上 下
10 / 27
俺の話

好きの理由

しおりを挟む
お風呂に入っている間に都居くんは汚したシーツを洗濯してくれていた。

お尻がまだみょんみょんする……。


「シーツ洗濯中だしさ。俺の部屋で一緒に寝よう!!」

そう誘われて……初めて都居くんの部屋に入る。やることやったあとだけど、ドキドキして都居くん後をついて行くと……。

リビングにあったのはほんの一部だったんだ……部屋を埋め尽くす、大量のタヌキグッズ。筋金入りだね。

ベッドに誘われて……サイドテーブルの上に置かれていた俺のあげたタヌキの置物。
こんな所にいたんだ。

寝ようって言ったのに、都居くんがずっと抱き付いてきて眠れない。

「そういえば……山川の夢って何?」

不意に都居くんに投げ掛けられる。
幼稚な夢だとバカにされるのが嫌で誰にも話した事なかったけど……都居くんならバカにせずに聞いてくれそうな気がする。

「絵本作家の『みやこ ただし』がすごい好きで……」

都居くんの目が見開かれた。
そんなに驚かなくても絵本作家になりたいなんて大それた夢を語る気はないって……。

「みやこ ただしミュージアムで働けたらなって思ってこっちに出て来たんだけど……中々欠員は出ないみたいでさ、後一年はバイトで粘ってみようと思ったんだけど……そろそろ諦め時かなって……」

「……マジか…」

人が夢を諦めようと言う話をしてるのに……何で嬉しそうなんだ?

「自分だってバカみたいな夢だとは思ってるよ……」

ムッと顔を顰めると都居くんは慌てて謝って来た。

「ごめん!!バカにした訳じゃなくて……その……『みやこ ただし』が好きって…そっか……だから山川のイラストは食べ物がテーマなのが多かったのか……」

俺の作品知ってたんだ?評価とか中の下で高評価作品の様に公開とかもされてなかったのに?

「みやこ先生の『料理の国の王子様』シリーズが好きで……ウィンナーの実のなる木とか生クリームの雪とか……花をミンサーでひき肉にしたり……魔法みたいに料理が出来て行く過程が楽しくて……しんけん読みよって……」

思い出しただけでワクワクして来た。

「みやこ先生の料理が好きなんやろうなぁって想いが絵からも伝わって来て……王子様も凄い優しくて格好良くて……じゃあけん、好きやったんや……」

都居くんは顔を真っ赤にして照れている……なぜ都居くんが照れる?

「山川!!これって運命と思わない!?」

いきなり興奮気味に手を握り込まれる。

「何!?急にどうしたの!?」

「俺が好きな本……マイナーだけど『ようかいのおともだち』で……」

みやこ先生の本だ……。

都居くんは立ち上がり、本棚から一冊の絵本を取り出してページを捲った。
本当によく読んでいるのかクセがついていて、すぐに目的のページが開かれた。

大好きなみやこ先生の可愛い絵で面白可笑しい、友達になれそうな妖怪がかかれている物だったはず。
開かれたページには、おんぶされて無邪気に笑う子ダヌキの絵が描かれている。

『あかでんちゅう』
おんぶをせがみ、おんぶすると嬉しそうにはしゃぐタヌキの妖怪。

「絶対『あかでんちゅう』と出会ったら家に連れ帰ってやろうと思ってた……」

都居くんのタヌキグッズ収集はここから始まってるのか……

「この『あかでんちゅう』ってさ……山川に似てない?」

「似とらんし……」

タヌキに似てるってあんまり褒め言葉で聞かないよね?
……タヌキみたいなお腹って事かな?
あんまり気にしたこと無いけど、都居くんのご飯が美味しすぎて太った?

「ぽやっとしてて、ちょっと抜けてるとことか、幸せそうにご飯食べるとことか、必死で隠そうとしてても、ふと方言が出て恥ずかしそうにしてるとことか全部好き……」

「と……都居くん?」

タヌキの話……だよね?

「初めて見たときから似てるなって思って……そうしたら街でタヌキを見掛ける度に山川に見えてきて……そうしたら連れて帰んなきゃって……」

大量に集められたタヌキグッズがこっちを見て笑っている気がしてドキッとする。
いや……実際、笑顔の置物なんだけど。

都居くんに一目惚れされてたってこと……?
理由がいまいちだけど……ドキドキしてきた。

タヌキに化かされてるのか?
都居くんの胸にすり寄り目を閉じた。

化かすなら……最後まで責任を持って化かしてくれるといいな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その瞳に魅せられて

一ノ清たつみ(元しばいぬ)
BL
「あの目が欲しい」  あの目に、あの失われぬ強い眼差しに再び射抜かれたい。もっと近くで、もっと傍で。自分だけを映すものとして傍に置きたい。そう思ったらもう、男は駄目だったのだーー 執着攻めが神子様らぶな従者の受けを横から掻っ攫っていく話。 ひょんなことから、カイトは神子だというハルキと共に、異世界へと連れて来られてしまう。神子の従者として扱われる事になったカイトにはしかし、誰にも言えない秘密があって…という異世界転移のおまけ君のお話。 珍しく若い子。おえろは最後の方におまけ程度に※表示予定。 ストーリーのもえ重視。 完結投稿します。pixiv、カクヨムに別版掲載中。 古いので読みにくいかもしれませんが、どうぞご容赦ください。 R18版の方に手を加えました。 7万字程度。

オメガ転生。

BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。 そして………… 気がつけば、男児の姿に… 双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね! 破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

恋色模様

BL
会社の同期に恋をしている。けれどモテるあいつは告白されても「好きな奴がいる」と断り続けているそうだ。じゃあ俺の失恋は決定だ。よーし、新しい恋をして忘れることにしよう!後ろ向きに前向きな受がなんやかんやしっかり囲まれていることに気づいていなかったお話。 ■囲い込み攻✕無防備受■会社員✕会社員■リーマン要素がありません。ゆる設定。■飲酒してます。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

処理中です...