EDGE LIFE

如月巽

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Case.03 Game

東都 北地区α 二月十九日 午後二時二十六分

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 黒地に金色のラインが施された商業施設へと目を向ければ、外壁のパネルスクリーンには件のゲームプロモーションが映し出されている。
 駐車場へ車を停めるなり飛び出すように降りた佐賀に、呆れ顔をした月原が煙草を車内灰皿へ落として扉を開き、疾斗も接続コードを外した携帯端末と共に広告を鞄へ放り込む。
「慌てなくてもロケテは逃げねーぞ、アキチビ」
「順番待ちが掛かるでしょ…っつか今チビって言いましたよね?!」
「しゃーねーだろ、実際一番チビだし」
「二人がデカすぎンですよ!」
「デカいって何がだ?身長タッパか、シモか?オレの見たことあんの、アキチビちゃんたらスケベだねェ」
「うっわ最低!ベタ寒ギャグにも程がある、ファンが泣きますよマジで!」
 際限なく続く言い争いに苦笑しドアロックを確認して辺りを見回せば、濃藍色のワンボックスに荷物を積んでいる見慣れた姿があった。
「疾斗ちゃんどーしたぁ?」
「あー…連絡が入ってたみたいだ」
 月原へ片手を上げて施設の方を指差しをすれば、同僚は頷いて揶揄に吠える佐賀を誘導して入口の方へと消えてゆく。
 二人の声が聞こえなくなった事を確認し、ワンボックスの方へと歩き出すと、荷物を積み終えた青年がこちらへと顔を上げた。
「やっぱり里央だったか」
「珍しいな、こんなトコでも撮影あるのか?」
「いや、今日は午前中だけ。桂馬は用があって先に。お前こそどうしたんだ?」
「パネルが一枚作動しなかったらしくてな。休みだった俺しか手空きが居なくて、休出扱いで点検してたんだよ」

映るゲームがこんな懐かしいモノとはな。

 笑いながら言う都築が見つめる視線の先、精悍な顔立ちで一目で主人公だと分かる姿の青年が、騎士の様な鎧をまとう双剣の女性へと勝負を仕掛けている。
滑らかなモーションで拳と剣の戦闘映像が暫し流れたかと思えば、そこから何種類ものキャラクターカットインが入り、一際強いフラッシュが閃くと一同の立ち絵と共にゲームタイトルが映された。
「…この後、予定は?」
「特に。久々のゲーセンを覗こうとは思ってたが」
「なら、付き合ってもらえないか?」
「何に」
 興味津々にスクリーンを見ていた都築の眼前へ、手元へ一枚余らせていた広告を掲げる。

 元々は桂馬へ渡そうとしたのだが、曖昧に困り笑った後輩は「皆で楽しんで欲しい」と言って返されたのだが、渡す相手もいなかったため、鞄へ入れていたのだ。

「……人数合わせか、組めって申し込みか?」
 翳した紙片を手に取り書かれた文をしばらく見つめ、都築が此方へと視線を落として苦笑し、眉を軽く寄せる。
 その返答を音なしに口角で返しながら、施設の入口へ向かい歩き出した。





**********


 口論の延長で様々な勝負をしていたらしい佐賀と月原を止めようと声を掛けたのだが、「クレーンゲームで一番景品を取った奴の言うことを聞く」と二人に巻き込まれた。
 結果としては仲裁役になった自分が大型の縫いぐるみを二つ獲ったことで、一つずつ獲得していた二人の口論は漸く収まり、件のゲーム筐体が置かれているフロアへと向かって行く。
「しかしまた何でわざわざ?プロモーション出てるなら稼働も近いだろうに」
「マスターの店の常連で声を当てた人がいるらしい。俺は替わりにやって来てくれと頼まれたんだ」
「俺らはそれの御相伴にあずかってプレイさせてもらうんですわ」
「納得。マスター、こういうのは疎そうだしな」
 笑いながらそう返し、都築は毛足が長く柔らかな動物の縫いぐるみを二つ入れたショルダービニールバックを肩に掛け直す。



Two-man Cellトゥーセル Battle Royalerバトロイヤー】 
略称・TBR

カプセル型ゲーム筐体は一人専用が主とされていた中、この筐体はメインで戦う[戦闘者オンラッシャー]と、強化や防御を行う[支援者アシスター]の二人一組で遊ぶ事を主として作られた大型カプセル型の格闘シュミレーターゲームだ。

カプセル内は二部屋に区切られており、戦闘者はスクリーンルームに入り、選んだキャラクターが得意とする武器に似せた武器型コンソールバーチャル・ウェポンを使い、オンラインでランダムに宛てがわれた三人と格闘対戦をする。
支援者は隣接されたコントロールルームで、スクリーンルームの背面に設置された小窓と手元のタッチパネルで戦闘者の状況を確認・把握しながら緊急防御や戦闘者の一時強化などで支援を行う。

選択したキャラクターが自分達の動きをそのままに使用できる事、格闘ゲームでありながら戦略性が高い事、体格や体力・男女を問わず楽しめることから、ゲームの特性上年齢制限は合ったものの、自分達が学生時代には爆発的人気を誇っていた。



 過去に人気が高かった作品のリメイクは、近年アミューズアーケードにも広まりを見せている。
 最近では自身の勤め先である【レイヴホープ】にも過去作品のゲーム筐体修理依頼が来ていることは知っていた。
 各部署の役職者に配られていた資料の中にTBR旧筐体の修理依頼は記載されていなかったため、リメイクはないものだろうと思っていたのだ。

(…あんな馬鹿デカくて繊細なモン修理するより新筐体作った方が安いだろうしな…)
 自分達が遊んでいた頃の筐体を思い出し、思わず喉に笑いが上がる。その音に気付いたのか、横を行く疾斗が見上げてきたが首を横に振って曖昧にかき消した。
「都築サン、ホントにロケテ見に来たワケじゃ無いんすねぇ」
「あぁ。随分懐かしい映像流してるモンだなとは思ってたが」
「え?アレって最新じゃないんですか?!」
「あーぁ最新だぜ?ただ、オレや疾斗ちゃん、都築サンには懐かしくもあるんだよ。全員が元プレイヤーだ・か・ら・な」
 驚愕する佐賀の額を月原が軽く弾くのを横目に見つつ列へ並び、手渡されていた広告と最新型の筐体が並ぶホール奥を交互に確認する。
(…ま、流石に居ないようだ……な)
 並ぶ人間達よりも頭一つ分ほど高い位置で列を見る限り、見覚えのある顔は居ない。


─むしろ居ない方がありがたいのだが。


 遊ぶこと自体が初めてらしい佐賀の質問攻めに二人が答えてるのを耳で聞きながら、少しずつ動く列を先導してゆく。
 話すことに夢中になる白金髪の青年を時に窘め、テストプレイが映る臨時モニターを見ていると、何処かで見覚えのある男女が一組、目に止まった。
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