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出来損ないに残された道
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ある日の昼下がり、俺はボーッと天井を眺めていた。
母は相変わらず来なくてオネェ先生は俺との授業を拒否したらしく今はイブの先生らしい。
家庭教師一人だけになったが日に日に家庭教師の声も冷たくなっていって家庭教師もやめたいのかなと負の事を考えてしまう。
そして今日は一週間に一度の休みの日で外に出る事も許されず部屋の中でボーッとする。
部屋の外に出れるかもしれないが確認はしない、また怒られてしまうから……
まともな魔法も使えず職にも就けない子供が家を追い出されてしまったら、その結末は分かりきっている。
部屋のドアがゆっくりと大きな軋む音を立てながら開かれた。
この部屋にノックもなく入ってくるのは母かイブくらいだろう。
そう思って横目でドアがある方向を見つめると目を見開き慌てて立ち上がった。
なんでこの人が…そんな疑問でいっぱいだった。
緊張からかドキドキと心臓が忙しく動く。
シワが多い顔がこちらを見つめていた。
面と向かって話す事は今までなかったから間近で見る迫力は遠目では分からないほどだった。
お婆さんが俺の前で座り俺も慌てて正座した。
「……お前がイリヤか、大きくなった」
「は、はい…お婆様」
何を話したらいいか分からず、いつも心の声で呼んでいるお婆さんは失礼だと思いお婆様と呼ぶ事にした。
俺の成長を口にしてくれて嬉しかったが、母にお婆様が言っていた事を思い出した。
『あの子は聖騎士はおろか出来損ないの魔法使いだ』
『貴女ももうあの子に期待するのはよしなさい、まだイブの方が将来聖騎士にならずとも優秀な上階級者になるのよ』
俺の事を期待していなかったのではないのか?だから今まで一度も会いに来なかったのではないのか。
何だか嫌な予感がした、とても嫌な予感。
いい予感は外すのに嫌な予感は当たってしまう。
ゴクッと唾を飲み込みお婆様の言葉を待った。
お婆様は回りくどい事が嫌いだというように俺にはっきりと言った。
「イリヤ、お前は魔術の先生にも見放された出来損ないだ…これ以上うちの敷地を跨いでほしくない」
「…っ」
それは捨てられると言ってるようなものだった。
想像以上に悪い事になっていたみたいだ。
しかし俺にはどんなに落ちこぼれでもその血は間違いなく流れている。
だから適当に外に放り出すわけにもいかない、そうお婆様は続けた。
もし人質に取られたなら厄介な事になるのだろう。
誰かに子供を産ませたらさらに厄介な事になるだろう。
それほどこのドルアージュ家は大きなものだった。
「イリヤ、最後にこの家のために尽くしてもらうぞ」
「……え?」
「お前の13歳の誕生日の日に政略結婚を成立させる、使えないお前に唯一出来る事だ…お前の存在意義そのものだ」
俺の存在意義……
政略結婚なんてゲームにはなかった、そもそも敵側の事情は詳しく説明されていなかったからイリヤの恋愛事情は分からない。
政略結婚ならそれなりの家の出身の人だからドルアージュ家も変な事にならないだろうから安心なのだろう。
しかもドルアージュ家にとって仲良くして損はない家だから俺もドルアージュ家にとって存在価値が生まれる……家と家を繋ぐ道具として…
ここで断れば俺はどうなるのだろう……いや、生きたいなら断る選択肢はないだろう。
俺は小さく頷いた。
何も出来ない俺が、唯一生き残る方法……誰かに助けてもらわないと俺は…
でも13歳でもう政略結婚なんて早くないか?
この世界は何歳で結婚出来るか分からないが多分子供では無理だろうからまだ婚約者くらいなんだろう。
「…あちらの方にもお前の気持ち、伝えときます」
「…………はい」
俺が受けた事を向こうにも伝えるのだろう。
俺がいなくなった方が母はお婆様に怒られずにすむのかな…そんな感情が溢れてきた。
でも俺は相手の女性の事を何も知らない。
相手は俺なんかでいいのだろうか。
落ちこぼれだし、何やっても上手くいかないし…政略結婚する魅力は俺にはない。
気になって立ち上がり部屋を出ようとしているお婆様に疑問をぶつけてみた。
お婆様はこちらを振り返り俺を見つめ静かに口にした。
「本当はイブの話だったんだ、でもあちらの方が後継ぎだけど子供はいらないみたいでね、イブがいなくなったらこの家の後継ぎがいなくなると思ってお前はどうか紹介した」
「…え?イブの…話?」
「幸い子供はいらないみたいだからお前が落ちこぼれでも構わないそうだ、あちらの家で逆らわず言う事を聞く事…くれぐれもドルアージュ家の顔に泥を塗らないように」
「……あ、はいっ」
俺の返事を聞き、もう用が済んだと言わんばかりに部屋のドアが閉められた。
最初はイブの話?…女の婚約者がイブと?いや、子供はいらないって………まさか、婚約者って男?
それ以上お婆様は詳しく教えてくれなかった。
俺と話すのが嫌なのだろうか、早々に退散してしまい寂しかった。
婚約者は来てからのお楽しみ…というわけか。
逆らわずロボットのように従えばいいのかな。
俺みたいな出来損ないだったら産まれてくる子が可哀想だよな、だから子供は望まない方がいいよな………欲しかったけど、仕方ない。
大切な後継ぎの婚約者に俺の悪い運が働かなきゃいいけど、不安しかない。
やっぱり一度お祓いしてもらった方がいいよな。
俺は向こうの家にお世話になるんだろうし、事情を説明すれば神社とか…あるか分からないけど連れてってもらえるかもしれない。
ゲームでは語られなかったが、俺が住み初めてこの世界は同性愛も異種愛も容認されている事が分かった。
男に男の婚約者が居ても不思議ではない。
でも俺がいた生前の世界は違う、同性愛者はいるが異性愛が当たり前の世界だった。
偏見はないが俺は普通に女の子と結婚すると思っていた。
お婆様は何も言わなかったがもし男の婚約者なら俺はどうしたらいいのだろうか。
男どころか恋人もいた事がなくて俺はちゃんとやっていけるのか今から不安だった。
婚約者って何をするのか具体的によく分からない、家事とか?
今不安になっても仕方ないような気もするがやっぱり不安だ。
優しい人だったらいいな、それくらいしか思う事がなかった。
その日、俺は眠れない夜を過ごした。
ギュッと目を瞑っても寝返りをうちゴロゴロとしても眠れなかった。
眠れないと思ったら急にトイレに行きたくなった。
一人で部屋から出る事を禁止されているからいつもは大人の誰かに着いてもらっていたが真夜中に起きてトイレなんて初めてで布団から出て俺は周りに大人の誰もいない事に気付いた。
隣で妹が寝ているが俺のトイレのために起こすのは可哀想だ……その前に起きてくれないだろうな。
どうしよう、漏らすわけにもいかないし………試しにドアノブに触れた。
すると鍵を閉め忘れたのかドアが開き音を立てないようにゆっくりゆっくりとドアを開けると冷たい風が身体を包み込みゾクゾクと背筋が冷たくなった。
トイレくらいならいいよねと思い一歩歩き出した。
うぅ…早くして暖かい布団で寝たい。
ひんやりと冷たい廊下が足の裏を冷やし身体の芯まで冷たくなった気がした。
トイレは何処だろう、家の中だから当然トイレのマークなんてないし薄暗く人がいない廊下はとても不気味だ。
部屋の数も多くて一部屋一部屋探すと夜が明けてしまう気がした。
そこまで俺の尿意が待ってくれない、内股になりつつトイレっぽい場所を探す。
その時、俺の熱意が伝わったのかトイレを流す音が近くで聞こえた。
トイレを見つけたと同時に誰かと鉢合わせしたら大変だから周りを見渡し観葉植物が見えてとっさに隠れる。
昼間だったら丸見えだろうが、こんだけ薄暗かったら見つからないだろう。
観葉植物に背を向け立っていると二人の男の人の話し声が聞こえた。
母は相変わらず来なくてオネェ先生は俺との授業を拒否したらしく今はイブの先生らしい。
家庭教師一人だけになったが日に日に家庭教師の声も冷たくなっていって家庭教師もやめたいのかなと負の事を考えてしまう。
そして今日は一週間に一度の休みの日で外に出る事も許されず部屋の中でボーッとする。
部屋の外に出れるかもしれないが確認はしない、また怒られてしまうから……
まともな魔法も使えず職にも就けない子供が家を追い出されてしまったら、その結末は分かりきっている。
部屋のドアがゆっくりと大きな軋む音を立てながら開かれた。
この部屋にノックもなく入ってくるのは母かイブくらいだろう。
そう思って横目でドアがある方向を見つめると目を見開き慌てて立ち上がった。
なんでこの人が…そんな疑問でいっぱいだった。
緊張からかドキドキと心臓が忙しく動く。
シワが多い顔がこちらを見つめていた。
面と向かって話す事は今までなかったから間近で見る迫力は遠目では分からないほどだった。
お婆さんが俺の前で座り俺も慌てて正座した。
「……お前がイリヤか、大きくなった」
「は、はい…お婆様」
何を話したらいいか分からず、いつも心の声で呼んでいるお婆さんは失礼だと思いお婆様と呼ぶ事にした。
俺の成長を口にしてくれて嬉しかったが、母にお婆様が言っていた事を思い出した。
『あの子は聖騎士はおろか出来損ないの魔法使いだ』
『貴女ももうあの子に期待するのはよしなさい、まだイブの方が将来聖騎士にならずとも優秀な上階級者になるのよ』
俺の事を期待していなかったのではないのか?だから今まで一度も会いに来なかったのではないのか。
何だか嫌な予感がした、とても嫌な予感。
いい予感は外すのに嫌な予感は当たってしまう。
ゴクッと唾を飲み込みお婆様の言葉を待った。
お婆様は回りくどい事が嫌いだというように俺にはっきりと言った。
「イリヤ、お前は魔術の先生にも見放された出来損ないだ…これ以上うちの敷地を跨いでほしくない」
「…っ」
それは捨てられると言ってるようなものだった。
想像以上に悪い事になっていたみたいだ。
しかし俺にはどんなに落ちこぼれでもその血は間違いなく流れている。
だから適当に外に放り出すわけにもいかない、そうお婆様は続けた。
もし人質に取られたなら厄介な事になるのだろう。
誰かに子供を産ませたらさらに厄介な事になるだろう。
それほどこのドルアージュ家は大きなものだった。
「イリヤ、最後にこの家のために尽くしてもらうぞ」
「……え?」
「お前の13歳の誕生日の日に政略結婚を成立させる、使えないお前に唯一出来る事だ…お前の存在意義そのものだ」
俺の存在意義……
政略結婚なんてゲームにはなかった、そもそも敵側の事情は詳しく説明されていなかったからイリヤの恋愛事情は分からない。
政略結婚ならそれなりの家の出身の人だからドルアージュ家も変な事にならないだろうから安心なのだろう。
しかもドルアージュ家にとって仲良くして損はない家だから俺もドルアージュ家にとって存在価値が生まれる……家と家を繋ぐ道具として…
ここで断れば俺はどうなるのだろう……いや、生きたいなら断る選択肢はないだろう。
俺は小さく頷いた。
何も出来ない俺が、唯一生き残る方法……誰かに助けてもらわないと俺は…
でも13歳でもう政略結婚なんて早くないか?
この世界は何歳で結婚出来るか分からないが多分子供では無理だろうからまだ婚約者くらいなんだろう。
「…あちらの方にもお前の気持ち、伝えときます」
「…………はい」
俺が受けた事を向こうにも伝えるのだろう。
俺がいなくなった方が母はお婆様に怒られずにすむのかな…そんな感情が溢れてきた。
でも俺は相手の女性の事を何も知らない。
相手は俺なんかでいいのだろうか。
落ちこぼれだし、何やっても上手くいかないし…政略結婚する魅力は俺にはない。
気になって立ち上がり部屋を出ようとしているお婆様に疑問をぶつけてみた。
お婆様はこちらを振り返り俺を見つめ静かに口にした。
「本当はイブの話だったんだ、でもあちらの方が後継ぎだけど子供はいらないみたいでね、イブがいなくなったらこの家の後継ぎがいなくなると思ってお前はどうか紹介した」
「…え?イブの…話?」
「幸い子供はいらないみたいだからお前が落ちこぼれでも構わないそうだ、あちらの家で逆らわず言う事を聞く事…くれぐれもドルアージュ家の顔に泥を塗らないように」
「……あ、はいっ」
俺の返事を聞き、もう用が済んだと言わんばかりに部屋のドアが閉められた。
最初はイブの話?…女の婚約者がイブと?いや、子供はいらないって………まさか、婚約者って男?
それ以上お婆様は詳しく教えてくれなかった。
俺と話すのが嫌なのだろうか、早々に退散してしまい寂しかった。
婚約者は来てからのお楽しみ…というわけか。
逆らわずロボットのように従えばいいのかな。
俺みたいな出来損ないだったら産まれてくる子が可哀想だよな、だから子供は望まない方がいいよな………欲しかったけど、仕方ない。
大切な後継ぎの婚約者に俺の悪い運が働かなきゃいいけど、不安しかない。
やっぱり一度お祓いしてもらった方がいいよな。
俺は向こうの家にお世話になるんだろうし、事情を説明すれば神社とか…あるか分からないけど連れてってもらえるかもしれない。
ゲームでは語られなかったが、俺が住み初めてこの世界は同性愛も異種愛も容認されている事が分かった。
男に男の婚約者が居ても不思議ではない。
でも俺がいた生前の世界は違う、同性愛者はいるが異性愛が当たり前の世界だった。
偏見はないが俺は普通に女の子と結婚すると思っていた。
お婆様は何も言わなかったがもし男の婚約者なら俺はどうしたらいいのだろうか。
男どころか恋人もいた事がなくて俺はちゃんとやっていけるのか今から不安だった。
婚約者って何をするのか具体的によく分からない、家事とか?
今不安になっても仕方ないような気もするがやっぱり不安だ。
優しい人だったらいいな、それくらいしか思う事がなかった。
その日、俺は眠れない夜を過ごした。
ギュッと目を瞑っても寝返りをうちゴロゴロとしても眠れなかった。
眠れないと思ったら急にトイレに行きたくなった。
一人で部屋から出る事を禁止されているからいつもは大人の誰かに着いてもらっていたが真夜中に起きてトイレなんて初めてで布団から出て俺は周りに大人の誰もいない事に気付いた。
隣で妹が寝ているが俺のトイレのために起こすのは可哀想だ……その前に起きてくれないだろうな。
どうしよう、漏らすわけにもいかないし………試しにドアノブに触れた。
すると鍵を閉め忘れたのかドアが開き音を立てないようにゆっくりゆっくりとドアを開けると冷たい風が身体を包み込みゾクゾクと背筋が冷たくなった。
トイレくらいならいいよねと思い一歩歩き出した。
うぅ…早くして暖かい布団で寝たい。
ひんやりと冷たい廊下が足の裏を冷やし身体の芯まで冷たくなった気がした。
トイレは何処だろう、家の中だから当然トイレのマークなんてないし薄暗く人がいない廊下はとても不気味だ。
部屋の数も多くて一部屋一部屋探すと夜が明けてしまう気がした。
そこまで俺の尿意が待ってくれない、内股になりつつトイレっぽい場所を探す。
その時、俺の熱意が伝わったのかトイレを流す音が近くで聞こえた。
トイレを見つけたと同時に誰かと鉢合わせしたら大変だから周りを見渡し観葉植物が見えてとっさに隠れる。
昼間だったら丸見えだろうが、こんだけ薄暗かったら見つからないだろう。
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