上 下
30 / 34

幼き日

しおりを挟む
「そうですか……」

勝手に話して……と、アマギを責めるかな?
そう予想していたけれどナディユさんは静かにそう微笑んだだけだった。

「勝手にナディユさんの過去を話題にしていた事を怒ったりしてないですか?」

「リートの事は進んで話したいとは思いませんが、宇宙船が話したと言うことは克真さんが私の事を知りたいと思ってくれたと言うことですよね?私に興味を持ってくれることは嬉しい事です」

畑を耕しながら随分と心を落ち着けて来た……いやきっと色々な感情を押し殺して来たんだろう。

「俺はナディユさんの事は何でも知りたいと思ってますよ?」

「……慰めでも嬉しいです」

何故そこで慰めと受け取るのか。本当にナディユさんの事をもっと知りたいと思っているし、少しでもその心に寄り添わせて欲しいと願っている。

「なんとしても慰めたいと思うぐらいに好きなんですよ」

人当たり良くて、状況は隠さず話してくれるけど……そこにナディユさんの本当の気持ちは語られてないように感じる。
ナディユさんは俺の【好き】を信じてくれないし、ナディユさんの【好き】は何処か余所余所しくて、お互いの【好き】という言葉が空中戦をしている。

「ありがとうございます。克真さん……今日の仕事はもう終わりにして、ゆっくり休みましょうか」

手を握られて誘導される目の前には、もうすでに優秀な宇宙船が入り口を開いて待っていた。

『夕飯はガチャではなく私が選んでご用意しておきますので、お二人はゆっくりとお湯に浸かっていらしてください』

うん……優秀な宇宙船はかなり気を遣ってくれた。
気になるあの子とひょんな事から嬉し恥ずかし混浴ドキドキ……まあ、そんなこんなでナディユさんと一緒にお風呂入りたいなぁと確かに思っていたけど……それは今では無いだろ。

ナディユさんも気にしてない風を装ってはいるが、元気無さそうだし……正直気まずい。

ナディユさんも当然断るだろうと思っていたけど……。

「なら夕飯は任せる。着替えを用意しておいてくれ」

そうアマギに指示を出して俺の手を握り風呂場へ歩き出した。

ーーーーーー

カポーン……と音が聞こえてきそうな湯煙の中で、二人でお互い真っ直ぐに外の景色を眺めていた。

太陽みたいに光を与える星が山の向こうに沈んでいく。

何故いまなんだ。

こんな気まずい空気でなければ、穴が開くほどナディユさんの美しい体を堪能していたのに、この空気のせいで頭を洗う時も身体を洗う時も視線を向けることは出来なかった……それは現在進行形。

どうしようかな……そろそろのぼせそうだし……。

「俺は先に「克真さん、私の母親は天才魔機技師として世界に知られていた元男性でした」

先に上がると言いかけたが……突然始まったナディユさんの告白に思わずナディユさんの方へ振り向いた。

夕日に照らされたナディユさんは横顔はとても綺麗だったけれど……こちらを見ていてくれていない事に少し寂しさを覚えながら続きの言葉を待った。

「父は王族の血さえ残せれば国は生き続けると、様々な才能を持つ者を集め、女体化の施術を行って自分の妻としました」

王族だけ残っても民がいなければ国としてはあり続けられないだろうに……ナディユさんのお父さんだけど愚かな王らしい王だったんだな。

「私は天才魔機技師として存在しなければならない……そうでなければ母が命を掛けた意味が無意味なものになると、そんな気持ちで魔機を造りはじめました。母を超える威力を持った魔機に父は大層喜んでくれました……が、私の造り出した魔機達はたくさんの人間の命を奪いました」

アマギの言っていた『戦争』の事か。

「シェーニエ国は大国で……普通に考えてタリント国が戦争を仕掛けるなんて無謀としか言えない……それなのに戦争を始めたのは、私の魔機の力に勝利を見出してしまったから……戦争が起こった事自体が私の責任がなのです」

「……戦争の中では仕方がないと思います。ナディユさんだけが悪いわけでは……魔機を造ったのはナディユさんでも、それを戦争に使おうと思ったのは王様とか別の人間で……」

なんて月並みで陳腐な言葉だろう。
こんな言葉で当然ナディユさんを救える訳もなく、その視線は真っ直ぐ外に向けられたまま。

「母を超える力を……そう思って頑張っていました。しかし恐らく母は天才魔機技師として知られていましたがその実力の半分も誰にも見せていなかったのかもしれません。母は私に魔機の作り方は教えてくれませんでした。母から教えられたのは『魔機を扱う時の注意』と『魔機との関わり方』だけでしたから……」

褒められたくて、認められたくて魔機作りに躍起になっていた幼い頃のナディユさん……褒められた事がないと言った時の寂しそうな顔が、その横顔に重なった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

白雪王子と容赦のない七人ショタ!

ミクリ21
BL
男の白雪姫の魔改造した話です。

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

処理中です...