正しい国の滅ぼし方

宮野 智羽

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第15話

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地下に広がる空間は思ったよりも広かった。
きっと昔使われていた地下牢を改修したのだろう。
ずっと鉄格子が続いている上、鎖の音が聞こえる。
1番近い牢屋を覗いてみれば、部屋の隅で蹲っている少女がいた。
その足には足枷が付いており、一目見ただけでも監禁されていることが分かる。

「大丈夫?」
「……」

返事はない。
よく見ると、その子は泣いていた。

「ねぇ、大丈夫?」

もう一度声をかけてみると、少女は顔を上げて私を見た。
すると、驚いたように小さく声を上げてから出来るだけこちらに近づいてきた。

「あなた…猫なの?」
「え?」
「あなたが猫に見える」

少女が何を言っているか分からない。
首を傾げていると、猫の声が脳内に響いた。

「鋭い子どもは本質に気づくものだ。きっとお前さんの中にいることに気づかれた」
「…そういうことね」

猫の言葉に納得してから少女に向き直る。

「私のことは猫だと思ってくれていいわ。それよりも聞きたいことがあるの。あなたはどうしてここにいるの?」
「お父様にお城に連れて来られて、紅茶を頂いたら眠くなって…気づいたらここにいたの」

少女は拙いながらも一生懸命説明してくれる。

「そうなのね。ここに来てどれぐらい経ったか分かる?」
「ううん。…でも、ずっと前に来た」
「そう、ありがとう」

少女に厨房から拝借したパンをあげる。
少女は嬉しそうにそれを食べた。

「僕は違う!」

遠くから男の声がする。
声のする牢屋に近づくと、男の子が手を伸ばしていた。
その子に近づいて気づいたのは、その子の片足が意図的に切断されていることだった。

「僕、この国のストリートチルドレンだった。でも攫われて、変だと思ったから逃げようとしたら…足を切られたの。…お願い、逃げて。ここにいたら危ないよ!」

男の子は泣きそうになりながら必死に教えてくれた。

これで情報は揃った。

内心ほくそ笑みながら男の子にもパンをあげた。

「ありがとう、でも大丈夫よ。私は猫だから」
「え?」
「猫の命は9つあるの。1つぐらいあなた達のために使っても大丈夫よ」

その時、階段から話声が聞こえた。
慌てて物陰に隠れて様子を伺えば、男が2人現れる。
その内の1人に見覚えがあった。

セーズ様だ。

彼は興味なさそうに子どもたちの説明をする男性の話を聞いていた。

「だからさっきから言っているだろう。私はトレヴァー殿のメイドを買うから今日はここからは買わないよ」
「まぁまぁ、そうおっしゃらず」
「…私はロサのことを気に入ったんだ。これ以上私の時間を奪わないでくれ」

セーズ様は機嫌が悪いようで男を睨んでいる。
猫は私以外に笑い声が聞こえないのをいいことにケラケラと笑っている。

「随分とあの男に気に入られたのだな」

私は苛立ちながらも声を出さないように耐える。
幸い、セーズ様に説明をしていた男性も彼の機嫌の悪さを察して早々に地上に戻っていった。

「早く戻らないとセーズ様に探されたら困るわね」
「戻るならその階段じゃなくて、反対側の梯子を使うといいよ」
「ありがとう」

先程の男の子が指を指す方に向かうと、そこには縄梯子があった。
少し古いが、問題なく上れそうだ。
縄梯子を上りながら先ほどの話を思い出す。

「…考えていた中で最悪の事態だった」
「まさか我が子を売ってまで地位を取る親がいるなんてな」

今まで色んな国の闇を見てきたが、これはまた深い闇だった。
この平和そうな国の下でこんなことが平然と行われているとは思いたくなかった。
猫の言葉に同意するように小さくため息をつく。

梯子の先は城の古い井戸に繋がっていた。
何とかメイド服は汚れずに済んだが、臭いがついた可能性もあることを考えて念のため持ち込んだ予備のメイド服に着替える。
もしものために2、3着持ち込んでおいて良かった。

「聴覚と視覚は返しておくぞ」
「うん、ありがとう」

聴覚と視覚が人間のものに戻る。
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