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執着のハンカチーフ

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地球へ帰れるなら帰りたい。
両親だっているし、少ないけれど友達だっている。

魔物なんて変なのに襲われる心配も無いし、蛇口を捻れば水は出てくるし、火だって簡単に点けられるし、夜になればスイッチを押せば電気がつく。電子レンジや冷蔵庫やスマホだってある便利な生活。

帰りたい……帰りたいけど……エルポープスの世界にだって大切なものがたくさん出来てしまった。

みんなとの賑やかな生活を思い出して、思わず溢れた涙をそっと拭われた。

「ありがとう……」

「何がじゃ?」

てっきりキュンキュン様が拭ってくれたのかと思ったら、俺の思考時間を待つのに飽きたのか、キュンキュン様は俺の隣から消えていて部屋の中を物色していた。

じゃあ誰が?と思ったらハンカチが浮いていた。
これは……ルノさんにあげたハンカチだ。みんな同じ生地だから間違えない様に俺が刺繍を入れたから間違いない。

「何でここに……」

ハンカチを掴もうとしたら、次々にハンカチが現れて顔を拭ってくる。

「そ……そんなにいらないって!!」

顔を覆う大量のハンカチを鷲掴み引っ剥がす。それぞれみんなの名前の刺繍が入ったハンカチ。
まさか……引き留めに来てくれたのだろうか。神の家まで?そんなにまで離れたくないって願ってくれているんだ……。

「キュンキュン様……俺は……エルポープスの世界に残りたい」

俺の答えを聞いて、ハンカチ達は安心した様に消えていった。

「そうか…………ほっ」

「ちょっと待て。何だよ今の『ほっ』て……」

明らかに安堵のため息だった。ジト目でキュンキュン様を睨みつける。

「いやな……お主がエルポープスを1度復活させた時に地球の奴にお主を引き取ってくれるか確認しに行ったらなぁ……」

行ったら何だよ?いらないって言われた?どうせ俺は凡人だし世界の役には立ってないけど地球人だぞ?間違いで飛ばされた俺を地球の神様は簡単に見捨てるのか?

「それが……お主は既に地球で死亡扱いになっておってな。普通なら周囲の人間の記憶操作程度で済むんじゃが……お主の死因がなぁ……」

え……俺の死因何なの?惨殺死体で復活出来ない位細切れだとか?

「あの神社を覚えているか?何故かそこの狛犬に頭を齧られた姿で発見されな。動く石像だの怪奇現象だと世界的に拡散されて……お主を復活させるには世界中の人間の記憶操作と情報操作が必要で……断られた」

なんて死に様……なんて扱いだ。

「そう怒るな!!あれだ!!こっちの世界で死んでくれればあっちの世界で別人として赤子からやり直すなら全然引き取ると言ってくれたぞ!!嫌なら儂の世界に招待してもいい!!」

そんなわざわざ死ぬ意味ないじゃん。大体今度はどんな死に様にされるかわかったもんじゃない。
キュンキュン様の世界は平和らしいが、人と接する事なくアニマルパラダイスで一生を過ごせる程の動物愛護精神にあふれてはいない。

「もういい……皆のところに帰る」

きっぱりすっきり、過去と決別出来たよ。

「ちょっと待て、すぐに送らせるからな。おい!!起きろ!!早く此奴を元の場所へ送り返してやれ!!特別に『神友』登録してやる!!早く起きろ!!」

「キュンキュン様と『神友』!!」

キュンキュン様の言葉にエルポープスは物凄い勢いで食いついた。

「憧れの神七柱のキュンキュン様と『神友』になれるなんて……あんたやっぱり神だぁ~!!」

涙でグチャグチャな顔で抱き着かれて思わず体が仰け反り鳥肌が全身に走った。神でもなんでも良いから早く元の場所へ帰らせて……。

ーーーーーー

「ふ~ん。じゃあ『神友』ってのになれば、あんたを通じて何時でもキュンキュン様と連絡が取れるのか」

帰り道。
ドラゴンの姿に変わったエルポープスの背中に乗っている。何故わざわざドラゴンかと聞くと『強そうに見えるから』と情けない答えが返ってきた。

いきなり俺を攫った理由はお礼を伝えたいのとゆっくり話をしたかっただけらしいけど、怖いの……レイニート様だね。が、いたから近付けなくて、まごまごしているうちにルノさん登場で、これ以上増える前に俺がレイニート様の側を離れた隙きをついたらしい。

俺の周りは凶悪なのが多すぎると文句を言われたけど……問題はお前が弱すぎる事だ。

「仕方ないだろ。神は魔界と戦うのが仕事!!その為に世界を発展させ、生命力を高める事で力に変えるんだ」

「じゃあキュンキュン様みたいに祝福を与えれば良いじゃん。世界を発展させる様なスキルを与えたら良いんだろ?」

背中に乗っていると、下を見なくて済むから楽だな。親切設計でちょうど掴まりやすい鱗があるし。

「祝福を与えられるのは神格6からだよ……俺に出来るのは神託を与えるぐらい。魔物に直接攻撃できる様になるのだって神格4だし……」

神の世界も中々の実力社会の様だ。

魔界の悪魔に勝てなければ世界は魔力に汚染され生命力を失っていく、世界の生命力を失えば悪魔と戦う力も失い……負のループ。世知辛い。

俺に魔力が無いのは地球の神様が強過ぎて全く悪魔を寄せ付けず、人間が魔と戦う必要が無いから、魔力を使う機能がそもそも備わってないからだそうだ。

「まあ頑張れよ。あんたが死なないでいてくれさえすれば、世界の魔物はルノさん達が退治してくれるからさ」

世界に手を出せないエルポープスが俺を攫えたのは俺がゲストの立場でエルポープスの世界の人間では無いかららしい。

神格2にどうやって上がるのかは知らないけど、レベルの上がらないもどかしさはよくわかる。気持ち悪い神だけど、それでもこれから俺の神様になるんだし応援ぐらいはしたい。

「シーナに頑張れって言われたら頑張れそうな気がする……うん!!頑張るぞ!!だから、これから何度だって遊びにくるから地球の事いろいろ教えてくれよな!!」

「…………」

「なんで無言!?酷い!!」

しょっちゅう来られても困る。

「シーナが望む物があれば俺がシーナの記憶を読んで、それを実現出来そうな人間に神託を与えて作ってもらうって事も出来るんだぞ?俺の世界の料理は地球さんの神友の神友の……神友の神友の世界を覗かせて貰って、地球さんのとこで流行ってる物を神託で伝えたから……シーナには馴染み深いだろ?俺凄いだろ?」

なるほど……伝言ゲームの末だから馴染み深いけど何かが違っていたのか。

「凄い凄い。じゃあさ、俺の記憶を覗けば米とかカレーとか味噌とかも出来るの?」

「シーナが作り方とか、育て方……どういう物かって具体的な姿が分かっていればね」

じゃあカレーは難しいか……カレールーがどうやって出来ているかなんて知らないから、何処かの神様が地球のカレーを真似て、それをまた真似て……巡ってくるのを待つしか……いや、いるじゃん!!キュンキュン様!!
キュンキュン様を経由すれば直輸入可能!!

「どうした?楽しそうだな」

「いや、未来は明るいなって思って……てか、いつつくの?ルノさんとか凄い心配してると思う……」

心配し過ぎて最悪な事態になって無いと良いけど……。

「大丈夫、神界と下界では時間の流れが違うから1分もたってないよ」

1分……流石にそこまで瞬間湯沸かし機ではないか。
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