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チート覚醒

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「よし!!やるぞ!!」

ルノさんが貸してくれた箒や雑巾といった掃除道具を握りしめて部屋の中を見回した……気合いを入れてみたが、汚過ぎて何処から手をつけて良いものか迷う。

ソファーの上に積み重なっていた木箱の中身は錆びついた剣や刃の欠けた剣、歪んだ盾等が入っていた。こんな物騒な物が積み重なった横で寝てたのか……倒れてきたら大惨事じゃん。

木箱を下ろそうとしたけど重くて持ち上げられない。
子どもになってしまったからな。ここに来る前ならこんな物、軽々持てたんだからな。
誰に対してなのか分からない対抗心を燃やしながら中身を少しづつ取り出し、何とかソファーの上の荷物は床に下ろし終えた。

埃っぽいソファーを箒の柄で軽く叩いてみるとブワッと埃が舞い上がる。

……今日中に寝床が確保出来るか不安になってきた。

ステータスの清浄999はどういう効果が有るんだろう? 清浄魔法はあるみたいだけど、そんな魔法はもちろん知らないし、俺の魔力は0だ。しかし清浄999……。

「この雑巾が魔法の雑巾ならなぁ……」

どうせ『雑巾』と出るんだろうと思いながら鑑定と念じると予想外な文字が浮かび上がった。

『雑巾……汚れを落とす為の布《お手製可》』

お手製可……例のお手製スキルか。お手製にしたところでどうなるのか分からないけど、試せる事は何でも試して見ないと始まらないよね、と気軽な気持ちで『お手製』と念じてみると、雑巾が一瞬光った。

……光ったけどそれで?
変わったところといえば付いていた汚れが消えたぐらいだろうか? 新品にしてくれる能力かな?
これはそこそこ使える能力じゃないか? 例えばこの錆びた剣を新品にしてくれるんだろ?

意気揚々と剣を鑑定してみたが《お手製可》の文字は出なかった。

いろいろ鑑定してみた結果、お手製出来る物は少なくて雑巾以外で《お手製可》が出たのは毛布だけだったが、良い!!ちょっと汚れと匂いが気になってたんだよね。

早速『お手製』を試してみると重くゴワゴワだった毛布が軽くふんわりとした物に変わった。染み付いていた匂いも消えていた。

『お手製』スキル最高!! 女神様ありがとう!!
女神様に感謝しながら掃除を再開させた。今日のうちにソファーだけでも寝床として使える様に綺麗にしたい。

本当は外に運び出して埃を落とし干したいとこだけど、部屋からは出ない様に言われているので、せめて汚れを拭き取ろう。

ルノさんが用意してくれたバケツの水で雑巾を濡らし、固く絞りソファーの上を拭いた。

ただ軽く拭いただけなのに……積もっていた埃や謎の染みが嘘の様に消え去ってしまった。

「何で!?軽く拭いただけなのに……」
俺が拭いた所が線を引いたようにそこだけ綺麗に輝いている。狐に摘まれた様な思いでソファー全体を磨いていくと、塗装の剥げや破れた穴、ほつれなんかはそのままだけど、染み一つないソファーへと生まれ変わった。

「俺……すごくない?」

雑巾はこれだけ拭いたのにシミひとつ無い、真っ白なまま……恐る恐る握りしめていた雑巾を鑑定する。

『お手製の雑巾……汚れと認識したものを全て消し去る。生物不可』

念願のチートスキルだぁぁぁっ!!

『お手製』スキル……新品にするスキルじゃなくてきっと強化して作り直すスキルなんだ!!

頭を乗せる物に雑巾はちょっと躊躇ったが枕を拭いてみると真っ白に変わる。窓を拭くと曇りは消えて透明なガラスが明るい日差しを呼び込んだ。

何これ楽しい!! 綺麗になって行くのが楽しくて夢中で部屋中を磨いていくと見違える様に明るい部屋に変わった。

「俺、最強じゃない?攻撃力は6だけどこの能力があればスーパー家政夫として天下とれるじゃん!!家事の苦手な女戦士とか女騎士のお姉さんに惚れられちゃったりする未来が見えたじゃん!!」

生まれ変わった部屋に満足するが、体が疼いて仕方がない。
もっと、もっと汚れは無いか? すっかり掃除中毒になって汚れを求めて廊下に出た。2階から降りるなって約束だったから廊下はセーフ。

土埃が溜まり足跡の残る廊下を雑巾がけすると、木目すら見えなかったのに生き返ったかのように輝き出す。

なんて気持ち良いんだ俺のチートスキル!!

廊下を磨き終わると足取りも軽くトイレへ向かった。2階にはあと隊長の部屋と物置があるけれど、この二部屋は危ないからと止められている。

この世界のトイレは『ぽっとん』だと聞いて悲惨なトイレを想像していたが匂いはなくそれ程汚れてはいないけれど、それでも俺のチート雑巾で便座を磨くと輝きが違った。

この輝くトイレを見たらルノさんだって俺の事を見直してくれるはず。

「『凄いじゃないかシーナ!!』『家事は得意だと言ったでしょう。どうですか?この能力なら何処でだって働けるでしょう?』『ああ、勿論だとも!!すぐに仕事先を紹介しよう!!』なんて……あっ!!」

一人で寸劇に夢中になり過ぎていて、手を振り上げた瞬間便座の縁に置いていた雑巾に手が触れ跳ね上げた……そして雑巾はキャッチしようとした俺の手をすり抜けて……便座の真ん中に空いた穴の中へと吸い込まれていった。

「あああああっ!!」

便座の穴の奥は青く淡く光っていて……一見汚くは見えないけれど、ルノさんにトイレの穴には絶対手を入れるなと注意されている。注意されなくても入れたくないけど俺の雑巾が……。

「シーナ!?どうした!?」
俺の叫びを聞きつけたのか、慌てた様子でルノさんが階段を駆け上がってきた。

「ルノさん……雑巾が……俺の雑巾がぁ~っ!!」

俺のチートハーレムへの鍵が肥溜めの中にのみこまれてしまったぁ~っ!!

便座を指差し項垂れる俺の肩をホッとした表情でルノさんは叩いた。
「落としたのは雑巾だけ?良かった……トイレに落ちたかと思ったよ」
「でも俺の雑巾……」
せっかく気持ちよくチート無双してたのに……。

「トイレの強清浄水は何でも溶かしてしまうから拾うのは難しいかな……新しい雑巾ならまた用意するから元気出して?」

出鼻を挫かれ、調子に乗っていた自分自身に自己嫌悪する俺の腕を持って立ち上がらせてくれながら、ルノさんは笑顔で恐ろしい事を口にした。

「シーナが雑巾を落とした事を気にしすぎて手を入れなくて良かった。綺麗な手が溶けてしまうところだったよ」

人まで溶かすとは異世界のトイレ恐るべし……。

殺人とかにも使えちゃうじゃんと思ったが、強清浄水の使用は一応許可証がいるし、溶かすと言ってもゆっくりだからあまり実用的ではないらしい。それでも遺体を溶かせば完全犯罪だろうと突っ込んだけど、それは笑って流された。

「手を洗って部屋に戻ろう?時間もちょうどいいしお昼にしよう」

ルノさんはそう言って横の手洗い場の蛇口に触れて水を出してくれたので手を洗い、泣く泣くトイレを後にした。
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