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聖女の役割

モルテの特技

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ご飯を食べ終わると明日までに準備をしておくからと店を追い出されたので、今日の夜と明日の朝の食材を市場で買って帰った。

「はあああ……満足。あんな料理が毎日食べられる様になったら幸せだなぁ~」

幸せそうにお腹を摩るモルテさんのゴットンさんへの怒りはどこかへ飛んでいったみたい。
この人、本当に食べ物に弱いなぁ……魔王に飴をちらつかせられたら、簡単に裏切られそうだ。

お茶のいれ方をライさんに習いながらポットから三つのカップに注いで、2人の前に差し出す。

「ありがとう。初めは危ない人かと思ったけど、話してみるととても感性の素敵な良い人だとわかったよ」

あの感性が素敵……それはどうかと思う。
にっこり笑いながらライさんはお茶を一口啜る。

「うん、とても美味しい……あの店の料理は御園君も気に入ったでしょ?」

「はい……俺があそこまでの料理を作れる様になれるかは不安ですけど……」

あのレベルを求められると……辛いなぁ。
俺は料理人になる為に呼ばれたわけではないはずだが……でも聖女の力が使えないんじゃ、いま俺に出来る事は料理を覚える事しかない。

「流石にあそこまで求めてないけど……これから先、魔物との戦いの為に街から出て生活していかなければいけなくなる。その時……御園君の手料理が食べられたら……どんな魔物が来ても負けないなって……」

チラッと視線を向けられ、ライさんは言い辛そうに口ごもった。

「ライさん……俺に魔法は使えないのでそんなドーピング……強靭な力を授ける様な神様みたいな料理は作れません……ごめんなさい」

なんだかんだと言っても、やっぱりライさんも俺に早く聖女として目覚めろと思っているのかと、ゴットンさんの料理で少し穏やかな気持ちになっていた心が重くなる。

「いや待って!!そこは謝るとこじゃなくて……落ち込まないで、ね?別にそういう意味じゃなくて……」

慌てて弁明するライさんの腕にモルテさんがしがみついた。

「手強そうじゃないの~ねぇ~?余裕ぶってないで僕の案に乗った方が良いんじゃないの~?今ならモルテ様特製の良いお薬付けちゃうよ~?」

ニヤ~と笑ったモルテさんの手には液体の入った小さな小瓶。

「それ飲んだら聖女に近づけるんですか?」

「ん?ティール興味あるの?なら、あげる~」

モルテさんから瓶を受け取ろうとしたらライさんに取り上げられた。

「モルテ特製なんてロクなものなはずないでしょ。駄目だよ」

「うわっ!!失礼しちゃう。これでも僕の魔道士としての力って数十万人の中から一人、選ばれた逸材よ?薬師としても名が知れてんだからね。しかも最年少ってことでリコニトルの選抜会場でもそれは目立って……うん?目立って?」

モルテさんは急に考え込んでうんうんと頭をひねり出した。

……リコニトルってそんなにたくさんの中から選ばれるんだ……自分で応募したんだよね?でもモルテさんってその割にはあんまりフュラ・ユイヴィールの事も聖女の事もあまり良い風には思ってない様な気がする。

「あ~っ!!思い出した!!あの親父どこかで見た事あると思ったら、選抜会場でやたら大騒ぎしてたヤツだ!!」

「ゴットンさんもリコニトルの試験を受けていたのか……ゴットンさんが受かってれば良かったのに」

ライさんの言葉にモルテさんは鼻で笑って肩を竦めた。

「全ての試験を力技ですり抜けて、いいとこまで残ってたみたいけど前の代のフュラ・ユイヴィールと聖女が姿を見せた途端にあんな感じになって落選だよ」

確かにゴットンさんのあれは恐怖を感じる……落とした前聖女の気持ち、わかるかも。

「ちょっと過剰だけど、純粋に聖女を崇めていて良い人じゃないか。お前とは大違い」

「はん!!だから落とされたんだよ。リコニトルに選ばれるのはフュラ・ユイヴィールと聖女に好意を抱いてない人間さ。フュラ・ユイヴィールと聖女は国の兵器。リコニトルに求められるのはその兵器を上手く使う事。兵器に情なんて抱いてちゃ、傷つけるのが怖くて使えなくなるでしょ~?」

……納得。
モルテさんが俺たちの事を兵器としてしか見ていないのなら、兵器として使えない俺なんて邪魔くさくて仕方ないよな。

「まあ、俺もお前の事なんて全く信用していないから良いが……兵器の扱い方には気をつける事だな。この国の事はどうでもいいが俺は御園君を守る。御園君を傷つけるなら例えお前でも……」

カチャ……と音が聞こえライさんを振り返ると怒りの表情で剣を構えていた。

「怖いねぇ~。俺はさ~安全な場所から指示だけ出してぇ、美味しい物お腹いっぱい食べられれば満足だから、なるべくフュラ・ユイヴィール様のお望みは叶えて差し上げるおつもりですよ?ね……可愛い可愛いティールちゃん。ライの望み通りの聖女様に頑張って仕立ててあげるね~」

モルテさんに肩を組まれ……頬を指でなぞられる。
その糸目からは感情はわからない。

……俺がどうなろうときっとモルテさんは何とも思わない。
モルテさんだけじゃない。フュラ・ユイヴィールと聖女はこの国に取って大切な存在だが、その存在は捨て駒。壊れれば次を召喚すれば良いぐらいの存在なんだろう。

だからこそ『御園 環』という個人は消され『ティール』という名で管理された。

『ティール』であれば誰でも良くて、何代も『ティール』は続いていく……俺が聖女として覚醒する方法を探すより、次の聖女に引き継いだほうが早くないか?という考えが頭に過った。

支えようとしてくれるライさんには悪いけど、それが得策じゃないかと思えた。
こんな俺を連れていてはライさんの評価だって下がるだろうし、いつ魔物が来るかわからないって言っていた。なら最速の方法をとるのが最善。
前のティールを崇めていたゴットンさんが俺の事も敬ってくれる様に、ライさんだって新しい聖女がくればきっとその子を自分の聖女として大切にするだろう。

「御園君から離れろモル「モルテさん……聖女って、いまから他の人と替われないんですか?」

「は?ちょっと待って!!流れ読めてる!?今そういう事言う!?」

俺の言葉にモルテさんは青ざめて俺の肩を揺すった。

「御園君……それが君の答え?」

ライさんの顔から怒りの表情が消えて、その剣は力なく下ろされた。

「……お力になれなくてごめんなさい。でも俺にライさんを守る力があるとは思えなくて……」

本当はもっと努力をして、それでも駄目な時に言うべき言葉なんだろうけど……応えられない期待を掛けられるのは辛い。聖女をやめた後もこの世界に留まるしか出来ないなら飯炊きに雇って貰えればライさんの力に少しはなれるかもな。

「待って、待って!!フュラ・ユイヴィールと聖女を選ぶのは扉!!その扉が選んだんだから君が今代の聖女である事には間違いないんだから!!頑張ろうよ~!!」

扉……。

「俺……さっさと扉に食わせた方が良かった?」

今日の朝に言われた事を思い出した。
あの時扉に食べられてれば良かった?……もう一度扉に食べて貰う事は出来ないんだろうか?
こっちに来てあの扉は見ていない。
扉に食べられるにはどうしたら?

考え込む視界の端で、ライさんが剣を強く握り直すのが見えた。

「モルテ……お前のせいだ!!御園君を追い込みやがって!!お前を殺してリコニトルを代替わりさせてやる!!」

「僕のせいだけじゃないだろ!?お前が扉に食べさせて、死の記憶なんて持たせたくないからとか言って正規ルートを踏まないから……うわっ!!」

ライさんが横一文字に振った剣をモルテさんがギリギリでかわす。

扉に食べられる……扉……死……雑賀君。
雑賀君も扉の事を杉浦君に話していた。

雑賀君の死も扉が関係しているとしたら?
雑賀君もこの世界に……?

喧嘩する2人の間からコロコロと何かが転がってきて足にぶつかって止まった。

「……これ」

モルテさん特製の薬だ。
これを飲んだら……聖女に目覚める可能性が……あるんだよね。

そっと拾い上げポケットの中へしまった。
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