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幻の魔王

殿堂入りタイトル

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目の前にぽっかりと口を開けた洞窟。
洞窟では無くトンネルらしいけど、中は真っ暗で反対側の入り口は全く見えない。

「それで……この『断頭の隧道』にはどんな嫌がらせが?」
「棘のある言い方……魔物は特に特徴無し、単純なトラップでただ上からギロチンの刃が落ちてくるだけだよ」

ただギロチンの刃が落ちてくるだけって……十分脅威だろ。
だから断頭……なるほどな。
何となく自分の首を擦った。

「大丈夫!!攻略方法はバッチリだよ!!」
それは自分で作ったトラップだもんね、バッチリだろうけどさ。

「ちょっと待って!!」
意気揚々とトンネルへ踏みこもうとした勝利君の服を引っ張った。
「何?忘れ物?従魔達は……ちゃんと3匹ともいるよ?」
勝利君に指を差されて従魔達は嬉しそうに跳ねる。
喜ぶな、物扱いされてるんだぞ。
ご飯の時間か、遊んで貰えると思ったのか跳ねる従魔達の頭を撫でて落ち着かせると、コントローラーを取り出した。

「この先は魔王の国なんだよね?勝利君は余裕って言うけど一応勝利君のレベル上げておこうよ」

この先は勝利君が放置していたエリア、記憶違いで敵が強かったですじゃ済まされない。
事前の準備はやっておいて損はないはず。

「ミャオちゃんのハートくれるの?嬉しいなぁ!!」
「俺のじゃないって……しつこいなぁ」

あのお化け屋敷の森で手に入った大量のハートを全て勝利君へ振ると一気にレベルが30も上がった。
流石終盤のエリアの敵、落とすハートの量はエストリカ周辺とは比べ物にならなかった。

長い『レベルアップだにゃん』を聞き終えると勝利君は自分の拳を握ったり開いたりして自分の変化を確かめるようにしていた。

「今ならキスだけでミャオちゃん達かせられそう!!」

勝利君がレベルアップすると戦闘力が上がるのと同時に俺の感度が上がるクソ仕様。

「なら、今から試してみる?」
唇に手を当てて勝利君を睨むと、勝利君は冷や汗を浮かべて後退った。
「い……今はいいや……早くトンネル抜けなきゃね!!」

接続時以外の時の触れ合いは、俺が感じれば感じるほど電流が強くなるらしい。
強い魔物の攻撃すら跳ね返す勝利君の防御力を持ってしても重傷を追うほどだって嘆いていた。

……本当は、ちょっとして欲しかったなんて気持ちを隠して勝利君の後に続いた。

ーーーーーー

攻略方法と言うから隠されたスイッチを探したりするのかと思ったのに……。

「ほらミャオちゃん、通って、通って」
「う……うん」
勝利君が受け止めた馬鹿みたいにデカい刃の下をくぐり抜ける。
勝利君が手を離すと刃は轟音と共に地面を揺らして地面を抉った。

「これのどこが攻略方法?力でゴリ押しなだけじゃん」
「え~手っ取り早くて良くない?」
数歩歩くとまた刃が首を狙って落ちてくる。
……首を切ると言うより体を前と後ろに真っ二つに裂こうとしてるそれを、勝利君は素手で受け止めた。
どういう手の皮をしているんだろう……試しに刃先に触れてみると、鋭利な刃は触れただけで容易く指の皮を裂いて血が盛り上がった。

「ミャオちゃん!!大変!!『回復回復回復回復』!!」
たかだか指の先の皮を切っただけで特級の回復魔法を過保護にもかけられた。

「危ない物に触れちゃ駄目だよ!!ミャオちゃんの血なんて見たくない!!」
「勝利君が平然と触れてるから、もしかしたら切れない刃なのかと思って確かめてみただけ」

皮膚が鋼鉄なのかと勝利君の手のひらを握って確かめてみるけど普通に柔らかい。何度も手を繫いできたし、肌も合わせてきたから知ってはいるんだけど確かめずにはいられなかった。

「体の周りに薄い防御膜が張ってる様になってるみたいだよ。その強さは防御力に由来するみたいだね」
「防御膜……スマホの保護フィルムみたいなもんか……良いなぁ、俺も欲しいなぁ」
俺のステータス値……防御力0。
レベルアップしても体力ばかり上がっていく。

「俺がミャオちゃんの防御力だから、ミャオちゃんに怪我なんてさせない!!……でも勝手に自分から怪我しに行くのは止めてね」
回復魔法で傷の消えた何もない指に包帯を巻かれた。
これは、過保護と言うよりも次はもう触るなという警告の可視化だな。

気を取り直して先へ進むと漸く出口の光が小さく見えてきた。
光へ向けて駆け出したいけど、駆け出した途端にズドンだな。

「トラップ多すぎじゃない?」
十歩も歩けばトラップが作動する。
もしこれが本当のゲームだったら間違いなくクソゲーの殿堂入りを果たしただろう。

「だから人が来なくていいんだよ。二人の世界には最適じゃない?」

トラップは魔物にも有効らしく、所々にアイテムと化した魔物の痕跡が散らばっている。
一体、俺とどんな世界を作ろうとしているんだろう。

「この執拗なトラップが嫌がらせじゃ無いなら、何が嫌がらせだろうね。製作者の性格を疑うよ」

「うわぁ……棘だらけ。棘しか無いよぉ……でもそんな冷たいミャオちゃんも好き!!」

ズドンッ!!ズドンッ!!とトンネルに響かせながら、のんびりとした足取りで出口の光を目指して進んで行った。
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