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恋愛をすっ飛ばしてスポ根

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激しく主張していた鼓動も暫くすると落ち着いてきて、ナディユさんは俺を見下ろしながら……少し困った様な笑顔を見せた。

「海へ行きますか?」

「海?塩も水も十分蓄えられたと言ってませんでしたっけ?」

お風呂に予想外に水を使ってしまったか?そんなに大変なら二日……三日に一回でも良いけど。

「悩んだ時は海に向かって叫ぶものなのですよね?思い切り叫びましょう」

海に向かって叫ぶのは文化では無い。どちらかと言うと大声を出すのは苦手な方だ。
大体……ナディユさんの目の前で今の心境を叫べと?

「叫ぶのは遠慮したいですね。恥ずかしいので……」

「そうですか?でも気晴らしに海でのんびり釣りでもしませんか?楽しかったですよ。海水浴やビーチバレーとやらをしてみたり……」

ナディユさんは確かに釣りを楽しんでいたな……しかし俺には竹竿でリヴァイアサン級の海蛇を釣り上げる自信は無い。昨日、風呂から巨大海獣同士の戦いを見ているので、そんな海で呑気に海水浴も楽しめそうにない……が、ナディユさんが俺を気遣ってくれているのは十分伝わるので断るのも申し訳無い。

「波打ち際をのんびり散歩するぐらいなら……貝とか蟹とかも見つかるかもですしね」

「さっそく海へ移動しましょう…………着きました」

ナディユさんが宇宙船を操作してものの数十秒で、今日半日歩いた距離の移動がふりだしへ戻った。

ーーーーーー

「水着は良いですって、海に入る予定は無いので」

「せっかくですから。こういう事は格好から入るのが大切ですよ」

どうしても水着を着せたがるナディユさんを説得しきれずに、水着にビーチサンダルで砂浜へ降り立った。
昨夜はパンイチで怒られたのに、水着は良くてパンイチ姿が駄目な理由が分からない。

隣に並ぶナディユさんも水着姿にサングラスをして小脇にはビーチボールを持って……夏を満喫する気合いの入った姿だ。
俺が薄手のパーカーを出してもらって羽織っているのは、肌寒いだけであって決してナディユさんの細マッチョの横に並ぶ自信が無かったからでは無い……気にする人目など無いからな。

「さっそくビーチバレーをしましょう。克馬さん、ルールを教えていただけますか?」

ルール知らずに誘っていたのか。
漫画の中でビーチバレーをする描写はあっても細かくルールを描いているものは無かったから仕方ないといえば仕方ないのだが……残念ながら俺もルールを知らない。

「とりあえずラリーを続けてみますか?ボールを落とさず交互にこうやって投げ返していくんです」

「落としたら負けなのですね。わかりました」

まず俺のサーブから始まり……これ、面白いか?
俺がどんな悪球を打ってもきっちり拾って俺のど真ん中へ返して来てくれるので、俺は一歩も動いていない……これは接待ビーチバレーだ。
それを無言で数十分延々と続けているのも飽きてきたので……わざとミスった。

「落としてしまいました。ナディユさんの勝ちですね」

「楽しいですね。良い運動になります」

汗1つかいていないけど……本当に楽しかったか?どちらかと言うと犬にボールを投げて取ってこいをやっていた気分。

「勝者のナディユさん、次は何がやりたいですか?何でもやりたい事を言ってください」

本人が楽しいならビーチバレーを続けてもいいし、釣りをまたやりたいなら釣りでも良い。海水浴だけは……やめてくれたら助かるな。

「やりたい事……」

「何が良いですか?サンオイルでも塗りましょうか?」

浜辺のドキドキと言えば1番はこれだろう。
ナディユさんの胸に手のひらで触れると飛び退かれた。

「そっ!!そんな!!克馬さんに触れられたら……」

「じゃあナディユさんが塗ってくれますか?」

貧相だが仕方なくパーカーを脱ぎ捨てるとパーカーが地面に落ちる前に拾われ肩に掛けられる。

「私が克馬さんに触れるのも……駄目です」

「…………それでは追いかけっこしましょうか。波打ち際を追いかけっこするのが海に来た男女の定番です」

実際に見たことは一度も無いけど。
これ以上このやりとりを続けるのは心に良くないと思った。

ほら、俺を捕まえてごらん……そう言わんばかりに俺はビーチを駆け出した。

ーーーーーー

「はあ……はっ……はっ……はぁ、はぁ……」

勢いよく駆け出した俺は数秒も待たずにナディユさんに捕まり、今は攻守交代して俺がナディユさんを追い掛けているのだが……捕まえられねぇ!!

これは恋愛漫画のキャッキャウフフじゃねぇ……スポ根漫画の地獄の特訓だ。

ガクガクと震えだした足では、余裕の表情で一定距離を保つナディユさんには追い付ける訳もなく……砂浜に膝から崩れ落ちた。

「もう無理……限界です……はあ……はぁ……」

「申し訳ありません。軍隊時代を思い出してつい張り切ってしまいました……」

反省の色を浮かべながらナディユさんが近づいてくるが……王子で天才魔機技師で軍隊所属って設定盛りすぎだろ。

「良い……運動になりました……」

もう汚れなんて気にせず砂浜に寝転んだ俺の横にナディユさんも腰を下ろした。

「……克馬さんは弱音や文句を仰らないのですね」

「追いかけっこは自分が言い出した事なんで」

まさかこんなハードモードは予想していなかったけど。

ナディユさんの指が俺の髪についた砂を優しく払い落としていく。その顔には優しさよりも寂しさが滲んでいる様な気がして、ただナディユさんの動きを見守った。

「嫌なところがあったら、はっきり言ってくださいね……」

嫌なとこか。俺が抱いてるのって嫌なとこって言うかただの嫉妬だしなあ。ナディユさんに婚約者さんの事はもう忘れてくれという程の関係ではまだない……二人で子孫繁栄をとお願いされたのに触れ合いは許可されない関係とはどんな関係だろうな?

お前自身には興味はないから子種だけ寄越せと?いや、俺が苗床か?

「ナディユさんが心の中を見せてくれたら俺も考えますよ」

立ち上がって砂を軽く払うと、ナディユさんの手を取り立ち上がらせようとして……立ち上がりかけたナディユさんの体を思い切り突き飛ばした。
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