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【三夜】最期の訪問者

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皆さんは、人生最期の時間を何処でどのように過ごしたいと思いますか?


これは、私の友人が体験した摩訶不思議な出来事です。


現在は父親が亡くなり、年老いた母親を1人にする訳にはいかないと九州の実家に戻りましたが、当時友人は関東で一人暮らしをしていました。


都会の生活に慣れ、特に変わりない毎日を過ごしていたところ、実家の母から『お父さんが末期癌でもう長くないから、度々顔を見せてくれないか』と突然連絡が入りました。


以来、友人は余裕のある休みを見つけては実家に帰ったり、帰れない時はマメに連絡を入れたりしたそうです。


どうやら、お父さん。若いと言うのもあり、ギリギリまで無理して働いたようで、あっという間にその生命は燃え尽きてしまいました。


数年もかからず、お医者様からせめて最期は御本人の意思を……と言う事で、ご自宅に帰られたのです。


友人も知らせを受け、使えるだけの有休を取ると会社に事情を話し、父との最期を過ごすために実家へと帰りました。


「ああ、お帰り! 長旅疲れたでしょう」

と母は力無くも、いつもの明るい声で出迎えてくれました。その様子から、恐らく覚悟は出来たのでしょう。そう感じたそうです。


最近は度々帰っていたせいか、少しばかり懐かしさも感じ無くなっていた実家。

子供の頃使っていた部屋はそのままではあるものの、そこまで違和感を感じ無いのは少し前にも帰っていたせいか。


そんな事を思いながらも、自分の部屋に荷物を置くと、けれど父が亡くなればまた家の色が変わるんだなとしんみりもした。


直ぐに父親に声を掛けようと自らの部屋を出て、父親の部屋へ向かい、その扉を開けようとした所で母親に呼び止められたそうです。


「お父さん、家に帰ってから夜になると度々おかしな事を言うのよ。玄関にどなたかみえたから、お出迎えしてあげてって。最初は信じてきいていたんだけど……いつもそこには誰もいないのよ。それで、不思議に戻ってお父さんの所に戻ると嬉しそうに『ありがとう』って言うの。だから、誰もいない、なんて言えなくて。もし、お父さんに言われてもきいてあげて。最期だから」


友人は、うんっと頷いてから父親の部屋に入ったそうです。

その時は、きっと死を前にして意識が混濁しているんだろうな、くらいにしか思っていなかったそう。


案の定、お父さんはいつ亡くなってもおかしくない様子で、うつらうつらと『おかえり』とか『元気だったか?』とか何気ない言葉を少し発してから眠ってしまったそうです。お母さん曰く、帰ってからずっとこんな調子だそう。


次の日の夕方だったか。丁度日が沈んだタイミングで、友人は父親に呼ばれたそう。と言っても、友人を呼んだと言うより家族を呼んだのだけれど、その時手が空いていたのがたまたま友人だったという具合で。


お父さんは友人に

「どなたか……玄関にみえたみたいだから……出迎えに行ってあげて」

と、ポツポツとまるで夢現のように伝えたそうです。


お母さんか言っていたのはこれか。と納得すると、友人はとりあえず玄関に向かいました。

誰もいないだろうと思いながら……。


しかし、玄関の向こう。昔ながらの田舎の家の玄関の扉に嵌め込まれた磨り硝子越しに、ぼんやりと人影が見えたそう。

(あれ?)

と思いながらも、たまたまかと友人は玄関の扉に手をかけ、お待たせしましたの代わりに「はーい」と声を上げながら玄関を開けたそうです。

身長は高くも低くもなく、中肉中背の男性の影でしょうか。

玄関を開けた先に居たのも……磨り硝子越しに見えたままの“ 影”でした。


「あれ?」

そして、そんななりでも何故か怖くない……? と言う世にも奇妙な違和感。

『ここが、Aさん(父親の名前)のご自宅ですか。お招き頂きありがとうございます。貴女が、Aさんの御家族ですか』

物珍しく値踏みするかのような、そんな声が一瞬、聴こえたそうです。


友人が、ハッとした時には、もうその影はありませんでした。


母親の言う通り、父親の部屋に戻るとお父さんは嬉しそうに、柔らかく笑いながら口をもごもごさせているように見えたそうです。


それから数日して、父親は亡くなられたそうですが、友人曰く……ですよ。あれはきっと、お父さんが病院で生死の境をさまよっている時に、生きてる人なのか霊なのか区別がつかずに友達になった最期の友人なんじゃないかなって。


そう言ってました。
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