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第25話 三日月の夜の舞踏会 3/4
しおりを挟む「マリー!! アレクおじさまー!!」
ダンスフロアへ向かう途中のこと。
またしても名前を呼ぶ声がしたので振り向くと、衆人の波の向こう、人々の頭より高い位置で、こちらに手を振るリュカ殿下が見えた。
「殿下?!」
「リュカ?!」
驚いて、二人同時に声をあげる。
「おばあさま、みつけたよ! ラウル、あっちだ! あっちあっち!」
驚きながらリュカ殿下を見ていれば、こちらを指さしながら下を向いて何かを言っている。
その騒ぎに気付いた人々が、どんどんと道を開けていった。
人波が割れてできた道の向こうに、近衛騎士の服を着た老齢の男性と、その男性に肩車をされたリュカ殿下、そして、その前を歩く王太后陛下が見える。
「あの方は王太后陛下? 長らくお姿を拝見していなかったが……」
「あの子、王太后陛下をお婆様と呼んでいたわよ? あの黒髪といい、もしかして第一王子殿下?!」
「ラウルって、前国王陛下専属近衛騎士だったラウル様か?!」
周りでは、ザワザワと人々が話をしているのが聞こえた。
その中を。
ルイーズ陛下たちは、ゆっくり堂々と歩いて来られ、私たちの前で立ち止まる。
「……お忍びで出てきたハズなのに、バレちゃったわね」
そう言って、ふふふと笑うルイーズ陛下を前に、私たちは唖然とするしかなかったのだった。
*
「……母上。あの様子をお忍びと言うのは流石に無茶ですよ」
「だって。あなたたちを見付けるにはああするのが一番手っ取り早かったのよ」
あのままあの場所で話をするには流石に注目を集め過ぎていたので、私たちは、場所をちょっと会場の端のほうへと移していた。
リュカ殿下がラウル様に抱っこされながらキャッキャと私に話かけてくる横で、アレク様とルイーズ陛下が話をしている。
「まったく。父上といい、母上といい、ラウルを振り回して……」
「なによ。人を手のかかる子どもみたいに言って。どうしてもマリアンヌの姿が見たかったの。それにリュカからマリアンヌに会いたいって泣き付かれたのよ? 仕方ないでしょう?」
「それにしてももう少し登場の仕方を考えて下さいよ」
「だから言ったじゃない。あれが一番手っ取り早かったの!」
「……ハァァ」
二人のやり取りを微笑ましく思っていると、リュカ殿下が私を呼んだ。
「マリー! マリー! きいて! さいきん、ボクお勉強がんばってるんだよ! 本もたくさんよんでる!」
「まあ! それはエライですね!」
「でしょう?! おっきくなったら、マリーみたいにモノシリになりたいんだぁ!」
「そうなんですね! すごい! 私が殿下のように勉強を頑張るようになったのは、五才を過ぎてからでしたから、殿下のほうが私よりすごいですわ!」
「そうなの? じゃあ、ボク、マリーよりモノシリになれる?」
「ええ! きっとなれますわ!」
ラウル様の腕に支えられ、身振り手振りを交えて話をして下さるリュカ殿下。その、やったーと喜ぶ姿が可愛らしい。
「あ! そうだ!」
こちらも微笑ましいなと思っていれば、殿下が声をあげた。いそいそとラウル様の腕から降り始め、その様子に、まだくどくどと話をしていたアレク様とルイーズ陛下もこちらを見る。
「マリー、見ててね!」
何事かと皆で見守る。すると、その中心で殿下が跪いた。
パッと顔を上げ、私を見て、その小さい体から手を伸ばす。
「え、えーと、うつくしいおじょうさん! ワタシと一曲おどってくれませんか!」
大人四人の目が、点になった。
「あ、あれ? こうじゃないの? ボクちがった?」
反応しない大人に対して、慌てた様子で手をワタワタさせるリュカ殿下。その様が可笑しくて、可愛くて、思わず手を取ろうとしたところで、アレク様に止められた。
そのまま手を押し戻されてポンポンとされる。
(???)
頭にハテナを浮かべていると、アレク様がリュカ殿下を抱っこした。
「リュカ、マリーをダンスに誘いたいのか?」
「うん!」
「うーん、じゃあ聞くけど。お前、ダンス踊れるの?」
「え? ヒラヒラ~ふよふよ~って、すればいいんでしょう?」
「……あのな、リュカ。マリーをダンスに誘いたいなら、ちゃんとダンスを習って、私より上手に踊れるようになってからじゃないとダメなんだぞ」
「えぇ~」
「えーじゃない。マリーはダンスも上手いんだ。ダンスが下手な男は嫌われる」
「やだぁー!」
「なら、これから頑張れ。……私も、マリーに嫌われないよう必死にダンスの練習を頑張っているんだから」
「…………はぁい」
少し俯きながらもちゃんと返事をするリュカ殿下を、アレク様はラウル様に渡すと、少し微笑んで頭を撫でていた。
「母上、私たちはもう行きますよ。マリーの姿は見たし、リュカもマリーに会ったんだ。もういいでしょう?」
「……そうね。後は適当にあなたたちのダンスを見てから帰るわ。
マリアンヌ。またお茶会しましょうね。……うるさい男は抜きで」
「ふふふ。ぜひ」
「またねー! マリー! バイバイ!」
リュカ殿下と、ラウル様までもがバイバイと手を振ってくださったので、私も笑顔で振り返す。
「マリー、行こう」
アレク様に促されて、今度こそと私たちはダンスフロアへと向かったのだった。
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