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白い花の祝福

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なんで、白い花びらが室内で降っているんだ?

リビングに花が飾られているわけでもないようで、何処から出てきたのか分からない。
フリードの苦しみはだんだん強いものになり、誰か人を呼ぼうと思った。
しかし今の体勢はフリードが上に乗っているから俺自身動く事が出来ない。

フリードを押してもびくともしないし、声を掛けても聞いていなかった。

俺にはどうする事も出来ずフリードが落ち着くのを待つしかなかった。
フリードの手を握ろうと触れた。

「あつっ…!!」

フリードの手が火傷しそうなほど熱かった。
もしかして手が痛いのだろうかと手の方を見た。

一瞬呼吸を忘れてしまうほど驚いた。

なんでどうして、今…これが?

恐る恐るもう一度フリードの手に触れた、今度は熱くてもしっかりと握った。
するとだんだん熱が引いてきてフリードからは呻き声がだんだん浅い吐息に変わった。
…落ち着いてきたって思っていいのかな。

「フリード、大丈夫?」

「…はぁ、あ…あぁ」

フリードが起き上がり額の汗を拭う。
実際こんなに苦しいものだったんだって知らなかった、ゲームではあっさりと表現されていたから…

俺もフリードの汗を袖で拭う。
フリードは今気付いたのか自分の手の甲を見ていた。
そして上を見て花びらを眺めていた。

「なんだこれ、なにが起きているんだ?」

「フリード、聖騎士になったんだよ」

俺の声にこちらを見て驚きが隠せない顔をしていた。

俺だってなにが起きているのか分からない。
フリードの手の甲には薔薇の刺青があった、さっきまではなかったのに突然現れた。
聖騎士に覚醒した魔法使いは聖騎士の証として身体の何処かに薔薇の刺青が浮き上がる。

この室内に舞う花びらは祝福の花だ。
ゲームで聖騎士に目覚めた攻略キャラクターのCGに白い薔薇の花びらが舞っているシーンが必ずあった。
あれはただの演出だと思っていたがまさか本当に花びらが舞うなんて…

刺青を見るまで分からなかった、だってここにヒロインがいないのに…共魔術師がいないのに…

共魔術師…

「俺、が…聖騎士に?でも俺はイリヤと離れたいと思っていないし、離れないからな!」

「……えっと、なんで聖騎士になれたんだろう」

お互いよくこの状況が理解出来ず首を傾げる。
共魔術の発動条件は聖騎士の愛ではなかったのか?
でも今フリードが考えてくれた事は俺の事?

じゃあ俺が共魔術師?

でもなんでフリードに発動してジョーカーに発動しなかったんだ?
二人の違うところが分からない。

俺は共魔術に関してふんわりしか覚えていないのかもしれない。
ゲームしている時難しい話をあまり深く考えてなかった自分が悲しい。

フリードがソファーに座り直し俺を引っ張って起こしてくれた。
二人で刺青を見つめながら考えてもよく分からない。

「イリヤを守れる力ならいいが、離れなきゃならない力なら俺は手を切り落としてでもいらない」

フリードは険しい顔をして刺青に爪を立てるから、手を握りしめて止めさせる。
本気でやりそうなほど強い意思を感じて怖かった。

実際聖騎士の力は手じゃなくて身体全体に宿っているから手を切り落としても無駄だがそれを言うと死ぬとか言いそうだから何も言わないでおく。

俺がもし共魔術師ならいよいよ可笑しな話になるな。
悪役ポジションなのにヒロインの力があるのか?
じゃあヒロインはどうなっているんだ?普通の一般人になっているのか?
ゲームでは一人だけだったけど…もしかしたらこの世界には二人共魔術師がいるのかもしれないけど、どうなんだろう。

フリードとジョーカーとお別れしなくて済むと喜んでいいのか、ヒロインはどうなるんだと落ち込めばいいのか自分の感情なのにごちゃごちゃしていて上手く整理が出来ない。

「…あ、刺青が」

フリードが小さく声を上げて視線を刺青の方に向けると刺青は一瞬強く光ったと思ったらすぐに消えた。

刺青はずっと浮かんでいるわけではなく持ち主の感情で出したり消したり出来る。
フリードは手を握ったり開いたりしながら手に異常がないか確認している。

俺が魔力がないのは共魔術師だからなのだろうか。
いつの間にか花びらも消えていた。

フリードは俺と離れなきゃいけないと考えているから聖騎士になれても嬉しくなさそうだ。
ゲームでは当たり前のように説明されていたが、実際の世界でも聖騎士の存在は誰でも知っている。
しかし共魔術師の存在は誰も知らず、どうやったら聖騎士になれるか誰も知らないようだ。

「あのさ、フリード」

「…どうした?」

「俺、共魔術師っていう魔法使い…みたいなんだ?」

「共魔術師?なんだそれは…」

共魔術師とは聖騎士の力を覚醒させるためだけに存在する魔法使い。
聖騎士のためだけに生き、聖騎士のためだけにその力を使うから共魔術師は一人で生きていく事が出来ないように作られている。
俺の力がまさにそれだ。

俺の魔力は魔法使いだって証明するためだけの微々たる魔力しかない。
聖騎士の力を最大限に発揮させる世界で唯一の存在。

聖騎士が生きがいであり、また聖騎士も守るべき対象である共魔術師を唯一無二としている。
お互いの間に真実の愛が生まれ、それが力となる。

俺が覚えているのはそこまでだった。
フリードに覚えているかぎりの事を話した。
しばらく考えてから俺の頬に触れた。

「じゃあ俺の愛が聖騎士の力に認められたって事か?」

「簡単に言えばそうだね」

「俺が聖騎士でイリヤが共魔術師という一心同体な存在なら離れなくていいんだな」

俺が共魔術師ならそうだ。
むしろ離れたらヤバい事になるかもしれない。

今はまだ共魔術師の存在を世間は知らないがいずれ分かる時が来るだろう。
聖騎士はどんな魔法使いよりも強い、だけど唯一の弱点がある…それが共魔術師だ。

共魔術師がいなければ聖騎士は覚醒出来ず普通の上級魔法使いの力くらいしかない。
しかも共魔術師は戦えないほど弱い。

聖騎士を殺すより共魔術師を殺した方が後で聖騎士を殺せる。
そう分かる日がきっとそう遠くない未来にあると思う。
聖騎士を守るためにも俺は傍にいた方がいいだろうな。

フリードは俺を優しく抱きしめた、耳元で深いため息を吐き肩の力を落とす。

「…良かった、これでイリヤはもう俺から離れないんだな」

「……う、ん」

「もしこのまままた離れるとか言ったら監禁して俺から離れられなくなる身体になるまでぐちゃぐちゃにするところだった」

「…………へ?」

なにやらフリードが不穏な事を言ったような気がしたんだけど、気のせい…だよね?
「良かった良かった」と嬉しそうにするフリードに俺まで頬が緩みフリードの背中を撫でる。
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