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第4話
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「ここが俺の屋敷だ」
馬車に揺られてしばらく経った。
着いたのは城に近くに建つ大きなお屋敷だった。
手入れされた庭に立派な噴水があり、正面には玄関まで続く石畳が敷かれている。
その道を挟むようにして薔薇が咲き誇っている。
門の近くには警備兵が2人立っている。
おそらく彼が雇っている兵だろう。
よく見れば、他にもちらほらと仕事をしている人が見える。
こんな真夜中なのに、ここだけは寝静まることのないような異様な雰囲気だった。
「ロサ、お前には屋敷の離れにある寮に住んでもらう。メイドとしての仕事は明日からしてもらうからな。今日はゆっくり休んでくれて構わない。だが、明日は必ず遅れないようにしろよ」
「分かりました」
馬車から降りて早々にそう言うと私のことを先輩のメイドらしき人に任せ、トレヴァーは背を向けて屋敷に戻っていった。
…なんか冷たくない?
そんなことを思っていれば、私の指導員らしき女性は嬉しそうに声をかけてきた。
「初めまして、私はアメリア。あなたの先輩且つ先輩になるわ。よろしくね」
「私はロサと言います。こちらこそ、お願いします!」
元気いっぱいに返事をすれば、彼女は満足そうに微笑んだ。
「じゃあ、まずは寮に案内するわね。その道中で色んな説明をしてもいいかしら」
「お願いします」
話を聞いて分かったのは、どうやらこの屋敷の使用人のほとんどは住み込みで働いているらしい。
上手く役割を分担することで、こんな深夜でも仕事を回しているのか。
「ここよ」
「え、寮にしては綺麗すぎませんか?」
連れてこられたのは、使用人が住むにしてはあまりに豪華な建物だった。
レンガ造りの建物は、貴族の住む館にも負けず劣らずだ。
「元々トレヴァー様の妹君が住んでいたものなの。今は王妃候補としてお城に住まわれているわ」
「そうなんですね」
「さ、早く中に入りましょう」
促されるまま足を踏み入れれば、外見に劣らない内装が広がっていた。
ふかふかの絨毯の上には埃ひとつない。
きっとここも手入れしているのだろう。
「実はトレヴァー様のご意向で使用人は最小限に絞られているの。この前偶然1人退職したから雇ってもらえたのね。あなた相当運がいいわよ」
悪戯っぽく笑うアメリアさんから、どこか子どもらしい面影を感じた。
私の方が明らかに年下なのだが、正確には小さい子どもが無理して大人になったような感じだ。
「ここの部屋を使って」
しばらく歩いた後、アメリアさんは1つの扉を開けた。
中にはシングルベッドと机、椅子が置いてある。
メイドの部屋としては申し分ないし、先ほどまで泊まっていた宿よりも快適そうだ。
「こんなに良い部屋をいただいていいんですか?」
「いいのよ。使用人が少ないせいで部屋なんて腐るほどあるんだから」
そう言ってアメリアさんはケラケラと笑った。
どうやら本当に使用人が少ないようだ。
ここはあまり深入りすると怪しまれるかな。
すると、アメリアさんは壁にかかった時計を確認して声を上げた。
「あ、いけない。私そろそろ交代の時間だわ。今日は休んでいていいという話だったし、少し屋敷を歩いてみるのもいいかもしれないわね。私はロサちゃんの隣の部屋だから何かあったら来てね」
「ありがとうございます」
慌てた様子で部屋を出て行った彼女にお礼を伝えて、私はベッドに倒れ込んだ。
ふかふかの布団が身体を包み込む。
やっぱり急なことで精神的に疲れていたみたい。
気づけば深い眠りに落ちていた。
誰かが扉の前を歩いた。
知らない気配に一気に目が覚め、警戒を張ったがよくよく考えれば昨日ここに連れてこられたばかりだから知らない気配で当然だった。
「…今は」
時計を確認するとまだ早朝だった。
今日は休んでいていいとは言われたが、何もしないわけにはいかない。
とりあえず、着替えてから部屋の外に出よう。
そう考えてクローゼットを開けると、そこには大量のメイド服がかけられていた。
どれも上質なもので、新品のように綺麗だ。
「うわぁ……」
思わず感嘆の声が漏れた。
こんなに沢山の服を見るのは久々だし、何より高そうだ。
「…何でサイズ合うの?」
着てみればまるで測られたかのようにぴったりだった。
そして、何故か靴のサイズも合っていた。
「……あー、そういうこと」
ある1つの仮説にたどり着いた。
ただ、まだそれを確定させるにはあまりにも材料が少なすぎる。
今、変に勘ぐって解雇されたらたまったものじゃないしある程度信頼されるまで大人しくしておくか。
馬車に揺られてしばらく経った。
着いたのは城に近くに建つ大きなお屋敷だった。
手入れされた庭に立派な噴水があり、正面には玄関まで続く石畳が敷かれている。
その道を挟むようにして薔薇が咲き誇っている。
門の近くには警備兵が2人立っている。
おそらく彼が雇っている兵だろう。
よく見れば、他にもちらほらと仕事をしている人が見える。
こんな真夜中なのに、ここだけは寝静まることのないような異様な雰囲気だった。
「ロサ、お前には屋敷の離れにある寮に住んでもらう。メイドとしての仕事は明日からしてもらうからな。今日はゆっくり休んでくれて構わない。だが、明日は必ず遅れないようにしろよ」
「分かりました」
馬車から降りて早々にそう言うと私のことを先輩のメイドらしき人に任せ、トレヴァーは背を向けて屋敷に戻っていった。
…なんか冷たくない?
そんなことを思っていれば、私の指導員らしき女性は嬉しそうに声をかけてきた。
「初めまして、私はアメリア。あなたの先輩且つ先輩になるわ。よろしくね」
「私はロサと言います。こちらこそ、お願いします!」
元気いっぱいに返事をすれば、彼女は満足そうに微笑んだ。
「じゃあ、まずは寮に案内するわね。その道中で色んな説明をしてもいいかしら」
「お願いします」
話を聞いて分かったのは、どうやらこの屋敷の使用人のほとんどは住み込みで働いているらしい。
上手く役割を分担することで、こんな深夜でも仕事を回しているのか。
「ここよ」
「え、寮にしては綺麗すぎませんか?」
連れてこられたのは、使用人が住むにしてはあまりに豪華な建物だった。
レンガ造りの建物は、貴族の住む館にも負けず劣らずだ。
「元々トレヴァー様の妹君が住んでいたものなの。今は王妃候補としてお城に住まわれているわ」
「そうなんですね」
「さ、早く中に入りましょう」
促されるまま足を踏み入れれば、外見に劣らない内装が広がっていた。
ふかふかの絨毯の上には埃ひとつない。
きっとここも手入れしているのだろう。
「実はトレヴァー様のご意向で使用人は最小限に絞られているの。この前偶然1人退職したから雇ってもらえたのね。あなた相当運がいいわよ」
悪戯っぽく笑うアメリアさんから、どこか子どもらしい面影を感じた。
私の方が明らかに年下なのだが、正確には小さい子どもが無理して大人になったような感じだ。
「ここの部屋を使って」
しばらく歩いた後、アメリアさんは1つの扉を開けた。
中にはシングルベッドと机、椅子が置いてある。
メイドの部屋としては申し分ないし、先ほどまで泊まっていた宿よりも快適そうだ。
「こんなに良い部屋をいただいていいんですか?」
「いいのよ。使用人が少ないせいで部屋なんて腐るほどあるんだから」
そう言ってアメリアさんはケラケラと笑った。
どうやら本当に使用人が少ないようだ。
ここはあまり深入りすると怪しまれるかな。
すると、アメリアさんは壁にかかった時計を確認して声を上げた。
「あ、いけない。私そろそろ交代の時間だわ。今日は休んでいていいという話だったし、少し屋敷を歩いてみるのもいいかもしれないわね。私はロサちゃんの隣の部屋だから何かあったら来てね」
「ありがとうございます」
慌てた様子で部屋を出て行った彼女にお礼を伝えて、私はベッドに倒れ込んだ。
ふかふかの布団が身体を包み込む。
やっぱり急なことで精神的に疲れていたみたい。
気づけば深い眠りに落ちていた。
誰かが扉の前を歩いた。
知らない気配に一気に目が覚め、警戒を張ったがよくよく考えれば昨日ここに連れてこられたばかりだから知らない気配で当然だった。
「…今は」
時計を確認するとまだ早朝だった。
今日は休んでいていいとは言われたが、何もしないわけにはいかない。
とりあえず、着替えてから部屋の外に出よう。
そう考えてクローゼットを開けると、そこには大量のメイド服がかけられていた。
どれも上質なもので、新品のように綺麗だ。
「うわぁ……」
思わず感嘆の声が漏れた。
こんなに沢山の服を見るのは久々だし、何より高そうだ。
「…何でサイズ合うの?」
着てみればまるで測られたかのようにぴったりだった。
そして、何故か靴のサイズも合っていた。
「……あー、そういうこと」
ある1つの仮説にたどり着いた。
ただ、まだそれを確定させるにはあまりにも材料が少なすぎる。
今、変に勘ぐって解雇されたらたまったものじゃないしある程度信頼されるまで大人しくしておくか。
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