正しい国の滅ぼし方

宮野 智羽

文字の大きさ
上 下
11 / 20

第10話

しおりを挟む

そして時間は過ぎ、私はアメリアさんと一緒に広間に来ていた。

「皆さん意外と集まるんですね」
「パーティーに興味なくても、トレヴァー様から直接お話があるとなれば集まるわよ。この人数は多分全員集まっているわね」

本当にこの屋敷は雇用人数が少ないのか、見た感じ15人ほどしかいないように思える。
他にも執事などを雇ってはいるが、こんなに少ない屋敷は見たことがない。

21時ちょうどを針が指した時、トレヴァー様が広間に入ってきた。
少しカジュアルな服に着替えてはいるが、なぜか疲労が滲み出て仕方ない。

「…これ、全員集まってないか?」
「はい、先ほど数えましたが全員おります」
「……遅くに悪かったな」

トレヴァー様は申し訳なさそうに眉を下げる。
雇用主としては本当に珍しく、メイドの私たちにも気を使ってくださる。
初日の冷たい印象は気のせいだったのかと思うほどだ。

「早速本題に入るが、来月城でパーティーが開かれることになった。そこでこの中から準備や当日の給仕のために何人か選出してほしいと頼まれたんだ。もちろん無理強いするつもりはないから、やりたい者だけ残ってくれ」

トレヴァー様の言葉を聞きながら、皆が顔を見合わせている。
アメリアさんの話ではこの仕事で結婚したメイドが私の前任者だったらしい。
周囲の様子を伺っていれば、私を含んだ5人以外は自室や仕事に戻っていった。

「よし、じゃあこの5人でいいか?」

トレヴァー様の問いかけに私たちは返事をする。
アメリアさんも残ってくれたから私としては安心だ。

「5人なら準備に3人、当日の給仕に2人だな。どちらがいいか希望があったら言ってほしい」

どこまでも気を使ってくれるらしく、希望を聞いてくれた。
でも情報を探るなら、警備が厳しくなる当日よりも準備のタイミングの方が良さそうだ。

「あの、私できれば準備の方を担当したいのですが…」
「いいよいいよ!ロサちゃんも初めてのお城の仕事は良い思いで作っておいで!」

アメリアさん以外の先輩方も快く要望を受け入れてくれた。
その話を聞いていたトレヴァー様は首を傾げた。

「もしかして1カ月前に働き始めた者か?」
「はい」
「そうか、あまりに馴染んでいたから気づかなかった。確かにその銀髪は印象的だな」

トレヴァー様は何度か頷くと、置いてある椅子に座って話し合いが終わるまで待っていてくださった。
結局、アメリアさんは当日の給仕の担当になったため別れてしまったがこれはこれで動きやすくなって良かったのかもしれない。

「よし、決まったようだな。ではまた日にちが近くなったら追って連絡する」

この日はこれで解散となり、私たちは部屋に戻った。


アメリアさんと部屋の前で別れ、自室に入ると猫が窓の向こうに座りこちらを見ていた。
窓を開けてやると、部屋に入ってくる。
ベッドに腰かけていれば、猫は不思議そうにこちらを見た。

「どうした、そんなに疲れた顔をして」
「…城に行けることになった」

そう言うと猫は目を大きく見開いた。
まるで信じられないとでも言いたいような表情だ。

「なんだ、お前らしくない」
「この国はそこまで重要じゃない情報については雑な管理をしている。でも絶対的な証拠は掴ませないように守られているわ。」

これはこの国に来て詮索を続けたから分かった事実だ。

宿で見た馬車や施設の話。
これらのことから、明らかに何かが秘密裏に行われていることは察せても、確実な証拠が見当たらない。
でもこの屋敷で雇われ、メイド服の件やアメリアさんと話すことでいくつか隠されている可能性がある情報の候補が浮かんだ。
つまり、内部に入り込めば証拠を見つけることができる可能性があるのだ。

証拠がなければ情報屋は情報を買ってくれない。
それならば、多少の危険を覚悟してでも証拠を得て高値で売った方がいい。

「それに、子どもがターゲットならちょうどいいわ」
「…自分を囮に使うのか?」
「あくまでも最終手段よ」

私だってできるだけ被害を最小限に抑えたい。
でも死ぬことになるなら、多少の犠牲には目を瞑れる。

「私だってこんなことしながら生きてるんだから、とっくの昔に覚悟はできてるよ」

猫は何も言わなかった。
ただ、私が座っているベッドに乗ってくると頭を擦りつけてきた。
それが猫の優しさだと知っているから、私は黙って受け入れた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

社畜女子、チート能力でみんなを救います!

岩瀬悟
ファンタジー
主人公は、自分に自信がなく夢を諦めてきた。 しかし、異世界に召喚され、この世界には娯楽がないことを知る。 そこで、チート能力を使い、やりたかったことをやりながら世界を救うことを決意する。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

努力とか根性とか…蕁麻疹が出ます

 (笑)
恋愛
フレイヤは、王国に仕える「聖女代行」。本来の聖女が見つかるまでの一時的な存在として、王国に平穏をもたらしている…とされているが、彼女自身はその役目に全く興味を持っていない。怠惰で無関心、日々のんびりと過ごすフレイヤは、努力や根性とは無縁の存在で、何かを頑張ることにすら蕁麻疹が出そうなほど。 しかし、王国に「本物の聖女」が見つかったとの知らせが届く。王国は、強大な力を持ちながらも怠け者のフレイヤを追放し、彼女は新たな自由を手に入れる。旅に出たフレイヤは、美味しいスイーツを求めて気ままに各地を巡り始める。 彼女の自由気ままな旅の行く先には、いったいどんな出会いと冒険が待ち受けているのか。そして、フレイヤ自身の力が物語にどのような影響を与えるのか――。

悪役令嬢?いいえ、私は全てを計画通りに進めるだけです!

 (笑)
恋愛
貴族社会に生きる美しく気高い令嬢レイナ・ヴァレンティア。しかし、彼女には知られざる秘密があった。それは、自分が実は別の世界から転生してきた人物であり、彼女の未来には「破滅」の運命が待ち構えているということ。この運命を回避するため、レイナは冷静かつ計画的に行動し、王子やヒロインとの複雑な人間関係を巧みに操ることを決意する。 華やかな舞踏会や宮殿での駆け引き、謎の訪問者による警告など、次々と彼女を取り巻く運命の波が押し寄せる中、レイナは己の知恵と力を駆使して未来を切り開こうと奮闘する。果たして彼女は破滅を回避し、幸せな未来を手に入れることができるのか?運命に抗う令嬢の物語が今、幕を開ける。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

飛行機で事故に遭ったら仙人達が存在する異世界に飛んだので、自分も仙人になろうと思います ー何事もやってみなくちゃわからないー

光城 朱純
ファンタジー
空から落ちてる最中の私を助けてくれたのは、超美形の男の人。 誰もいない草原で、私を拾ってくれたのは破壊力抜群のイケメン男子。 私の目の前に現れたのは、サラ艶髪の美しい王子顔。 えぇ?! 私、仙人になれるの?! 異世界に飛んできたはずなのに、何やれば良いかわかんないし、案内する神様も出てこないし。 それなら、仙人になりまーす。 だって、その方が楽しそうじゃない? 辛いことだって、楽しいことが待ってると思えば、何だって乗り越えられるよ。 ケセラセラだ。 私を救ってくれた仙人様は、何だか色々抱えてそうだけど。 まぁ、何とかなるよ。 貴方のこと、忘れたりしないから 一緒に、生きていこう。 表紙はAIによる作成です。

婚約破棄した者全員処刑

あんみつ豆腐
恋愛
私には、アレンという婚約者がいた。 しかし彼は突如、別の女性と婚約するため、私を捨てた。 この時私の全てが壊れる音がした。そして決意した。 私は神となり全ての運命を支配する存在になると。 もう私は止められない。勇者だろうと、東方の最強剣士だろうと。誰であろうとだ。

最凶の悪役令嬢になりますわ 〜処刑される未来を回避するために、敵国に逃げました〜

鬱沢色素
恋愛
伯爵家の令嬢であるエルナは、第一王子のレナルドの婚約者だ。 しかしレナルドはエルナを軽んじ、平民のアイリスと仲睦まじくしていた。 さらにあらぬ疑いをかけられ、エルナは『悪役令嬢』として処刑されてしまう。 だが、エルナが目を覚ますと、レナルドに婚約の一時停止を告げられた翌日に死に戻っていた。 破滅は一年後。 いずれ滅ぶ祖国を見捨て、エルナは敵国の王子殿下の元へ向かうが──

処理中です...