いつか愛にかわれば

霜月

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プロローグ

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 ――ふとした刹那思い出す、幼き日の記憶。


 あれは果たして、いつの日の記憶だろうか。

 でもきっと確か、特別何かあった訳でもない、ただただいつものように一緒にいた秋の日。

 時を忘れて遊び、気付けば日が傾いていて。
 それは広い庭を歩きながら屋敷へ帰る途中のこと。

 空では、それまでより早く降りるようになった夜のとばりが星を起こし、またたかせ始めていて。その煌めきに気付いた私たちは、手を繋ぎ、空を見上げながら歩いていた。


「「あっ。流れ星」」


 同時に声を上げ、同時に空へと指を差す。
 ほんの一瞬。止まった歩みもすぐに戻る程の、ほんの束の間見えた閃光せんこうに、私はとある事を思い出すのだ。
 
「流れ星にね、おねがい事をしたら叶えてくれるんですって」

「そうなの?」

「うん。お母様がいってた。でもね、叶えてもらうには、消えちゃう前に三回おねがい事をいわないといけないの」

 あの一瞬の内に三回も唱えなければならないなんて。それって、なんて難しい話だろうかと思っていたものだ。

「もうちょっと長く流れてくれればいいのに。見つけたと思ったらすぐに消えちゃうなんて。きっとお星様はおねがいを叶えるのが面倒なのよね」

 私がそう声に出して拗ねれば、クスクスと彼が笑う。

 そして、握る手にキュッと力が入れられたかと思えば、彼が言うのである。「じゃあ、ボクがミラのおねがいを叶える星になろうか?」と。

 その言葉に私が横を向けば、彼もまた私を見ていて。
 美しい金色の髪。それを、まるで流星の尾のように風になびかせていて。

 願えば本当に叶えてくれるんじゃないかと思えるその笑顔に、私はただただ見惚れて。


「ミラのおねがいってなぁに?」


 その後されたその質問に、何と答えたかまではもう覚えていないけれど。

 ちゃんと私を見て、優しく聞いてくれるその笑顔がすごく嬉しくて。すごくすごく大好きで。ずっと手を繋いでいられたらなとそう思ったことだけ、私は今も覚えているのだ。



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