
腕に力を込めてきた女が目の前へ左手を見せて笑う。嵌められているそれは数時間前に婚約者へ渡した物で、男は恐怖と混乱から女を突き飛ばし、簡易充電器へ繋がれた携帯を取ろうと女に背を向けリビングへと向かう。 
体制を崩して扉へ叩きつけられた女は奇妙な笑い声をあげながら立ち上がり鞄から何かを取り出すと、男に再度抱きついてきた。 
女に突きつけられた黒い物質からバツンッ！と音が響くと男は強電流の衝撃で意識を飛ばした。