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第二章〜フルージア学園〜

第九話「ここから始まる物語」

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ただのモブだと思ってたのにまさかの魔王とは恐れ入った。
パリスに自分がどれだけ依存していたのかを思い知らされるほどに俺の心は空っぽ。
自ら死にルートを選ぶつもりはないが、必死に抗う気力は失くしていた。

「制服は男子生徒のものなんだな」

周りの人間は揃いも揃って聖女だの婚約者だの嫁だのいうけれど、男として認識はされているようだ。
男なんであなたたちと恋に落ちる気はないし、体をつなげる気もないですよと言いたいが、どうせ何をしたって無駄なんだろ、どこへ逃げたって運命は追いかけてくるんだろ、なるようになれと門の中へ向けて投げやりな一歩を踏み出した。

俺を避けるように行き交う生徒の波が左右に別れる。視線を送られヒソヒソとした話し声を浴びせられる。

魔法を学ぶ為のこの学園は初等部、中等部、高等部……そして優秀な成績を納めた者だけが通える研究院があり、俺の通う事になる研究院ともなるとほぼ顔馴染み。

俺のようにいきなり研究院にやって来た者はそれだけで好奇の目に晒されるというのに……さらに聖女という肩書きが邪魔くさい。

魔導具の完成で結界は安定して……次は打倒魔王を目指す為に魔法を深く学び仲間集めだと学園に放り込まれた。

快活で優しく可愛らしい、すでに聖女だと賞賛されながら入学したリリアブランシュと違い、暗く無口で美しさが仇となり冷徹な印象のクロリアスティーナ。聖女として認めない者たちが多い中での無理やり聖女として入学させられ指を差されながらの入学式を迎えるのだ。

そして……入学式が始まる前の登校シーン。
クロリアスティーナが『玄人廃人大人向けモード』と呼ばれる所以。

ゲームスタートをしてプロローグもそこそこに、門を潜った瞬間に死亡ルート分岐点のスタートが来るからだ。

俯き加減に歩く俺の前方に近づいて来る人の気配……来たな。

「あの、クロリアスティーナさん……ですよね?」

表ルートの王道清純派ヒロイン『リリアブランシュ』。だがそれは表ルートでの話、このルートでの『リリアブランシュ』は、10歳で光魔法に目覚めた男爵令嬢、聖女として期待され第二王子の婚約者だったのだが、聖女の役目をクロリアスティーナに奪われ、婚約者という座すら奪われる。そんな立場な訳で出会う前から敵視されていて、どれだけ好感度を上げようとしても絶対敵対が取れないという魔王以上の難敵。

「私はリリアブランシュ・ルードと申します」

こんなに背筋の凍る天使の微笑みは後にも先にもないだろう。

好感度のハートなんてすでに黒いよ?初めて見たよ?

無視するか?
逃げるか?
会釈だけするか?

さあ……どうする?俺……。

本心では無視して逃亡したいところだが、どう考えてもその態度は相手を怒らせるだけ。

「……クロリアスティーナです。初めまして」

なるべく目を合わさない様にして頭を下げて挨拶を交わす。これで去っていってくれたらありがたいんだけど……。

「聖女様とお会いできるのをとても楽しみにしていましたの。聖女様はとても美しい方とお聞きしていたのですが……」

そんな簡単に逃してくれるわけないよね……。
頬に手を当てて困った様に首を傾げる姿はあどけない美少女だが、言ってる言葉にはかなり棘がある。

「…………」

何も答えられず下を向く俺を見下ろしながら、リリアブランシュは唇に軽く握った拳を当てて目を潤ませた。

「そんな下を見て黙り込まれたのでは、まるで私が虐めているみたいだわ」

みたいというか、虐めに来たんだろうが……。
ここでリリアブランシュを泣かせると婚約者である王子が出て来てボロクソ非難され、傷付いたクロリアスティーナは入学式から逃げだし、街でゴロツキにぶつかり殺される。

ちなみにさっき声を掛けられた時点で逃げ出しても死亡確定の、何とも不幸な星の元のヒロインなのだ。

でも……ここで俺が撒いてきた種が芽を出す時。

聖女であるクロリアスティーナが簡単にゴロツキに殺されてしまうのは、この王都に結界を張り続けているから魔力が極端にそちらへ奪われていたから。なので俺は、俺が結界を張らなくても済むように入学式までにと魔導具の研究を進めてきたんだ。

ゲームの様に選択肢が出るわけでもなく、強制的なセリフがあるわけでもない。
俺の行動は自由に出来るようだ……なら、逃げ出すフリをして影潜りで隠れてしまえば……人を殺めるのは嫌だが、ゴロツキも追い払うぐらいは出来るだろう。

出来れば人前では闇魔法は使いたくない。
人の影から出てくるとこなんて見られたら、魔族扱いされそうだからな。

冒険者登録を済ませて、パリスの影に潜み運んで貰って楽々冒険生活を目論んでいた時期もありました。今となってはパリスに俺のスキルとか内緒にしたままでおいて良かった。

影に潜んだまま一生を過ごすのが安全なのかもしれないぞ。
原理はわからないけど、腐る事のないブラックボックスに食べ物をたくさんストックしてきた。
原理はわからないけど、温かいお湯の沸くブラックボックスで清潔さも保てる。
原理はわからないけど、小さいブラックボックスを外にばら撒いて置けば外の様子を親機?で画像を映し出す事が出来る。
大きめのブラックボックスはテント代わりにもなるし、ベッドの様なブラックボックスも作れるし冷暖房としても使える。

ブラックボックスは何にでもなれて、実に優秀なスキルなのだ。

「私はただ、仲良くなれたらと思って……酷いです!!」

何が?
しまった。すっかり自分の世界に入っていて全く聞いていなかった。

「君の様な人間が聖女とは……女神様の手違いではないのか?」

うおっと……いつの間にか王子もいた。
ハートは0、聖女の座を奪われた婚約者様にしっかり懐柔されてきたのか、あの日に俺にプロポーズしてきた面影は全くないな。
魔力だけを見ていて、パリスに注意をされて魔力操作を覚えたので気付いてないのかもしれない。

どれだけレベル上げをしてもメンタル一桁のお豆腐クロリアスティーナだが、俺には苦痛耐性Lv.9がある。不本意ながらパリスの裏切りは俺を強くしてくれた。

おそらく……他の攻略対象者達もハート0スタートだろう。ここで一番恐れるべきは……この二人を躱したあとにやって来る、宰相の息子『ニキアス・ヨアン・ゲルティエス』だろう。
ハート0の状態であいつの怒りを買うと『隷属の首輪』を付けられて奴の性奴隷にされて聖女としても魔力を搾取されてボロ雑巾だ。

よし、下手に他の攻略対象者と出会うより、希望を持ってゴロツキ撃退ルートを選ぶべきだ。村を襲う魔族に勝つ為に稽古してきた数年は無駄では無かったはず。
……その撃退すべき魔族はパリスで魔王だった訳だが……。

ズドンと気持ちが重くなり、聖女に相応しく無いだのなんだのキャンキャン鳴いているリリアブランシュの声も遠くなる。

ゴロツキに殺されるのを無理矢理回避したあとにどうなるかなんて知った事では無い、どんな事でも魔法で対処出来るぐらいには頑張って来たんだ……ポジティブな逃亡を計ろうと身を翻して駆け出した瞬間……。

「うわぁっ!!」

ドンッ!!と何かにぶつかった。
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