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ナックルダスター

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はたしてこの街にジュエリーを扱う店があるのかと疑問だったけど、この世界で『指輪』は装飾品よりも魔導具としての需要の方が高いらしく「指輪を買いたい」とお願いすると、気位の高そうな宝石店ではなく逞しい鍛冶屋のおじちゃんが営む武防具店へと連れて行かれた。

思っていた店とは違うけど……魔導具としての指輪もなかなか洒落たデザインのも物も多くてルノさんの瞳の色と同じ青い石のついた指輪に目が留まった。

「ルノさん、この指輪どうですか?」

「俺に?……確かに青い石は水属性の魔法を強化してくれるが、威力が上がり過ぎて暴走しかねないからな……」

だから指輪はつけてないとの事……本末転倒。

俺の馴染みのあるプロポーズとしてペアリングを贈ろうと思っていたけれど、指輪をつけた瞬間に暴れ出される危険があるとは……。

「でもこれ、俺が着けたら魔法使えますかね?」

「う~ん増幅させるだけだから、無い物は増やせないかも……」

……そうですか。
いい加減魔法の一つでも使ってみたかったんだけど、一瞬の儚い夢であった。

「特殊効果の無い指輪って無いもんですかね」

並んだ指輪を一つづつ鑑定して効果を確かめて行く。
『総魔力量増』『筋力増強』『火属性強化』……どれも何かしらの効果が付属している。

「装飾目的?王都なら権力の象徴としてそういうのも扱っているかもしれないけど……この街では装飾だけって意味ないからな」

ごもっともだ。効果有りでこれだけ綺麗なデザインができるんだから、わざわざ効果無しを選ぶ方が珍しいだろう。
でも効果が付いてるとルノさんにどんな影響を与えるかわからない。

一番ルノさんに影響が少なさそうなのは……『全ステータス+30上昇』の指輪だろうか。一つだけ小さなガラスケースに入れられていて、かなり効果の高い指輪だけど何故ルノさんに合っていると思ったかというと、この指輪呪いが掛かっている。

『身に付けた者の魔力を吸収』するのだそうな。

その吸収量はわからないけれど、ルノさんは常に魔力が溢れ漏れる程魔力が有り余っててそれで悩んでいた……ちょうど良いような気はするけど、婚約指輪が呪いの指輪なのはいただけない。

むしろ普通に俺が欲しいな。魔力がゼロの俺は奪われるもの何もなしに『全ステータス+20上昇』の恩恵を授かれる。

価格は金貨50枚……呪われている癖に割と高いな。

「この指輪が気になる?呪われているが……この呪いならシーナには平気かな?店主、この指輪を見せてくれ」

「それか?早く手放したくて並べちゃいるが、あまりお勧めは……」

店主にちらりと視線を向けられた。
手放したいなら何も言わずに売っちゃえばいいのに心配してくれているんだろうか?高めの金額設定もこれぐらい稼ぐ実力のある冒険者向けってことかな?

「もしもの時は買い取って破壊するから」

安心してと安心できない、もしもの場合の解決策の説明をされて、指輪を手渡される。
呪いの指輪のイメージと違って、ドクロとかそう言った不気味な雰囲気は全くなく、シンプルなシルバーの指輪に黒い小さな石が付いている。

嵌めてみるとサイズがぴったりでその辺りにも呪いを感じる。
これといって不調は感じないけれど、鑑定で自分のステータスを確認してみると全ての項目に(+20)が付いている。

凄いじゃないか!!良いなこれ!!
呪いのアイテムにありがちな『抜けなくなる』という事もなく、抵抗無く外せる。
指輪からしたら無銭飲食の厄介な客かもしれないが、この指輪欲しい。

金貨50枚……マルトリノさんに素材を買い取ってもらって余裕はあるけれど……。

「じゃあこれで」

財布と睨み合っている間に、ルノさんが冒険者カードを取り出すとキャッシュレスで会計を済ませてしまった。

俺がルノさんにプレゼントするはずが逆にプレゼントされてしまった。

結局、ルノさんに贈っても差し支え無さそうな付与効果なしの指輪は見つけられなかった。

王都に行くのはちょっとなぁ……売ってないとなると自分で作るしかないかなぁ。

ーーーーーー

金属の加工となると道具が色々必要になってくるだろうし、まずは加工が簡単な皮で試作してみよう。
収納鞄からコバットリスの皮……尻尾である蛇の部分の皮を取り出した。

本来ならこれで手錠のように繋がった腕輪を作り、儀式の後から10日ほど繋がった状態で二人きりで家に篭るのだとか……その話を聞いて、丁重にお断りしてからルノさんがこっそり作らないように皮は没収しておいた。

腕輪で繋がれたままは嫌だけど……それだけ繋がりを強調するぐらい謂れのある物なら、ペアリングにして渡せばルノさんにも俺の気持ちが伝わりやすいだろう。
指輪なら使うの端っこのちょっとだけだし、使っても良いとルノさんに許可も貰えた。

早速ハサミで少しだけ切り取って、輪っかにして糸で縫う。
5分もかからずに出来てしまった……本当はもっとなんか薬品とかで加工したり刻印したり色々やる事があるのだろうが、スキルの力によってかコバットリスの皮のポテンシャルが高いのか、何かしっとりと輝いている。

スキルのせいで最高級品の評価がついたが、流石に制作時間2個併せて5分のリングを婚約指輪代わりにするのは心持ちが軽すぎる。シンプルすぎて裁縫箱の中の『指貫』にも見える。

何か合成できる物はないかと収納鞄の中を見てみると意外な事に合成できる物は『ハサミ』だった。
もしかしてスキルは俺が作ったこれを指輪ではなく指貫として認識しているのでは……でも作った指輪はちゃんと鑑定で『指輪』になっているんだよね。

……合成失敗したところで、皮はまだ大量にあるし、指貫は使えるし、制作時間かからないからとりあえず合成して強化してみる事にした。

ーーーーーー

「渡すべきか、否か……」

ルノさんがお風呂に入っている間、回答用紙の無い二択問題を悩み続けている。

掌に乗せた指輪。
ハサミと合成して裁縫に特化した指貫になるかと思ったが、ちゃんと指輪にはなった。

ハサミの指掛ける輪っか部分が銀だったようで、銀と蛇皮を合わせたペアリング。
指貫から大分グレードアップをしたのだけれども……おかげで余計な効果が付いてしまった。何度見ても鑑定の結果は変わらない。

「何を?」

いつ戻ってきたのかルノさんが後ろに立ってた。本当に……日常生活上で隠密能力を発揮するのは心臓に悪いのでやめて欲しい。

「とても綺麗な指輪……この模様は……」

俺の持ってる物は条件反射で褒めるルノさんは指輪を見てすぐに気付いたようだ。

俺にはコバットリスの模様もアダータイパン やマンバラマンバといった蛇系の魔物の模様の違いはわからないけど。

「えっと……これはですね……ペアリングで、その……」

じゃあ……この指輪の意味ももう気付いただろうか。見つかってしまっては絶対いると言うだろうな……困ったな。
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