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第44話 ノブ子と過ごして分かった事

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目覚めたら、頭がスッキリしてた。手足を縛られて座らされていた。
「いっ……」
「目覚めやがったか、この猛禽野郎!ノブ子に何しやがった?……こっそり教えろ。」
「妖精さんがこんなに懐くなんて!どんなに凄いテクニックを!?……教えないと、モギりますよ。」

「お前ら……その事聞く為に、修学旅行リタイアしてきたのかよ……」

そもそも、アキヨシさんは直ぐ来ると思ったし、林さんが修学旅行の集合段階で気がついてミト連れて初日からやってくると思っていた。

「それは……その……」
「色々準備しててね……」
林さんとアキヨシは口をつぐんで、ポケットに手を忍ばせた。そして、自作したマンションの施錠を突破する装置を触った。因み、アキヨシはキューブパズル型、林さんは判子型のものだった。バレたらお縄になるので、2人は見つからないうちに解体することにした。

「兎に角、なんでこんな計画立てたのか説明しろ!」
「俺が暴走しそうだったから、ミトが止めるのが適役だと思って指名しただけ。」
「回りくどいやり方しやがって!」

「ほんとは、ミトさんが好きだった?私、ダシにされた?」
「そうだよ。ノブ子ちゃんをダシに使って、怒った林さんとミトとがやって来る─」

高校から生徒会に入って忙しくなった。喧嘩仲間だったミトは人気者で学年も違うので、顔を合わせる事がなかった。
そして運命の日は、生徒会の見回りでプール掃除に行った時。
そこにはミトが居て、か弱そうな子が側に倒れている光景を見た。それで、生徒会権限で社会的にミトを拘束して優越に浸りたいという感情が芽生えた。

その計画は、ノブ子の存在によって狂わされた。何故だか彼女の腕を掴んだ瞬間から、偽善的な表の顔が勝ったのだった。

「お前をどうにか屈服させられないかなって思ってたんだけどな……」
「折角人間になったから、自分より強い奴につっかかりたい気持ちは分かる。けど無謀だ。」
「分かるー。私も初めて見た鯉に餌与えたの優越感感じた!」
(それは擬人化の方たちが、生態ピラミッドから解放された余裕から来る気持ちなのでしょうか……)
話に入っていけない林さんは、擬人化の人との考えの違いを痛感した。

「まあ一応、ノブ子ちゃんがストッパーになってくれてたって事かな。」
「私って、やっぱりハズキの特別な存在!」

「だけど、妖精さんとキスしてた事は許せません!」
「確かに、2人を煽る為にキスしたよ……(けど、あれをキスとは呼びたくはない!)」
「給水タイムだよ?」

ハズキの処へ突入した時、ノブ子はハズキに甘やかされ過ぎて、動物として駄目にされていた。
「お外出るの億劫。お布団暖かい。ハズキが居ないと生きていけない。」
「しゃんとなさい!」
と、林さんは保護者としてノブ子を叱る為、手のひらで頬っぺたを叩こうとした。けれど、出来なくって、迷った末にチョンッと手の先を頬っぺたに当てた。

それでも、ぴえーん。と妖精さんは泣き出してしまった。
「林さんがぶった。林さん意地悪。美人マッドサイエンティスト……」
(妖精さんって、大抵無反応なのに泣けるんですね……ああ、貴女からの反応がもっと欲しい!もっと罵って!)

キスの真相及び二人の生活は大体こんな感じだ。
始めは、無駄に動かれると面倒だと布団に巻き付けた。勉強の合間の仮眠ついでに監視も兼ねて抱き枕にして押さえ込んだ……つもりだった。

「ハズキ、給水タイム!もふもふの布団で喉乾く。」
「出ていこうと思えば出られるでしょ?勝手に飲めば?」
全然抵抗しないので、解放したは良いものの……ノブ子はそのまま布団にくるまった状態が気に入ってしまった。
「だって、羽毛布団暖かくて気持ちいいんだもーん。動きたくないです。」
「給水タイム多すぎ。勉強の邪魔!」
そして、勉強タイムスケジュールの中に、ノブ子の口移し給水タイムが組み込まれた。

「もう少しご飯食べないと健康に悪いよ……」
「1日一口で良いのです。ハズキにあーんされるか。ハズキが噛んだやつ口移しで。」
「うえ、流石に噛んだものはちょっと……雛じゃないんだから、自分の手を使って食べなよ!」
夕食時、布団にくるまったままのノブ子にスプーンで岩のりペーストを一口与えた。

「お風呂洗いッこ!石鹸じゃなく、"ぬかぶくろ"使って丁寧に洗ってね!」
「……仕方ないなあ。」
もう最後の方は、深く考えるのも億劫になってノブ子の考えに毒されていった。

「いや、最後一緒にお風呂入ってる!!入ってますから!」
林さんが、絆されません!と、歯ぎしりした。

「確かに始めは、林さんが思う様なこと考えなくもなかったけど、まだミミズクの発情期じゃないし。」
「そんな、男女二人が屋根の下で3日も過ごしたら……私の口では言えないあんなことやこんなことが繰り広げられるに違いないのです!」
「そういやアキヨシさんが、人間の発情動画みたいなの教えてくれたなあ……」
それを聞いた林さんは、アキヨシの横腹にドスッと一発ボディブローをお見舞いした。

「それに俺、子どもは興味ないから。手出す訳無いじゃん。過ごしてて分かったけど、この子まだ幼いでしょ。ね、アキヨシさん。」

アキヨシは、横腹を擦りながら「バレちゃった?」と、飄々と言った。

「幼い?精神年齢がですか?妖精さんは確かにピュアな所が素敵ですが。」
「ノブ子は同級生じゃないのかよ?」

「ハズキ、私もう大人だよ?」
拘束で動けない身体に、ピトッとノブ子がくっついてきた。

「動物だった時、産まれて間もなくして擬人化したんじゃないかな、この子。だから、動物だった時の記憶が無いんでしょ。」

言葉が拙かったり、かと思ったら、覚えたての言葉をスラスラ話したり。影響されやすく。ごっこ遊びをして大人の疑似体験したがる。まるで本当の雛だと思った。

「変わった奴だけど、ただ口数が少ない大人しいやつだと思ってた……」
「ミステリアスにしてれば、大抵誤魔化せるってアキヨシが言ってた。」
「口を開けば、アキヨシさんが言った事のオウム返しなのも気になってたし……」

「じゃあ、私の事全然好きじゃなかったの?」
「ノブ子ちゃんと過ごした三日間で分かったよ、つい世話を焼きたくなるのは、母性本能みたいなものだったって。」

さっきミトさんは、喧嘩し終わった後、途中奴が背中に書いたところが気になって、服を脱いで見てみた。

(こんなん他の奴に見せらんねーよ。……本当は未練あるくせに……)
そこには、只"ノブコ"と書かれていた。
愛しいという感情が溢れているのを感じて、その服を乱雑にカバンにし舞い込んだ。

「大学に入ったら、年上の人間のお姉さんと人間的な快楽を堪能するんだー。」
(同じ学年だったら、皆と一緒に学校行事する事が出来たのに。悔しくて構って欲しいから妨害したとか……俺も大抵子どもだな……)
混乱した頭には、色々で複雑な感情が内包されていた─

そして、彼の両親が到着して、お義父さんがハズキの頭をぐっと押し下げて、ご迷惑をお掛けしました。と、連れて帰っていった。
「あんなに可愛らしかった息子が、見ないうちに……パパ似のイケメンに成長している!」
と、空気の読めない養母のエリさんが感動していた。

身近な人の姿を模して成長するのも、擬人化の特徴なのかもしれない─
アキヨシは、カタカタとパソコンに打ち込んだ。
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