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空いた従者枠

イベント突入

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木々の間からチラチラと山肌が見える様になってきた、周囲を見ると徐々にトラップの数も減ってきた気がする。
とはいえゼロではないし、まだまだ従魔を下ろすのは危険そうだけど。

「ミャオちゃんマップ確認させて?」
勝利君に言われマップを開いて現在地を確認した。
もう大分進んできていて、ここまで歩いてきた感覚からすると、あと数時間で森から抜けられそう。
森を抜けたところで高い山がそびえ立っているんだろうけど。

「そろそろどこかでお昼にしようか、お腹が空いたのかスラが暴れ始めた」
「頭の上で暴れちゃ危ないよ、おいでスライム」
俺が呼ぶとスライムは勝利君の頭の上から俺の腕の中に飛び込んできた。

どうせなら少し拓けた場所で食べようということになり、マップ上を探すと池っぽい水色の部分が側にあるのが確認出来たのでそこを目的地にまた歩きだした。

ーーーーーー

「うわっ……」
絶句するほど……吸い込まれそうな鮮やかなブルー。
周りの木々の間から漏れる光に水面がキラキラと輝いている。
池か湖かわからないけど、中央には苔むした大きな岩があってそこから水が流れ落ち虹が掛かっている。
水辺の倒木にはメルヘンカラーな大きなキノコが生えていて今にも妖精達が踊りだしそうな雰囲気。

「底が見える!!魚が泳いでるのが上からでもわかるよ!!」
水中では水の流れに合わせて水草と真っ白な大輪の花が揺れ、その間を色鮮やかな魚たちが悠々と泳いでいた。
これこそ異世界だよ!!

街も日本とは違うけど異世界というより海外旅行かテーマパークに行った感じだった。
こっちの世界にきて初めての異世界観光に心がときめいた。

倒木に腰を下ろすと勝利君が鞄から取り出したお弁当を膝の上に乗せてくれた。
勝利君が街で買っておいてくれたお弁当。

「こんな幻想的な場所なのに……」
ちょっと残念な気持ちでお弁当の蓋を開ける。
「今度時間のある時にゆっくり遊びにこよ?」

せめてサンドイッチやパンだったら……俺の膝の上にあるのはプラスチックの容器に入ったコンビニ弁当風な唐揚げ弁当。
勝利君の中で俺はどんだけ唐揚げ好きなんだろう。

あ……この前のとは違ってニンニクが効いてる味付けだ。
世界は大雑把なのにこういう細かな設定はするんだね。
そして発見、苔むした倒木に座るとお尻が湿る。
メルヘンの人たちは大変だね。
そんなところにリアルはいらないと思うよ。
……静かで穏やかな空気の中、そんなアホな事を考えてた。

周りでは魔物がうろついているとは思えない静かな場所だなあ。
ぼんやり景色を眺めながら唐揚げを食べていると湖の上を走る影を見つけた。
鳥かな?と上を見上げようとした時、突然世界がぐるっと回転した。
目が回りそうな景色に目を閉じた。
体に感じる重力。

自分の状況がわからず、目を開けて周りを確かめると勝利君に抱きかかえられ……空を飛んでいた。

「なん……でぇえぇぇ~!?」
その時が最頂部だったらしく空中にいると認識した途端、体は急下降した。

勝利君はスマートに側の木の枝に着地を決め、その横にスライムとモフルキャットも着地した。
グロッキーで唐揚げが戻ってきそうなのを我慢しながら先ほどまでいた場所を見ると逃げ遅れた雪ウサギダイフクンが羽の生えた変な輪っかに締め上げられて体が8の字みたいになっていた。

「ダイフクッ!!」
飛び出そうとした体を勝利君に押さえ込まれ、止められる。

「ミャオちゃん!!危ない!!落ちるって!!あれは捕縛系のトラップだから命は大丈夫だから落ち着いて!!」

「捕縛系……あれもトラップ?」

「昼間に動いてると思わなかったから気付くのが遅れて悪い……可動式のトラップは察知しにくくて直前まで気づかなかった」

「可動式?トラップが動くのか……」

「指定された範囲を飛んでいて対象を見つけると音もなく忍び寄ってくる……ミャオちゃんが可愛すぎて気を取られてた」

自走して向かってくるものを罠と呼ぶかどうかは謎だけど早く雪ウサギダイフクンを助けないとすごい変形してる。
落ちたら痛いだろうけど、助けに動こうとしない勝利君に業を煮やし、腕から抜け出そうともがいていると森の方から一匹の狼がやってきた。

俺の可愛い従魔が食べられる!!
勝利君ごめんと心で謝って、俺を拘束する腕に思い切り噛み付いた。

「お前たちは何者だ……そこで何をしている」

あれ?この声は……。
勝利君の腕に噛み付いたままで視線を向けると、そこにいたのはやっぱり狼でその口には雪ウサギダイフクンの緑の葉っぱの様な可愛い耳が咥えられている。

俺の雪ウサギダイフクン!!
なんて可哀相な持ち方を!!

もう一度飛び出そうとすると体がふわっと浮いた。
勝利君は枝を蹴って飛び降りると男の前へと着地した。

「その魔物は俺の従魔だ。今すぐ離せ」

勝利君の言葉を聞き入れてくれたのか分からないけど狼が口を開き、雪ウサギダイフクンの体はボテンと地面に落ちた。
必死に体をくねらせながら逃げてくる雪ウサギダイフクンを抱きしめる。

「こんな輪っかすぐに外してやるからっ!!」
外そうと輪っかを引っ張っても、抜き出そうと雪ウサギダイフクンの体を引っ張っても体が伸びるだけで外れない。

勝利君ならなんとかできるだろうと見上げると険しい顔で前を睨んでいた。

そういえば魔物と出会ったのに戦闘にならないなと狼の方を振り返ると、狼の輪郭が徐々に変化していって……。

「じゅ……獣人!?」
そこには狼の耳と尻尾を持つ男が立っていた。
本物の獣人だよ!!
チュートリアルも猫耳だったけどあれは獣人というよりもコスプレ感が強かった……。

つり上がった目、ゆったりと揺れる尻尾。
腰に当てた手の先には鋭い爪と、薄く開いた口からは立派な牙が覗いてる。

格好いい!!獣人の中でも格好いいランキング上位に入る狼の獣人!!
良いなぁ……俺もあんな強そうな感じの男になりたい!!

雪ウサギダイフクンに頭をタシタシと叩かれて我に返った。
「ああ!!ごめん!!」
理想の強さを持つ男の姿に、見惚れて雪ウサギダイフクンを強く抱き締め過ぎてしまっていた。

歪な姿に伸びてしまった体を元に戻そうと直していると勝利君が輪っかを握りしめて砕いてくれた。
「良かったなぁ!!ダイフク!!」

お餅を丸める様に押さえながら丸めてやるとなんとか元の姿を取り戻す。
スライムとモフルキャットも寄って来て心配そうに雪ウサギダイフクンに体を擦り寄せた。
うちの子達可愛いなぁと微笑ましく眺めていると、目の前にウインドウが現れた。

→『君はこの森に一人で住んでるの?』
 『狼の獣人さん?強そうで……格好いい』

……何だこれ?
初めてのタイプの選択肢に勝利君に目で合図を送る。
「何も押さないで」

狼の獣人から目を逸らさずに睨み続ける勝利君に止められた。

言われたまま何も操作せずに置いておくと『AUTO』というアイコンが光って『君はこの森に一人で住んでるの?』が勝手に選択された。
「……何も触ってないのに勝手に動いた」
「オート機能ありか……面倒くさい」
そう言って俺達を庇うように狼獣人との間に勝利君が入ってきた。

「そうだ……ここは俺の縄張り。何をしに来たのか知らないが今すぐ出ていけ」
男はようやく口を開き、選択された言葉に対する答えを返してきた。

「勝利君?今度はこれ……何が始まったの?」

「この男の名前はルード。俺がミャオちゃんの為に作ったキャラだよ」
なるほど、正式なこのゲームの世界の登場人物と言うわけか。
ん?

「このゲームのキャラって事は……」
勝利君の口は不機嫌そうにへの字に結ばれている。
その表情から読み取れる次の言葉は……。

「……ミャオちゃんの従者候補だね」

俺の予想を肯定する勝利君の言葉に、ルードという狼獣人に視線を戻した。
この人が……勝利君が俺の相手として作ったキャラなのか。
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