恐愛ナマコにストーカーされて、常識はずれな星に落とされました

2.ストーカー駄目、絶対

　


　ビチャビチャビチャ～～～っ！！　と顔に何かをかけられた。

「ぶぅっほぉおおおーーーーーっ！！？」

　慌てて飛び起き、キョロキョロと周りを見渡すが、いつもの自分の部屋だ。

（いや、待て……。ナマコ、ナマコが無い！　昨日まであった壁に、ナマコが無い！）

　そう思った時。脳天に、ビチャビチャビチャと再びなにかをぶっかけられた。

「ふっ、ぎょっ！？」

　ババッ！！　ベッドから転がり落ち、天井を見上げる。

　――天井にナマコが生えていた。

「お、お、お前っ！！　ふざけんなよっ！？　一体、何だよっ！　消えろよ～～！！」


　泣きべそをかきながらも叫んだ。また苦情がきてしまう、とかも考えられなくなり。
　遂には、しゃくりを上げて泣きに泣いてしまった。


『愛しい人……。そんなに泣いたら、目が腫れてしまう』
「へ…？」

　男か女か分からないが、中性的な凄い美声が聞こえた。
　テレビでも消し忘れたかと思ったが、ちゃんと消している。泣きすぎて幻聴でも聞こえたのかと思った時――。

『ああ、何て可愛らしいんだ。漸く、話せるようになって嬉しいよ……』

　頭上から、またしても声が聞こえてきた。

（ま、ままままさか……ナマコ、ナマコが喋ってる？　ナマコが……――）


「ぎぃやぁあああああーーーーーっっ！！？」

　――即、住人から壮大に怒られてしまった。


　△▼△▼△▼△▼


　俺は、ネットカフェに来ていた。

（もう、あんなアパートに帰れるかっ！！）

　すれ違う住人達がコソコソと何かを言っていて、聞き取れたのが「薬でもやってんのかね～？」なんて言っていたのだ。

「真面目代表みたいな俺が、そんなものに手を出すかっ！！」……と怒鳴りたかったが。そうしたら、本当に警察に通報されそうだったので、グッと我慢した。


「はぁあ～～。引っ越さないと、だよなぁ……」

　引っ越すにもお金がかかる。正直、めちゃくちゃキツイ。誰かを頼るにも、俺には両親がいない。小さな頃に事故でなくしてしまったらしい。本当に、小さな頃だから全く記憶に残っておらず。18歳まで、施設で育っていた。

　それで、施設に出たと同時に仕事をしているのだけれど。所謂、ブラック企業のようなところだった。
　サービス残業は当たり前で、だから勿論のこと給料も安い。けど、そこで働いている者達、俺も含め。ズブズブと泥の中に沈むかのように逃げられないのだ。
　それで、逃げられずに今は22歳になっていた。多分、これが洗脳なのかと思うけど……。分かっていても、どうしようもない。

（きっと、他の皆もそうなのかもしれないなぁ……）

　例え、嫌な場所から逃れるにしても……その一歩を踏み出すのには、多大な活力が必要だ。
　活力が無ければ、足を地面から離すことすら難しい――。


『何故、今日は此処にいるのだ？』
「んなの、ナマコが部屋にいるからに決まってんだろ！」

（…………？　あれ？　俺、誰と喋って……？）

　声の方へ顔を向ける。
　ナマコが壁にいた。俺から直ぐ右の壁から、ナマコがこちらを覗き込むように生えていたのだ。

「ぎゃぁああああーーーーーーーっっ！！！？」

　俺の悲鳴を聞いた店員さんが、何事かと駆けつけて来た。
　俺はナマコのせいで恐怖に震えながらも「怖いもの(ナマコ)を見てしまって……」と言い。もうここには居られないと、滞在した分の料金を払って、そのネットカフェから直ぐに逃げた。


　そして、再びあのアパートに戻った。
　何処にいてもナマコがついてくるなら、もうどうしようもないからだ。だが、それではナマコの思い通りのような気がして苛々した。
　だから、帰りに大型スーパーに行き、ナマコを買った。

　家に着き。即刻、ナマコを調理し、フォークでグチャグチャにぶっ刺しまくってから、歯で噛み砕いて食べている。
　“壁に生えているナマコの前”で。……なのに――。


『そんなものではなく、我のを口にいれて欲しい』
「くそぉ～っ！！　黙れっ！　クソナマコ野郎がーーっ！！」

　全く効き目がない。むしろ、興奮したかのように白い液体をビュービューと出していた。マジ、殺っ！！

（誰でもいいから、こいつを引き取ってくれっ！！）