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第7話

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「早速本題に入らせてもらうがどこまで覚えている?」
「全部ですね。残念ながらお酒で記憶を飛ばしたことはありません」
「その割には途中で寝てくれたがな」
「…それはすみませんでした。後処理までやってもらったようで」

行為の途中で寝落ちたことには少なからず引け目を感じていた。
だってお酒が入った状態でふかふかなベッドで快楽に浸かったら眠たくもなるだろう。

「起こすのも忍びなかったからな」
「紳士ですね」
「惚れたか?」
「ご冗談を」

私の言葉に彼は楽しそうに笑うが冗談でもやめていただきたい。

「にしてもまさか紫苑があの会社で働いていたとは。何度か商談に行ったがその時は見かけなかったな」
「あの日はたまたまお茶出しをする子が風邪で休んでいたので私が代理で出たんですよ。偶然が重なっただけです」

「偶然じゃなくて運命だろ?」

ワインを飲みながら彼を睨むも素知らぬ顔をされる。
まだそんな馬鹿なことを言っているのか。

「改めて言わせてもらいますけど、私みたいな女との運命を語るのはやめてください」
「何故だ?」
「まず、あなたは大企業の御曹司で、私はただの会社員です」
「それが何か?」
「結婚しろとご両親から急かされていると愚痴ってましたよね?いいんですか、こんな平凡な女で」

次々に運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながらワインを煽る。
こんな駆け引き、素面ではやっていられない。

「俺の親は俺に早く結婚してほしいだけだ。家柄は関係ない」
「生憎私に結婚願望はありません。他をあたってください」
「俺は紫苑がいい」
「私は嫌です」
「最初は恋人から始めるって!」
「当たり前です」

お互いの主張が平行なまま会話は進む。
しかし彼は怯むことなく言葉をぶつけてくる。

「結婚が嫌ならまずは婚約はどうだ」
「するわけないでしょう。恋人からって話はどこに行ったんですか」

ワインを一気に飲み干してグラスを置く。
ウエイターにもう1杯注文してから彼に視線を向けると捨てられた子犬のようにしゅんとしていた。


「なぁ、そんなに嫌なのか?」


ぽつりと呟かれた言葉は弱々しい。
その言葉に少しだけ心が揺れたが、ぐっと堪える。
ここで折れたら一生この男に付き纏われるだろう。

「…嫌とかではないんです。ただ恋人や結婚にメリットを感じないだけで」
「メリット?」
「今の暮らしでもそこそこ満足できています。変に恋愛なんかに現を抜かして苦痛を感じたくありません」
「……なるほど。じゃあ俺が紫苑を幸せにすれば問題無いんだな」

彼は納得したように頷くのを見て自分の失言に今更気が付いた。
いや違うそうじゃない、と否定しようとしたが彼の言葉によって遮られる。

「俺との恋愛で苦痛は感じさせない。1人の時間が欲しいならちゃんと作るし、仕事に励みたいなら応援する」
「いや、あの、」
「仕事も家事も両立する。何かあってもフォローする」
「ちょっと、」
「俺に不満があるなら言ってくれれば直す努力はするし、願いがあるなら叶えるために努力する」

彼の言葉に眩暈がした。

何なんだこいつは、どこからそんな自信が出てくるんだ。

「だからまずは付き合ってみないか?」
「ちょっと待ってくださいって!!」

席から半分ほど立ち上がるようにして彼の言葉を止める。
彼はきょとんとした顔でようやく口を閉じた。

「まず教えてください。何故そこまで私に執着するんですか」
「執着してる?俺が?」
「……まさか自覚なかったんですか?」
「全く」

嘘だろ。
半ば無理矢理行なわれた名刺交換だけでなく、着信とメールも恐ろしいほど寄こしておいて自覚がなかっただと??

漏れそうになる溜め息を何とか呑み込む。

「では聞き方を変えます。何故私と結婚したいのですか?」
「運命だから」

彼は当たり前かのようにそう言い放った。

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