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ゴッときてガッとやってバーン

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頑張りすぎたご褒美に、夕飯はレイニート様が奢ってくれるという事になり、以前ルノさんと行った石窯焼き屋さんをお願いした。それしか店を知らないから何処が良いと言われても答えようがない。

「前にルノさんが頼んでいたのって、この『ジェヴォンパミソースのペーロ包み焼き』ですよね。美味しかったし頼んでみよう……」

食欲はあまり無い上にメニューを読んでも食材名だけでは見当がつかないので知っている物をお願いした。少しスパイシーな味だったと思うので今はその方が食べやすいかな。

「じゃあ俺は『ミラペル漬けカロラブニャのクレムホエルメル石窯焼き』にしようかな」

呪文の様なその料理はベルンさんお薦めの一品な、あのグラタン。

「あ、俺が食べてたの気になってたんですね。言ってくれたら良かったのに」

「シーナがとても幸せそうに食べてたからね。それを頂戴なんて言えないよ」

いやいや、そこまで心狭くないって……俺はあの時ルノさんのを一口貰ったわけだし……。

「仲が良いのは結構だが、君達は僕に何か言う事は無いのかい?」

苦虫を噛み潰した様なレイニート様、せっかくの王子顔が台無しになっている。

「ごちそうさまです」

「レイニート様も早く選んでいただけますか」

ルノさんは二冊目のメニューをレイニート様の前に差し出した。

「違うだろう!!散々誤解して僕にマグマボールまで放ってきておきながら、夕飯までたかるとは!!君はルノルトスにどういう教育をしているんだ!!」

「すみません。いろいろ混乱してて……錯綜させてしまいました」

せっかく静かで落ち着いた雰囲気の店なのに……貴族様がそんな大声を出すのはいかがなものだろうか。
だいたいルノさんの教育に関する文句は隊長に言って欲しい。俺だってそのせいで羞恥プレイという被害を受けた事がある。

「半分は誤解だったとしてもシーナに鞭なんて振るおうとしていたのは事実でしょう?結果的に当たっていなければ良いんでしたよね?」

「まあ僕が優秀過ぎるから当たっちゃいないが……あんなの僕以外なら受け止められないからな、そこは忘れるないでくれよ」

言うだけあって、レイニート様の魔法は本当に凄かった。ルノさんが強いのは十分知っていたが、レイニート様も強かった。

ルノさんのグラグラ煮え立つ火の玉をレイニート様は土の壁を作り出しガバァッと飲み込んだ後、ギュッとやって固めてパラパラと土へと還してしまった。

語彙力が無くて説明し辛いが、目の前で繰り広げられたそれは、まるでスペクタクル映画のクライマックスシーンを見ているかの様な迫力で……人間あまりにも現実離れした事態が起こると頭が真っ白になり何も考えられなくなるらしい。

二人を止める言葉がみつからず。
睨み合う二人の間に辛うじて出せた言葉が心にもない「お腹が空いた」の一言だったが……「シーナにひもじい思いをさせるなんてごめんね」と謝るルノさんと「なんだ、やはりお腹が空いていたのではないか。最初から素直に誘いを受けていれば良いものを」と笑うレイニート様。

二人の後ろの焼け野原と土がひっくり返された跡、よくあの一言で止まってくれたものだと思う。



「まあ良い……シーナ君の戦闘方法は初めて見る興味深いものだったからね。僕もシーナ君の様子に気づかず無理させたのは認めよう。さあ、シーナ君、好きな物を好きなだけ頼んでくれたまえ」

俺もまさかあんな戦い方になるとは思わなかった……あれは必要な分までレベルが上がったら封印だな。血塗れで刃物持って襲ってくる着ぐるみなんてB級ホラー以外の何ものでもない。

細身の店員さんが両手に皿を持って、テーブルに料理が運ばれて来た。
それぞれの前に並べられた料理。

あ……うん……失敗したかも……。
ミートパイは、ナイフを入れると中から赤いパミソースが溢れ出して……ちょっと重ね合わせたくない映像が頭に浮かんできてしまう。

「シーナ、この料理クレムが濃厚過ぎて俺には重すぎるみたいだ……よかったらペーロ包み焼きと交換してくれないか?」

ナイフとフォークが止まってしまっていた俺の耳元に、ルノさんがそっと尋ねてきた。

俺の方に寄せられた『ミラペル漬けカロラブニャのクレムホエルメル石窯焼き』……一口も食べてないのに?

「ルノさん……ありがとうございます」

「お願いしたのは俺の方だよ。うん、俺はこのぐらい辛みのある方が食べやすいな」

甘いホットポムポムが好きなくせに……ホエルメルだって好きなの知ってる。

「一口くらいは食べてみてくださいね。きっと好きになりますよ」

取り替えられたグラタンを一口分フォークで掬って差し出すと、頬を赤く染めながらバツが悪そうに口へ運んでくれた。

「ルノさん好きな味ですよね。詰所でも作れる様に頑張ります」

「それは楽しみだね」

向かいの席からわざとらしい大きな咳払いが聞こえた。
すみません、レイニート様の存在をすっかり忘れてしまっていました。

「レイニート様の注文された物も美味しそうですね。えっと……レッドヘッドベアのモヒカン姿煮でしたっけ?」

慌てて取り繕ったけど、唾でも吐き掛けてきそうな表情のレイニート様に睨まれる。

「ピノヘルヴェッカとモエクルのスガール風だ……王国の三大高級食材をレッドヘッドベアと一緒にするんじゃない。まったく……一応俺はこの街の領主という立場なんだ。周りの目もある中で未成年との仲をどうどうと見せ付けないでくれるかな。君達の交際は見逃してやりたいが、目に余る様なら立場上、君達を処罰しなければならなくなるだろう」

「こっ!?おお……俺とルノさんはっ……付き合ってませんよ!!」

「は?何を言っているんだ。どこからどう見ても恋人同士もしくはそれ以上にしか見えないじゃないか、初めルノルトスを恋人と呼んだが、君も否定しなかっただろう」

「恋人同士以上って何があるんですか!!初めあった時は……レイニート様の言葉の意味がわからないっていうか、話を理解する気がなかったっていうか、……とにかく俺はまだ交際とかそういうのわからないんで……恋人とか言われても……」

ルノさんのことは好きだけど付き合うのは無理だ。大体ルノさんからも付き合ってくれなんて言われた事ない。
俺はルノさんの恋人じゃないし、ルノさんは俺の恋人じゃない。

「いや、わかってるだろ。君は……年齢相応必要以上の理解をもっている。なんだ、本当は他に好きな人間がいてルノルトスは備蓄扱いかい?」

そりゃあ19歳ですから、知っちゃいるよ。彼女いた事ないから知識だけだけど……知っているからこそ、ルノさんには申し訳ないと思うけど付き合うことは、考えられない。

「備蓄って……そういうわけじゃ……」
自分でも悪いと思っている事をはっきりと言われて言葉に詰まる。自分を正当化する言葉を必死に探したけど……そんなものはどこにもない。

「俺はただシーナの側に居られたら幸せだよ。もしもの時にシーナを助けられる備えが俺だというなら備蓄という言葉も悪くない」

気にする必要はないと頭を撫でられたけど、何も答えられずルノさんから視線を外した。

「へぇ……その割には嫉妬で自分が見えなくなっていたみたいだが?ん……料理が冷めてしまうな。シーナ君もルノルトスも早く食べたまえ、時間は有限だ。いつまでも目の前にあると思っていると食べ時を逃してしまう」

優雅に食事を再開させたレイニート様……いつまでもあると思うな親と金……。

異世界に来て突然、親も金も……今まで周りにあった全ての物を一度失ったからそんな事はわかってる。ルノさんはずっと側にいてくれる、そんな絶対なんてない事も……失いたくないから手にしたくない。

この状況に甘えている事が許されるなら……甘え続けていたい。いつまでそうやって甘えていられるのかなんてわからないんだし……僅かな間ぐらい許して欲しい。

『ミラペル漬けカロラブニャのクレムホエルメル石窯焼き』は前回食べた時よりも味がぼやけて感じた。
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