Overnight dream..*

霜月

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Overnight dream..*Ⅲ

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「玲奈、やっぱり……彼氏できた?」

「え? ううん? できてないよ?」

 いつもの金曜日の昼休み。
 同僚の谷ちゃんとお昼のお弁当を一緒に食べている途中、急にそう言われてキョトリとした。

「えー?」

「なによぅ!」

「だって、なんか今日ソワソワしてない? 可愛くなった上に金曜日にソワソワするって、……そういうことじゃないの?」

「あはは。ちがうって。えーと、ちょっと楽しみな映画を借りてて、今夜ゆっくり観ようと思ってるだけ」

 内心ドキリとしたのを隠すように、私は咄嗟に嘘をついた。

「ふぅーん?」

「あはは……」

 谷ちゃんの疑わしげな視線を、私は笑って誤魔化す。


『Overnight dream..~甘い一夜を貴女に~』

 金曜の夜になると、まるでゲートが開くかのようにスマホ上にそのゲームの画面は現れる。

「そのゲームの画面をタップしたら、なんかゲームの世界に飛ばされちゃってさ! しかも、その場で出会ったキャラクターとセックスしちゃった!」

 ……なぁんて正直に言ったところで、きっと信じてはもらえないだろう。

 もちろん私だって最初は夢だと思った。
 そしてその後は、もしかして自分は頭がおかしくなってしまったのだろうかと、こんな空想をしてしまうほどストレスが溜まっているのだろうかと、自分自身を心配した。

 それでも。
 肌に残る体温、耳に残る息遣いと甘い声、唇に残る唇の感触に、脳に残る美しくも妖しい瞳の煌めき、そのどれもが夢で片付けられないほど生々しく私の中に残っていて。

 夢とも現実ともつかないその余りにも非現実的な体験は、今まで平凡な日常を過ごしてきた平凡な自分にとってはとても刺激的で、強烈で。

 この人との夜はこの一度きりという思いは私の心を解放して、今までの自分では有り得ないほど行動を積極的にし、その上でするセックスは信じられないほど気持ちが良かった。

 そして今夜も。

 おそらくだがあのゲームの世界に飛び、また違う誰かと、私は心を解放するような経験をする。

 そう思えば、むこうの世界で過ごした夜を思い出してゾクゾクして、今夜体験するであろう夜を期待してしまってドキドキしてしまうのだ。

(……ソワソワしちゃってたかな……。あぶないあぶない)

 どこかしらフワフワする気持ちを落ち着けるため、周りにバレないように深呼吸して、残りのお弁当を食べる為に私は再びお箸を握り直したのだった。



 *



「うーん? ……やっぱりやり過ぎかな?」

 夜になり、夕食やお風呂を済ませ、1人鏡の前に立つ。

 今私が着ているのは裾にレースがついたほんのりピンク色のちょっぴりスケ感のあるベビードールで、下にはセットになっていた同色のやはりスケ感のあるショーツを履いている。

 前回着ていたエメラルドグリーンの下着を購入した際、ショップの店員さんに猛プッシュされてつい買ってしまったものだ。

 いつも行くランジェリー・ショップの店員さんとは、行けばキャッキャと話をするぐらいに仲が良く、これを買いに行った時にはまだシリルさんに付けられた痕が胸元に残っていて。
 それを目ざとく見付けられた後は凄かった。

「いつものダーク系の下着もよく似合っていていいですけど、こういう淡い色合いのものもよくお似合いですよ! これならセクシーさもありますし、絶対彼氏さんに喜ばれます!!」と力説され、彼氏は出来ていないと訂正する暇もなく買わされたのだった。

(……見せる相手は彼氏じゃないんだけどな……)

 そう思いながら、サラサラと肌触りの良いベビードールの裾をすこし摘む。

(まぁ、でも、こういうのを着た時の相手の反応は少し気になるし……いっか)

 そう思いつつ黒のフード付きパーカーを羽織ってからベッドへと入り、まだ時間があるならと日記を書くためにスマホを開く。

「彼氏か……」

 日記に何を書こうかと今日の出来事を思い出していると、昼休みの谷ちゃんとのやり取りを思い出した。

 ゲームの事があり若干今はそれどころではないが、彼氏が欲しい気持ちは勿論ある。
 たしかに元彼は酷い人で、元彼との経験から恋やセックスに対して後ろ向きな気持ちになっていたが、シリルさんやライアン様と夜を過ごしてみて、やはり私にも悪いところがあったのだと改めて思うようになった。

 告白されて付き合って、何もかもが初めてな中、どちらかというと私は受け身の側だったのだ。
 流されるように初体験を済ませ、どうすればいいのか分からないままただひたすら彼からの要求を飲み込んで。
 従順な彼女というのは都合も良かったのだろうが、それと同時につまらなく、飽きるのも早かったのだろうと今なら思う。

「彼氏と喧嘩とかしてみたいな……」

 自分の思いをぶち撒けても相手が離れていかないという自信がないとできない行為。
 もちろん元彼と喧嘩なんてした事なくて、よく「彼氏と喧嘩した~……」と言いながら結局はラブラブカップルな谷ちゃんのところを羨ましく感じる。

「…………そう言えば今日は佐々木さん見なかったな」

 不意に、同期入社した、2才年上の、今や営業課期待のエースと呼ばれている人の顔を思い出す。
 年の差からか妹のように扱われ、佐々木さんとは喧嘩まではいかないが、やいのやいのと言い合える仲だ。

 女の私が嫉妬してしまうほどキメが整った肌を持つ鼻筋が通ったイケメンで、背も高く、仕事もデキて、優しい。
 それこそ乙女ゲームのキャラクターみたいな人で、佐々木さんが彼氏だったらと思うこともあるのだが、佐々木さんが私の事を女として見ていないことなど十分すぎるほど知っているし、今更彼が私を好きになるなんて、そんな都合の良い事は起きないと、自分の気持ちに蓋をして妹ポジションで満足していた。

(なんか最近悩んでるっぽいけど……、大丈夫かな?)

 最近、佐々木さんからの餌付け頻度が高くなっている気がする。
 そしてその度に何かを言いたげな目で見てくるので、促すように少し首を傾げるのだが、フイと視線を逸されてしまうのだ。

 何か悩み事があって相談相手を探しているのかと思っているのだが、妹ポジの私では少々頼りないのかもしれない。

(でも、いつもお菓子貰っちゃってるし……。今度またあの表情をしてたら思い切って聞いてみようかな)

 そう思ってフッと息をついたその瞬間、ピコンとスマホが鳴り例の画面が表示された。

『Overnight dream..~甘い一夜を貴女に~』

 そのタイトルと共にその画面に映っていたのは、その顔に不敵な笑みを浮かべる美形男性で、濃紺の少し長めの髪に、濃紺の騎士服を着ている。

『レオ・ルフェーブル 28才 第一騎士団団長』
『~「……俺を愉しませてくれるんだろうな?」~』

(レオって、……ライオンだっけ。まぁ、とりあえずこの人で最後か……)

 そのキャラクターのライオンのような金色の瞳を見ながらそう思い、えい! と決定ボタンをタップすれば、あの目眩と急激な眠気に襲われ私はそのままベッドに突っ伏した。



 *



「……どこ、ここ?」

 前回はライアン王子のベッドの上だった。
 前々回はシリルさんのショップ近くの路地裏だった。

 今回は……。

「……執務室とかいうやつ?」

 カーテンも閉められ、明かりも落とされた暗い部屋。
 目を凝らせば大きな執務机や、本棚、応接用と思われるソファとテーブルのセットが置かれているのが見えた。

(……静かだな。……夜だから?)

 レオと紹介されていたキャラクターは騎士団の団長とも書かれていて、そしてここは、おそらくだが彼の執務室になるのだろう。
 それならばここは騎士団とかいうやつで、それならもう少しガヤガヤしているのをイメージしていたのだが、耳を澄ませても近くに人がいるような気配はしなかった。

 外の様子を見ようと執務机の後ろにある大きな窓のカーテンに手を掛け、窓越しに外を見る。

 今宵は満月なのか真円に近い大きな月が見え、その月明かりで外は明るく、所々に灯りも点いているのも見えて。
 ここは1階ではなく、2階か3階ぐらいの階にある部屋で、部屋の外には訓練場のような広場が広がっているのが見えた。

(やっぱり人はいないみたい……)

 レオ……さん? 様? とやらはどこにいるのだろう。そう思って少し首を傾げた瞬間、ガチャガチャと扉の鍵を開ける音が部屋に響いた。

(ヤバっ! この部屋鍵かかってたんだ!)

 どこかフワフワとした気持ちのままこんな格好で来てしまったが、鍵のかかった暗い部屋に下着姿の女など、……明らかに不審者である。それか、ただの痴女だ。

(やっぱ普通に服着とけばよかった!)

 そう思っても後の祭で。
 私はパニックになった頭でカーテンの影に隠れ、無駄とは思いつつ扉が開かれない事を祈った。

 だがしかし。

 ガチャリとその願い虚しく扉が開く音がするのが聞こえて。

(……気付かれませんように!!!)

 レオという人物に出会わなければならない事も、入ってきた人物がその人である可能性も頭から抜け落ち、ただひたすら息を潜めながらそう願ったその瞬間。

「……そこにいるのは誰だ」

 ……低い、尋問の意思を含む声が聞こえた。

(ど、どうしようどうしようどうしよう?!)

「…………誰だと聞いている」

 コツリ、コツリ、とゆっくり近づいてくる靴音とその低い声に、頭のパニックが加速して何も答えられない。

 その内、カチャリという金属音も聞こえて。

(騎士ならもしかして帯剣してる?! 斬られる?!)

 と、血の気も引いた時、「……その足……女?」と言う声が聞こえて思わず下を見れば、カーテンは太もも辺りまでしかなく、その下から自分の足が丸見えである事に気が付いた。

 ツカツカと近付く足音が早くなる。

「きゃっ!!!」

 バレてしまったと頭が真っ白になったその瞬間に、カーテンが大きく開かれて。

「……祭りの夜に俺の執務室にまで忍び込み、俺に抱かれにきた女はどんなやつだろうかと思ったが……」

 声だけでゾクゾクしてしまいそうな低音で紡がれる言葉を聞きながら、私は私の前に立った男性を恐る恐る見上げた。

 ……そこにいたのは。

 月明かりの下、漆黒にも見える濃紺の髪を持ち、あのキャラクターに似た恐ろしい程整った顔立ちをした男性だった。

「その髪……お前、眩惑の魔女だな?」

 そして、ライオンのような美しい金色の瞳を煌めかせ、そう言う彼がニヤリと笑ったその瞬間、私は見つかってはいけない人に見つかってしまったのだと悟った。

「おっと。…………逃すかよ」

「……っ!!」

 それでも抗おうと、逃げようとしたが容易く腕を掴まれ、いつの間に握ったのか喉元にナイフを突きつけられた。

「その格好では何も持っていないと思うが。……手を挙げて窓に背を付けろ」

 ナイフまで出されては正にお手上げで。
 仕方なく、私は言われた通りに手を少し挙げて先ほどまで外を見ていた窓に背を付けた。

 彼は私の目の前で腰に刺していた剣を執務机の上に置き、椅子をこちらに向けて座って、足を組む。
 そのゆっくりとした動作の間中、愉悦を含めた笑顔を浮かべて私を見つめつつも、その手には私に向けたナイフを握ったままだった。

「一応確認するが、お前は魔女だな?」

「……ええ」

「名前は?」

「……レナ」

「くくくっ。……眩惑の魔女の存在は聞いた事があったが、……イメージと違ったな」

「すみませんね。絶世の美女とかじゃなくて」

「ははっ。いや、そんな格好をしているヤツに言うことではないが、なんと言うか、もっとこう……男慣れしたギラつく目をした女を想像していただけだ」

「…………」

「では、魔女。俺の名を知っているか?」

「……レオ・ルフェーブル」

「他には?」

「えっと、たしか28才で騎士団の団長さんでしょ?」

 ただ、ゲーム画面に促されて送り込まれてきただけなのに、何故かナイフを突き付けられ尋問をされている。
 その状況にちょっと不満を感じて少しぶっきらぼうに答える。

「やはり、対象は俺か?」

 その言葉に、すこし眉が寄る。

「黒髪を持ち、相手の名前や年齢を言い当て、その相手を一夜で骨抜きにして消える女。……眩惑の魔女、今夜骨抜きにする相手は俺かと聞いている」

「……ええ。そうよ」

 骨抜き云々は置いといて、今夜の相手が彼であることに間違いはないだろう。

「なるほど。面白い。誘うだけ誘っておいていざとなると受け身な貴族女には飽きていたところだ。……わざわざそんな格好で現れる程だ、魔女殿は……俺を愉しませてくれるんだろうな?」

「……愉しませてあげられるかは分かりませんよ。……ただ、ナイフを向けられていては何もできない事ぐらいは分かりますが」

 彼のその不遜な態度にじわじわとムカついて、ジト目で睨みながらそう言えば。

「はは! ……それもそうだな」

 彼はそう言って、あっさりとナイフを床に投げ捨てた。

(私が悪い人間だったらどうするんだろ?)

 その様子を見て、ふと、そう疑問に思ったが、先ほどのいつの間にかナイフを握っていた様子を思い出し、この人は体術だけでも十分強いのかもしれないなと思い直した。

 椅子に座る男を見下ろして、もう一度観察する。

 執務机の椅子に足を組んで座り、肘掛けに手をついて、ゆったりと私を見上げている。
 その濃紺の髪は月明かりを反射して艶めき、長いまつ毛に縁取られた切れ長のその金色の瞳が、美しく輝きながら私を見つめていて。
 羽織っただけの騎士服の上着に、その間から覗く白いシャツはすでに上のボタンが外され肌がチラつき、色気を放っていた。

(ウェルカムな雰囲気なだけマシか……)

 骨抜きにするとか、愉しませるとかはイマイチよく分からないが、変な話、私も一応セックスをする気満々で来ているし、この男も今から私とセックスすることに拒否感がある訳ではなさそうだ。
 服装の着崩れ感から、休憩中か、終わったか。とりあえず仕事中というわけでもないのだろう。

「積極的な女がいいの……?」

 ここまでくればYesもNoも関係ないわと思いつつ、窓際から離れ、その滑らかな頬に手を添えて、愉悦に歪むその唇を親指でなぞりながらそう聞いてみた。

「まぁ、な。閨事とはそういうものだと教えられているのもあるのだろうが。……声も反応も押し殺し、気持ちいいのかどうかも言わずにただ男が果てるのを待つ。そういう女を抱くのは流石に飽きた」

(……ああ、だからライアン様は私から仕掛けた時、あんなに慌てていたのね……)

 シリルさんはそんな感じではなかったから、なんというか、相手にしている女性の層が違うのだろう。
 この男の話振りから察するに、どうやらこの世界の高貴な女性は、言い方は悪いが、セックスの時にはマグロでいるよう教えられているのかもしれない。

「それなら……貴方が手ほどきすれば良いのに」

 私だって、シリルさんとセックスする前はほぼマグロだった。
 それをシリルさんに教えてもらってセックスの気持ち良さを知って、ライアン様と探り合う事でセックスの愉しさを知ったのだ。
 だからこの人も、相手に求めるものがあるのなら、それをきちんと相手に伝えるべきだと思ってそう言ったのだが……。

「ハッ! ……一夜しか相手にしない女に手ほどきするなど面倒だろうが」

 一笑に付されてしまった。

 まぁ、たしかに彼の言う事も分かる。
 単純に無知でマグロだった私と、そういうものだと教えられてマグロの女性とでは順応度も違うのだろう。

 それでも、女性をバカにしたようなその言い方に、昔の自分をバカにされたような気になり少しカチンときた。

「……貴方こそ面倒ですね」

「……な、んっ」

 そう言い放った後に椅子に片膝を掛け、何か言いかけた唇を塞ぐ。

(……女だって、できるんだから)

 そう思いつつ、そのまま彼の肩に手をついて、ゆっくりと、ムカついた自分の気持ちを宥めるようにその唇を何度か喰み、唇を舐めて促せば彼の口が開いた。

 舌を入れ、絡めて、吸って。
 丁寧に彼の口内に舌を這わせてからチロチロと彼の舌を舐め擽れば、合格と言わんばかりにベロリと舐め返されて、組んでいた彼の足が解かれ、手も私の腰に添えられた。

「……そう言えば、レオ様とお呼びすればいいですか?」

「レオでいい。敬語もいらん。……魔女の名はレナだったか?」

「はい。……できれば魔女ではなく名を呼んで? そして、私もするから。……レオ、貴方もして?」

 しばらくしてから唇を離し、微笑みながら少し首を傾げてそうお願いすれば、「……ああ、レナ。いいだろう」と言われた。

 口を開けて舌を差し出し彼を誘えば、応えるように彼がベロリと舐め、そのまま口内に押し入ってきて。
 本人曰く、飽きる程女性を抱いているだけあってキスは上手いなと思いつつ、私は彼のシャツのボタンに手を掛けた。

「ん……んんっ、ふ、んんっ」

 口内を貪られ、腰とお尻を撫で揉まれて声を漏らしながらも。
 呑まれないように、逆に煽るようにボタンをゆっくり外し、それが終われば中に手を入れ、滑らせるように撫でながら前を開いた。

 唇を離し、少し上体を起こして見下ろせば、月明かりに照らされる、美しさすら感じる程の鍛え上げられた体が見えて。
 未だに余裕のある表情で私を見上げるレオの視線を感じつつ、私は彼の首筋に吸い付いた。

(この人は柑橘系の香りか……)

 そんな事を考えながら緩急をつけて吸い付き、時折舐め、手と共にその体を下りてゆく。

「……ふっ、、っ、……はっ」

 所々にある怪我の跡や、男性のその小さな頂を舌先で舐め吸えば、その度にレオが息を飲み、呼吸のリズムがじわじわと乱れるのを感じて。
 上体を起こして視線を上げれば、ニヒルに口元は笑いながらも、眉を切なげに寄せほんのり目元を色付かせたレオの顔が見えた。

 目線が合うと同時にレオの大きな手が伸びてきて、思いの外優しい手つきで髪を撫で梳く。

 その手の優しさがまるで褒めているかのように感じられて。
 私は、それをすこし嬉しく感じる気持ちのまま、その手に頭をすり寄せつつ、彼のベルトに手を掛け外しズボンのボタンも外した。

「……少しは愉しんでもらえてるって思っていい?」

 彼と目線を合わせながら下着越しに感じる彼の熱を指先でなぞり、キスをしてからすこし首を傾げて挑発するように声をかければ。

「ああ、……上出来だ」

 彼がニヤリと笑いながらそう言って、私の体に手を伸ばしてきた。

「あぁっ……、んっ、……んんっ、あっ、あっ、あぁあっ」

「レナ、いい声だ。……もっと鳴け」

「んっ、ゃああっ!!」

 胸をやわやわと揉まれ、頂を指先で掠るように擦られ、時折摘まれて捏ねられて。
 その気持ち良さのまま声を零せば、ベビードール越しに舐められた。

 その薄い布越しに感じるその熱い舌のヌメりは、たしかに気持ちがいいのだが、同時にもどかしさも募らせるもので。
 切なさを混ぜながら彼を見つめれば、舌を突き出しそのプクリとした頂を舐め突きながら私を見上げる瞳と目が合って。

「……レオ。……んんっ」

「……なんだ?」

 堪らず声をかければ、レオが舌を離して私のうなじに手をかけてキスをしてきた。

 意地悪そうに笑いながら間近で私を見つめるその瞳は「誘うならちゃんと誘え」と言っていて。

「……直接して?」

 私はその瞳に屈するようにパーカーを肩から落とし、ベビードールの肩紐を外して胸を肌けさせ、そうねだっていた。

「くくっ。そう可愛くねだられては仕方ないな」

「ぁあ……っ!」

 レオの舌先が直接触れたその瞬間、背筋に甘い痺れが走り体が跳ねた。

「んん……、ふ、んぁ、ぁっ、気持ちぃ……んぁあ、……んんっ?!」

 熱い口内で彼の舌が私の頂を舐める快感を、彼の頭を掻き抱きながら伝えれば、彼の腕が腰と脚に回されて。
 そのまま私を抱きかかえる形でレオは立ち上がり、気付けばその大きな執務机の端に座らされていた。

 背に片手を回され支えられ、胸にキスをされながらゆっくりとのし掛かられ、上体を倒される。
 唇が離れたので視線をレオに向ければ、逆光で陰る顔に、金色の瞳だけが爛々と輝いているのが見えた。

 私を見下ろしながら、彼がゆっくりと上着とシャツを脱いでゆく。

 ……よくこういう場面は肉食獣と、それに狙われた獲物に例えられるものだが。

(ほんと、ライオンって感じ……)

 胸の部分に付いていた勲章が月明かりを反射して煌きながら、チリチリと音を立てるのを聞きつつ、私はそんな事を考えて。

 逃げる事などとうに忘れ、目の前の捕食者をただただ見上げていれば、滑らかな肌の中、所々に傷跡が残る均整がとれた美しい体躯が眼前に現れた。

 男らしい喉元、浮き出た鎖骨に、綺麗に割れた腹、そのどれもが色香を放ち、その主が獲物を私に定め、いたぶる前の興奮を抑えるかのように自身の唇を舐めつつ再び覆い被さってきて。

(食べ……られるっ!)

 首筋を舐められ歯を立てられた瞬間、恐怖にも似た期待が背筋を駆け抜けゾクゾクとした。

「んんんっ、……ふぁっ、あっ! ゃ、んんっ!」

 どちらがこの場の支配者なのか教え込むように喉元にも歯を立てられ、どちらが強者なのか教え込むように先ほどより強い力で胸を揉まれて。
 頂も、齧られ強く吸われキリリとした痛みすら感じる程強く抓られた。

 その乱暴な雰囲気に恐怖心を感じている筈なのに、自分の口からは甘い響きを含んだ声ばかりが出て、混乱する。

 そしてその声を止める術を思い付くことなく、そのまま体のあちらこちらを舐められ噛み付かれながらパーカーやベビードールも脱がされ、ショーツも抜き取られてしまって。

 レオが体を起こし私の脚を大きく割り開いた時、彼が心底愉しそうにニィ……と笑った事に気が付いた。

(……まさか)

「可愛いやつだな。……レナ、……すげぇ、濡れてるぞ」

 彼の手が伸びてきて、その指が秘裂をなぞれば蜜が溢れていることを感じ、そのままソコはすんなりと指を飲み込んだが、喉がつかえて声は出なかった。

 知らない男に荒々しく暴かれているというのに、今までにないほど濡れているという事実は、結構な衝撃となり私の思考をストップさせて。

 その為に反応が遅れ、気付いた時にはレオの舌が私の花芯を舐めていた。

「ダメっ! あ! んんっ!! ……ッ、レオ! ひっ、やめ……ッ!」

 慌てて彼の頭に手を掛けて制止の声をかけるが、そんな事で止まってくれる人ではなかった。

 初めから知っているかのように中の弱い部分を指で刺激され、花芯を舌でねぶられ、時折音を立てて強く吸われる。

 私を追い詰める為だけのその行為が、圧倒的な強者によって行われれば、私の体などあっという間に快感の波に飲み込まれてしまい、後はただイかせてもらうことを願う事しかできない。

(っ!! イき、そうっ!!!)

 目をかたく閉じ、体の奥に渦巻く激流が決壊するその瞬間があと少しで訪れるのを感じた刹那。

 ピタリと指の動きが止まり、舌が離れた。

「……はっ、はぁ、…ふ、、な、んで?……、っ?!」

 明らかにイく寸前と分かってて止められて、思わず睨みながら尋ねれば、顎を掴まれた。

「レナ。……イく時は、ちゃんとそう言え」

「……え?」

「お前の鳴き声はイイよ。とことんイかせて喘がせて、泣き叫びながらねだらせたくなる」

「……んぁっ。……んん」

「レナ、……イきたいか?」

「イき、たいっ」

「……このまま、指で?」

(このまま? 指で?)

 レオの言葉を頭の中で反芻する。

 くちゅくちゅと音を立てながら中を蠢く彼の指は確かに気持ちがいい。
 だから、あっという間に追い詰められ高められたのだ。

 でも、ギリギリまで高められ更にその上を求める体を前に、指を上回る熱の存在を仄めかされてしまえば……。

(…………欲しい)

 私は……ゆるゆると、首を横に振った。

「……ちゃんとねだれ」

 耳元で囁かれた言葉に、それを口に出すことを一瞬だけ躊躇い、視線が彷徨う。

 彼が上体を起こし、指を引き抜いて。
 その蜜でヌラめく指を舐めながら、出方を待つようにその金色の瞳が私をヒタと見据えた。

(……レオが、欲しい)

 指ではなく、彼の熱く滾るモノで貫かれたい。
 その質量で中を満たされ、最奥まで侵されたい。

 その、強者を求める雌としての本能に近い欲望はあまりにも強烈で。
 私は自ら脚を開き、自身の秘裂に指を添わせ、私は、本能からくる欲望と理性からくる羞恥の鬩ぎ合いに涙を滲ませながら彼を見上げた。

「お願い。……レオが欲しいの。ココに入れて、奥まで犯して?」

 その瞬間。
 強者は捕食者へと変わり、獲物を前にしてニタリと笑った。

「……上出来だな」

 彼はそう言うと前を寛げソレを取り出し、私の秘裂に当てがった。

「もうイくのも止めん。……枯れるまで鳴け」

「んんっやぁぁ!! ひぁっっ! ……く、ぅ、……っ!! ひっ、あっ! ああっっ!」

 蜜が溢れていなければ入れるのさえ困難だったのではないかと思われるその熱に、ズンッと最奥まで一気に突き入れられ、抑えられない声を上げて。

 続く抽送は、まだおそらく彼のトップスピードではない筈なのに、ギリギリまで高められていた体では限界などすぐに来てしまった。

「レオ! レオ! だめっ、気持ちいいの! ……っ、あっ! ……ひぅっ、ッッーーー~~……っっ!!」

「……っ、はっ。……おい、レナ。イく時はちゃんとそう言えと言った筈だぞ? …………やり直し」

「ひっ!! やっ! ん、んんんっ!! ふぁ、んんっ!!」

 イッている途中の奥を容赦なく突かれ、痙攣に体が跳ねるが、抑えるようにホールドされて唇も塞がれた。

「ふぁっ! はっ! レオっ! も、ダメっ! ……ぁあっ!! またっ、……っ、く、ふ、んん……イ、くッーー…っ!!」

「……はぁっ、くくっ、イイ子だ。……ご褒美をやろう。…………ああ、……その顔もいい……」

 緩急をつけ、的確に。
 絶頂から降りても、すぐに再び高みへと追い立てられる。

(なに……っ、コレ!!?)

 熱が溜まり、渦となって、快感となり体を駆け抜ける感覚は知っている。
 でも、コレは、そんな生優しいものではなくて。

(これ以上イくとか無理っ)

 絶頂感が溜まり渦巻き始めるという、その先を考えただけで息が止まりそうなほど恐ろしい感覚。

「やっ! もう許して!! ……ひ、ああっ! もう、やめっっ!!」

「……そう言うな。……それに。レナが手ほどきをすればいいと、はっ、……っ、言ったんだぞ?」

 不意に彼が上体を起こし、髪を掻き上げながらそう言った。

 月光を浴びるその捕食者は首筋を伝う汗すら美しく、どこまでも愉しそうに私を食べる。

「……ここまでイくのが惜しいと思う夜は初めてだな。だがそろそろ……」

「うぁあっ?!」

 食べ尽くされる直前の朦朧とした意識の中、彼が何かを言ったかと思えば、急に彼のモノが引き抜かれた。

 うつ伏せにされて腰を引かれ、再びその先が蜜口に当てがわれて。

「……仕上げといくか」

 背後で囁かれたれたその言葉に全身に鳥肌が立った、その瞬間。

 ……コンコンッ!  

 急に響いたノック音に、時が止まる。

「団長、いらっしゃいますか?」

(……人?)

「ひっ! ぃやっっ……っ!」

 広い執務室で扉まで距離はあるとはいえ、扉1枚を隔てただけの所に人がいるという状況に、思わずそちらに気取られ今の自分の状態を忘れてしまったその一瞬に、再びその太い熱杭を打ち込まれ声が出てしまった。

「……ああ。どうした?」

「え? 鍵? ……あのっ?」

 慌てて口を手で押さえると、ガチャガチャと扉を開けようとする音がしてビクリとしたが、その後鍵が開かない事に戸惑う声がしてホッとした。

「悪りぃが、今取り込み中でな。手短に頼む」

「……っ!? ………ふぅっ! んっ………ふっ!」

 人がすぐそこにいるという状況でゆっくりと動き出され、焦りと快感で全身が粟立つ。
 ゆっくりと引き抜かれたかと思えば一気に突き入れられ、その熱が奥を穿つ度にくぐもった声が押し出される。

(……っていうか、ほんと! 動くのやめてよっ!!)

 手で口を押さえながら心の中で悪態をつくが、体勢的にはされるがままになるしかなく。私はただひたすらに扉向こうの人物がいなくなる事を願い続ける事しかできない。

「……? ああ……、はい。休憩中申し訳ありません。第一王子殿下がお呼びです。あの、御急ぎではないとの事でしたが、えっと、……その、用事が終わられましたら御戻り下さい」

「……ああ、わかった」

「失礼しますっ」

 そしてようやく扉向こうの人の気配が遠ざかったかと思えば、レオが背後でクツクツと笑った。

「悪い。……待たせたな」

「……んああっ! やっ! レオ!!」

 再び始まった激しい抽送に、声が出る。

「くくっ、……レナはああいうのが好きか? ……アイツと俺が話す間、すげぇ締め付けたが?」

「ぁあっ! そんな、ことっ!」

「では、後ろから突かれるのが好みか? ……ああ、いいぞ。……よく締まる」

 腰を持たれ、後ろからガツガツと突かれ、脚が震える。

「……それにしても、殿下のお呼びか……」

 その激しさに必死に耐えていると、レオが不意に呟いた。

「んんんっ、ライアン、様?」

 そのレオが不意に零した殿下という単語を聞き、私は無意識にエメラルドグリーンの瞳を思い出して、何気なくその名を口に出してしまった。

 その、瞬間。

 あれほど激しく動いていた熱が、……ピタリと止まった。

(え? なに?)

「…………レナ、お前。殿下に抱かれたか」

 背後の人が放つ空気が変わった事に気付き困惑していると、急に腕を引かれ、喉を掴まれて。耳元で低く、そう囁かれた。

「……ッ?! ひっっ!! やっ! あああっ!」

 纏う空気を変え、喉を掴んだ手はそのままに、腰にも手を回して掴み、その存在を刻むように奥深くを強く突き始めた熱に戸惑う。

「くっ! たしかに魔女は、はっ、3人の男に抱かれると聞いたが……っ。ああ、これはクる」

「レオ?!」

「知らんヤツならまだ良かったんだろうが……、腕の中で知ってる男の名前を出されるっていうのは……。くくっ、久々に、……キレそうだ」

「んんんっっ! あっ、ん、やぁぁっ!!」

「……レナ、今お前を犯しているのは俺だ。他の誰でもない。……奥に出してやるから、消える前にしっかり俺の熱を覚えろ」

 耳を舐めながら、直前脳に注ぐように流し込まれた言葉。

「……今度こそ仕上げといこうか」

「レ、オ……っ?!」

 その言葉に乗った感情を私が理解する前に、その美しい捕食者は、真の獣となった。


 人気のない建物で、月光を浴びながら。
 黒髪艶めく魔女は、黄金の瞳を持つ獣に犯される。

 ナカだけではなく、その体を、脳を、耳を犯され、その獣の熱さを刻み付けられて。

 その部屋にだけ、肌がぶつかる乾いた音とそれに混じる卑猥な水音、叫びにも似た嬌声が響き、獣の交わる匂いが満ちてゆく。

「や、だっ、やだっっ! 許して、レオ! も、壊れ、るっっ!!」

「はぁ……っ、……いいから、イけ」

 懇願しても許されず。
 体は痙攣し続け、蜜は枯れることなく腿を伝う。

「もっ、ダ、メッッーーーー…………っっ!!!」

 そしてとうとう、背を反らしても逃しきれない熱が脳を焼き、渦巻き続けた絶頂の波が弾けた、その刹那。

「ーーッッ、……くっっ! は、っ!」

 心底愉しそうに口元を歪め、獣もその最奥で果てた。


「……はぁ、はぁ、っ、は、……はぁ、っ。……んんっ?」

 机に突っ伏しながら荒い息を吐いていると、腕を引かれ、後ろから抱き締められて。

「んぁ……、ふ、ぁんっ。……あっ」

「まだ抱いていたいところだが……お互い時間切れのようだな」

 激しく達した後の怠惰感も相まってグラグラとした意識の中、未だ硬さを保つ熱でゆるゆると突かれながら、レオの言葉を聞く。

「時間……切れ……?」

「ああ。時間切れだ。……ちゃんと覚えたか?」

「……こんなの……んんっ、嫌でも覚えます」

「くくっ、どうやら魔女は捕まえておけんというのは本当のようだからな。……そう言うな」

 レオはそう言うと、抱き締める腕の力を更にキュッと強めた。

「……レオ」

「なんだ?」

 その腕と、背中に感じる彼の体温を気持ちいいと思いながらその名を呼べば、彼が答えつつ私の耳にキスをしてきて。
 耳にかかる彼の吐息が擽ったくて、私はすこし身を捩らせた。

「私、……少しは貴方を愉しませられた?」

「……ああ。上出来すぎて、骨抜きだ」

 眠気にも襲われ、トロトロとした意識でふと疑問に思ったことをそのまま口にすれば、レオがそう言いながら首筋にもキスをして。

「ふふっ。それは良かった」

 その唇の感触も気持ちがよくて笑いながらそう答えた時、ついに私の意識は限界を迎え、プツリと糸が切れたかのようにそのまま意識を手放した。



 *



「……ぅう……いたい……」

 寝慣れた自分のベッドの中。
 少し体を動かしただけで筋肉痛に襲われ、思わず声が出た。

(ほんとケダモノ……。騎士の体力と、凡人女性の体力の差をもうちょっと考えてほしかったよ……。喉もめっちゃ痛いし)

 さすが3人目。
 雰囲気も、体力も、与える快感すらラスボスのような人だった。

(帰ってこられて良かった……)

 甘くなかったと言えば嘘になるが、アレに捕まり続けていたら冗談ではなくイき過ぎて死んでいたかもしれない。

(シャワー浴びなきゃなのに……。体がツライ……)

 わざわざ確かめなくても分かるほど濡れているのを感じるが、起き上がれそうにもない。

「……もういいや、今日はもうちょっと寝よ」

 謎の敗北感を感じつつ体の怠さからそう言って、起き上がろうと突っ張った手を外し、再びベッドに突っ伏する。

(もしこれから彼氏つくるなら、……普通の人にしよう)

 過ぎた快感は時として拷問のようなものとなるのだな。

 そんな事を考えながら、私は再び瞳を閉じた。



 その頭上ではスマホがゲームの画面を表示しながら明るく光っていて。

 プツリと、その存在を消すように画面は黒くなった。



 *



『Overnight dream..~甘い一夜を貴女に~』

 そのゲームに誘われた時。

 その手のひらに持たれたスマホ画面は、向こうの世界へと続くゲートとなる。



***



次に誘われるのは貴女の番かもしれません……。

なぁ~んてね!!!
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