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ネトラレ宇宙人

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俺が玄米茶を手元に残したのを見て、ナディユさんは安心したように笑った。

「味覚にも大きな違いは無さそうですね。良かったです」

「ありがとうございます。喉が乾いていたので助かりました」

飲み物や食べ物は1番の死活問題。
それしか口にするものが無ければ不味かろうが口にするしかないが、出来るなら美味しくいただきたいから味が近いのは助かる。

「それで……俺に敵意が無いのは分かっていただけたのかと思いますが……どうですか?ナディユさんの星へ連れて行って貰える事は可能でしょうか?」

こんな未開の地にいるより絶対ナディユさんの星の方が人間らしい生活が出来ると俺の勘が告げている。

「その事なのですが……正直に言いますと貴方を私の星へ連れて行くのは不可能です。何故なら私も自分の星へ帰る方法がありませんので」

にこりと微笑まれたので、俺もつられてにこりと笑い返したが……ん?

帰る方法が無い?

「ナディユさんはこの星に調査へやって来たんですよね?」

「はい」

「帰って報告とかするんじゃ無いんですか?」

「私もそのつもりだったのですが嵌められた様で、行きの燃料しか積まれて無かったんですよね。通信機も取り外されていて……孤立無援です」

嵌められたって……そんな笑顔で言うことでは無いのでは?俺を変わった人だと言ったが、ナディユさんの方が変わっている。それともこれがナディユさんの星では普通なのだろうか。

「途中で気が付いて戻ろうかとも思ったのですが、宇宙船の整備士は私の婚約者で……そこまで疎まれていたんだな、と思うと帰る気になれませんでした」

「重い話ですね……」

笑顔なので軽く聞こえるけど中々の出来事だと思うよ。こんな土地に燃料ギリギリで飛ばすなんて……何をしたら婚約者にそんな目に合わされるんだ?

「この星に無事に到着したものの、もう調査もする必要は無いですし、何もせずに死を待とうかなと思っていたのですが、追われている克真さんを見つけて助けないと……と思いました。克真さんは私の命の恩人ですね」

「それ、全然恩人じゃ無いですね」

「そうですか?」

やっぱり変わった人……宇宙人だ。
俺の命の恩人には変わりないのだが……。

「仕方無いって感じで、ナディユさんからは全然婚約者への恨みの気持ちが感じられないんですけど、そこまで恨まれる事に心当たりでもあるんですか?」

この際デリカシーなんて物は何の約にも立たない。二人きりの秘境で、もしこの人の良さそうな宇宙人が実は悪者でした、なんて困るしな。

「私達の星は大きな問題を抱えていて、ギーベリ人全員での移住もやむを得ない状況だったのです。その為の星を探すのに没頭し過ぎて……彼の事を蔑ろにし過ぎたようです。何万、何百万の星の中からこの星を見つけた事を真っ先に報告しに行った際……私の兄との逢瀬を見てしまったんです」

ちょっと引っ掛かる点もあるが……そこは今は突っ込まずにおこう。

「えっと……婚約者さんはナディユさんのお兄さんと恋仲になってしまったから、ナディユさんが邪魔になって……この未開の星へ投げ込んだって事ですか?流石にそれは……」

「兄と私は女体化計画の事で対立していましたから、邪魔だったのでしょう」

女体化計画……。
話についていけない。とんでもない星だという事は感じとったけどな。

「ああ、宇宙船の機能自体は生きていますから、この中は安全です」

安心してくださいねと、微笑まれて俺は笑い返す事しか出来ない。
どうやら俺の異世界物語はサバイバル系で進むようだとテーブルに突っ伏した。

街……いるかいないか分からないが異世界人の住む街を見つけるまでは無人島生活も同等……病気や寿命なら諦めもつこうが、餓死や獣に喰われるエンドは避けたい。出来るなら安らかな死を……。

安らかな死を迎える為にも、俺はこの無人島でなんとか生き延びなければ!!

命を守る為の行動を書き出してみよう。
メモを取り出そうとして、はたと気が付く。

「あ……鞄……」

こっちに来た時、鞄と缶コーヒーを持っていたのは覚えているが……その後すぐに獣に追われて……投げ出して来たか。大して無人島生活に役立ちそうな物は入って無かったから良いけど……。

「鞄ってこれですよね?落とされたので拾っておきました」

そう言ってナディユさんはポケットから、質量を無視して俺の鞄を取り出した。世に言うアイテムボックスかな?

「ありがとうございます。良いですね、ナディユさんの星は魔法を使うんですか?」

鞄を受け取りながらふと思い出す。ナディユさんは獣を倒すのに魔法じゃ無くて銃みたいなのを使ってたな。

「魔法では無く魔機ですね。魔法は個人の能力に左右されてしまいますので、誰でも同じ様に扱える魔素を動力にして動く機械です……その魔素に頼り過ぎたのが良くなかったんですけどね」

「へえ……誰でも同じ様に……俺でもナディユさんが持っていた銃みたいな武器も扱えるんですか?」

「はい。大気中の魔素を使っていますから個人の能力は関係ありません。克真さんの星ではどんな武器を使われていたんですか?」

鞄の中を探っているのを、ナディユさんは興味深そうに見ている。

「残念ながら俺の国は武器を持つのは禁止されていたんで何も持っていないですよ。俺の持ち物なんて紙とペンぐらいです」

正体不明な俺がどんな危険物を持っているかは気になって当然だろうと鞄の中身を全てテーブルの上に取り出した。

ノートとペンケースとスマホと財布とタオル。

ペンは剣よりも強しと言うが、言語の通じない獣相手にはやはり強いのは剣だろう。

お金は何の意味も持たない。

スマホは電波が無ければカメラと計算機程度の役にしか立たないし、充電切れたらそれでお終いだ。

「これは何ですか?魔機?機械?」

「電気で動かす……機械です。電波で電話したり情報を流したりする道具でした。この世界では使えそうに無いですけど」

この世界に地球から電波など届かないだろうからネット検索なんて使えないし全くもって意味の無いものと化した。

「電気で……これが克真さんの世界の文明なんですね。もう使えないなら……」

期待の籠もった目で見つめられる。

「欲しいんですか?本当に使えませんよ?」

こんな異世界にやって来て、いまさら保護する個人情報も無いし、命の恩人であるナディユさんには多少ずつでも借りを返しておきたい。

スマホを渡すとポケットから何かの道具を取り出して分解を始めて、話しかけても返事が返ってこないくらい没頭してしまった。

婚約者を奪われたのも……こういう所だろう。

暇なのでノートにToDoリストでも書き出してみるか。
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