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帰らない両親
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カチ、カチ、カチ。
時計の音も聞きあきた。家の中でこの音しか聞こえてこない。あたしは首をちょっと動かして時計を見上げた。短い針は十をすこし過ぎたところを指している。午後十時三〇分。窓の向こうはとっくの前から真っ暗だった。
ぐーと、お腹が叫ぶ。食べものを探し求めて、ぐるぐる回る感じ。お腹が鳴って、これで何回目だろう。あたしは自分のお腹をさすって、つばを飲みこんでおいた。
いつもなら六時に夜ご飯を食べる。だけど、あたしのお腹はからっぽ。これだけお腹が空いていたら、ご飯もおいしく感じるだろう。初めはそう思っていたけれど、限界が近づいてきた。
ご飯の前にお菓子を食べてはいけません。お母さんの言葉が、戸棚のおやつに手を出させないでいた。いつか、お母さんとお父さんは帰って来る。そしたら、すぐにご飯だ。と思って四時間が経った。
危ないから火を使ってはいけないよ。お湯を沸かすのも、やけどしたら大変だから、ゆいがもう少し大きくなってからね。お母さんは、あたしにガスコンロの使い方さえ教えてくれていなかった。カップラーメンがあることは知っているけれど、お湯の沸かし方がわからないから、結局何も食べることができなかった。コンロのスイッチってどうやって入れるんだろう。
「まだかなあ、お母さんお父さん」
お母さんとお父さん。今日は一緒に買い物に行くと言って、朝から出かけた。ゆいが小学校から帰ってくる夕方の四時までには、必ず帰ってくるからね。お母さんは確かにそう言っていた。でも、小学校一年生のあたしが四時に帰ってきた時、家の扉は閉まっていた。
ちょっと遅くなるのかな。約束は四時までだったけど、道が混んでいるのかもしれない。ならお留守番していよう。そう思って漢字ドリルの宿題をして待っていた。一時間過ぎ、二時間過ぎても、帰ってはこなかった。
お父さんもお母さんもこんなに遅くまであたしを一人にしたことなんてない。テレビをつければ何があったかわかったかもしれないが、あたしはテレビを見るのは一日に三時間までと言われていた。それを守って、今はテレビを消していた。
プルルルル、プルルルル
家の電話だ。
また鳴った。これも何回目だろう。
あたしはいつもの通りクッションを顔に押しやって、耳まで押しつける。電話が鳴り終わるのをこうやって待つ。お母さんに、変な電話は出てはいけないよ、といつも言われているあたしは、自分一人で電話に出たことがない。それに何度も何度もかかってくるのがちょっぴり怖かった。お母さんはいつもやるはずの『留守番電話設定』にしてくれなかったらしい。留守番電話越しでもあたしに用件が伝わることはなかった。
電話は切れた。やっとうるさいものが切れたと思った。これで安心、ホッとした。また時計の音が聞こえ始める。
「お父さんとお母さん、まだかなあ……」
時計の音も聞きあきた。家の中でこの音しか聞こえてこない。あたしは首をちょっと動かして時計を見上げた。短い針は十をすこし過ぎたところを指している。午後十時三〇分。窓の向こうはとっくの前から真っ暗だった。
ぐーと、お腹が叫ぶ。食べものを探し求めて、ぐるぐる回る感じ。お腹が鳴って、これで何回目だろう。あたしは自分のお腹をさすって、つばを飲みこんでおいた。
いつもなら六時に夜ご飯を食べる。だけど、あたしのお腹はからっぽ。これだけお腹が空いていたら、ご飯もおいしく感じるだろう。初めはそう思っていたけれど、限界が近づいてきた。
ご飯の前にお菓子を食べてはいけません。お母さんの言葉が、戸棚のおやつに手を出させないでいた。いつか、お母さんとお父さんは帰って来る。そしたら、すぐにご飯だ。と思って四時間が経った。
危ないから火を使ってはいけないよ。お湯を沸かすのも、やけどしたら大変だから、ゆいがもう少し大きくなってからね。お母さんは、あたしにガスコンロの使い方さえ教えてくれていなかった。カップラーメンがあることは知っているけれど、お湯の沸かし方がわからないから、結局何も食べることができなかった。コンロのスイッチってどうやって入れるんだろう。
「まだかなあ、お母さんお父さん」
お母さんとお父さん。今日は一緒に買い物に行くと言って、朝から出かけた。ゆいが小学校から帰ってくる夕方の四時までには、必ず帰ってくるからね。お母さんは確かにそう言っていた。でも、小学校一年生のあたしが四時に帰ってきた時、家の扉は閉まっていた。
ちょっと遅くなるのかな。約束は四時までだったけど、道が混んでいるのかもしれない。ならお留守番していよう。そう思って漢字ドリルの宿題をして待っていた。一時間過ぎ、二時間過ぎても、帰ってはこなかった。
お父さんもお母さんもこんなに遅くまであたしを一人にしたことなんてない。テレビをつければ何があったかわかったかもしれないが、あたしはテレビを見るのは一日に三時間までと言われていた。それを守って、今はテレビを消していた。
プルルルル、プルルルル
家の電話だ。
また鳴った。これも何回目だろう。
あたしはいつもの通りクッションを顔に押しやって、耳まで押しつける。電話が鳴り終わるのをこうやって待つ。お母さんに、変な電話は出てはいけないよ、といつも言われているあたしは、自分一人で電話に出たことがない。それに何度も何度もかかってくるのがちょっぴり怖かった。お母さんはいつもやるはずの『留守番電話設定』にしてくれなかったらしい。留守番電話越しでもあたしに用件が伝わることはなかった。
電話は切れた。やっとうるさいものが切れたと思った。これで安心、ホッとした。また時計の音が聞こえ始める。
「お父さんとお母さん、まだかなあ……」
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