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警備隊員集合

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夜になれば警備隊員全員戻って来るらしい。その時紹介すると言われ、そわそわと落ち着きなく部屋の中を歩き回った。

国1番の治安の悪い街を警備する警備隊。
そして隊長があれだ。
他の隊員に対して期待なんて持てない。

女性だらけの夢の様な警備隊なんて万に一つの期待も持ってはいけないと自分に言い聞かせた。

副隊長だけを見ていたら女性向けの恋愛ゲー厶みたいなのを想像しただろうが隊長を見てしまうと想像は一気に盗賊団へと変わった。

「名前はやっぱ、シーナと名乗った方が良いんだよな……」

自分のステータスを確認してみる。

副隊長達の反応からしてカッコ書きの中は見られていないっぽい。家事力に関する数値も見られていない感じだった。

そういえば属性とかスキルとか見てなかった……スキルの文字の横にある▶マークに触れてみた。すると項目がザッと広がり無数のスキルが表示された……と言う事は無く。ポツンと2つだけスキル名が書かれていた。

『鑑定 Lv.1』
『お手製 Lv.1』

寂しい……祝福はどうした、女神様。
文句を言ったところでもうこの世界にいる俺には干渉出来ないらしいから仕方ないんだけど、もうちょっと何か無かったのかな。

『鑑定』の様に教えて貰う方法もあるみたいだから、他のスキルはこれから出会うであろう師とレベルアップ後に期待する事にして『お手製』スキルとやらの詳細を表示させてみた。

『お手製に変える事が出来る』

何かをお手製に変えられるのだろう。クリエイター系のスキルか。
わかりやすいっちゃわかりやすいがお手製に変える事に何の意味があるんだろう?

「シーナみんな揃ったんだけど、顔出せるかな?」

床に座り込んで自分のステータス画面を読み耽っていた俺の肩口に副隊長の顎が乗せられて慌てて飛び退いた。

「はい!!行けます!!」

見られて無いよね? 見られたところで対したステータスでは無いけれど、話を聞く限り俺と副隊長のステータスの情報には違っている様に感じるので知られないで済むならそれに越した事は無い。

「汚れるから座るなら遠慮なくソファーにどうぞ?」

立ち上がった俺のスボンを叩いてくれながら副隊長は部屋の隅にあったソファーを指差した。物に囲まれ、辛うじて一人座れるぐらいのスペースが空いているけれど、ソファーの上にまで物が溢れていて言われるまでそこにソファーがある事に気が付かなかった。
あの状態ではソファーに座るのも床に座るのも大差ないのでは……。

汚部屋とまではいかないけれど物に溢れ、埃の積もった部屋……イケメンなのに残念な人だ。

しかし、初めて副隊長の部屋から出て驚愕の事実を目の当たりにする。
副隊長の部屋、すごく綺麗だった……いや、他の部屋が汚すぎた。

階段を降りるとすぐに中庭があり、中庭に面した扉の一つを副隊長が開けた途端、異様な匂いが漂ってきた。酒の匂い、香水匂い、汗と脂の匂い、生ゴミの匂い……とにかく臭くて思わず鼻を押さえてしまった。

「起きろ!!客人を紹介する!!」

こんな匂いの中で寝てる人がいるのかと中を副隊長の背後から恐る恐る覗いて見ると、藁の敷き詰められた上にシーツが敷かれていて、その上に大きな体がいくつも横たわっていた。
家畜部屋かと思ったが、やる気のない返事と共にのそのそと部屋から出てきたのは人間だった……多分。髭も髪も伸ばし放題なのは隊長と一緒だが、匂いがキツい。
街を守る警備隊がこれで良いのか!?

「……こんな時間に客?まともな客じゃねぇっすね」

「お前らがこの時間まで帰ってこないのが悪いんだ。良いから早く整列しろ!!」

渋々ながら部屋から出て来て中庭に並んだ9人の男、警備隊の隊員達ということで良いんだよな?盗賊というか山賊という感じだけど。

「くああ……何すか?そのガキ……奴隷ですか?」
だらけた立ち姿で大欠伸をする姿はとてもじゃないがこの街を守る勇敢な姿では無い。

「西区の現場で保護した子だ。教会には預けず俺が後見人として面倒見る事になった」

俺は返事をしただろうか? もうそれ決定事項なんだ……今の俺は子どもの歳らしいから俺に決定権は無いのかもな。身元を証明するものも何も無いからしょうがないんだろうと、口は挟まずにいた。副隊長の側が1番安全な気がするし。

「副隊長がっすか?物好きっすね」
隊員の1人が体を近づけて来て、体を動かす度にむせ返る様な匂いが漂ってくる。

「俺達でこの子どもを守れば良いんですかね?教会に預けた方がいいんじゃないですか?」

「奴隷商の奴らが気に入りそうな顔してるっすね。教会はこの前来た新しい神父ってのが奴隷商の送り込んだ人間だって噂聞いたなぁ……預けた瞬間売られちまうんじゃねぇか?」

ケラケラ笑う男達に苛つきを覚えて、引きつる表情を隠そうと副隊長の後ろに隠れようとしたのだが、次の瞬間には副隊長の姿が消えていた。

「そんな噂を聞いておいてちゃんと教会の調査はしたんだろうな?この子は俺が守る……わざわざこうして整列させてこの子を紹介したのはお前らへの警告だ」

下品な顔で笑っていた男は一瞬のうちに地に倒されていて、その喉には副隊長の剣先が突きつけられていた。

「シーナに手を出したら殺す……この子を危険な目に合わせても殺す……」

剣を突きつけられている男の体は震え、立ったていた他の隊員達は背筋を真っ直ぐに伸ばして敬礼した。
副隊長はこちらに背中を向けていたのでその表情は見えなかったけど、声だけ……全てを凍りつかせる様な冷たい声音だけで俺は……腰が抜けてその場にへたり込んだ。

「おいおい、その辺にしといてやれよ~?俺達の仕事は魔物に関する事、人間同士のいざこざは自警団の仕事だ」

緊迫した空気を断ち切る様な間延びした声と共に俺の体は浮かび上がった。

「お前の大事な子が怖がって腰抜かしてるぞ?」
まるで猫でも持ち上げるかの様に軽々と脇を抱え上げられている。
「別に怖がってません。驚いただけです」
にやっと笑顔を向けられて、意味のない強がりと共に俺は隊長から顔を背けた。

「シーナ!!怖がらせてしまった?でもあいつらはきつく言っておかないとすぐに調子に乗るからね」

地面に下ろされ自分ではしっかり立ったつもりだったけど、腰が座らない赤ちゃんの様に崩れ落ちかけたが、副隊長に抱き上げられた。

「あの……下ろしていただいてもよろしいでしょうか……」

横抱きに抱き上げられたこの体勢は、俺がヒロインにするはずだったお姫様抱っこじゃん!! 俺がされるんじゃなくて俺がやりたいんだ!!
整列したままの隊員達もざわついている。

「あははははっ!!な?スゲェだろ?面白ぇだろ?」
隊長なんて指を差して笑うが副隊長は全く気にせずに歩き始め、下ろして欲しいが逆らったら危険だと脳が伝えてくる。

「釘は刺したが、こいつら馬鹿だからね。あの部屋に1人で近づいては駄目だよ?」

言われなくてもあんな劣悪な環境にわざわざ足を踏み込みたくないので何度も頷いた。

「さっきの部屋が隊員達の寝室、階段があって、トイレ、風呂、台所、その奥が食堂になっている」
中庭を囲む部屋をぐるっと説明してくれる。
良かった、お風呂とトイレあるんだ……と喜びかけて思い直した。お風呂あるのに何で隊員達はあんなに身汚いんだ?あいつらと同じお湯に浸かるって事だよな……部屋があれならトイレは……想像するとゲンナリする。

「階段を降りると今は誰も入って無いが地下牢、2階には俺と隊長の個室とトイレと倉庫がある」
「はい」

トイレは2階を使う事にしよう。掃除できなくて残念なイケメンなんて思ってごめんなさい。
副隊長はとても綺麗に見えた。
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