135 / 142
134.〖ロンウェル〗現在
しおりを挟む△▼△▼△▼△▼
【塔主の間】に用があり扉を開くと、塔主様がソファーの上で、ぐで~んとしていた。
「塔主様、いらっしゃったんですね?」
「あ~……。うん……」
これは……。また、ハートシア様と何かあったな?
俺は塔主様に何も聞かず、お目当ての資料を棚から出し、手に持つ。
「――なぁ、ロンウェル」
――来たな。
「お前と、俺ってさ~……。めちゃくちゃ長い仲じゃん? ここに居る、どんな人よりも先に出会ったし……――俺が、この魔術塔の塔主になったのだって。ロンウェルからの推薦でなったようなもんじゃん?」
そう、あの当時。俺が塔主様に言おうとしていた事は――『魔術塔の塔主になって欲しい』というお願いであった。
********
魔術塔を、自分がここだと思えるような土地に設置したいと思い。ずっと、国を転々としていた。
もし、そのような国を見つけることが出来て、魔術塔を設置する時には、初めに塔主となる人物を設定しなければならない。
当初は、俺自身がそれになるつもりだった。
代表というものには、正直なりたくはなかったが……。
俺しか魔術塔内にいないのなら、そうだとしても、特に問題はないと考えていたのだ。
――だが、塔主様と出会ったことで、その認識が変わった。
塔主様と一緒にこの国を変えていったことによって、ここから離れがたい……という気持ちになり。
だから、この国に魔術塔を設置し、己の腰を据えようと決めた。
そう決めたのと同時に。この魔術塔を、本当の意味で活かせるのは――絶対に、塔主様しかいないと思った。
それは、製作した自分自身でも驚く程。魔術塔という魔法具は逸品であり、同じ物をいま作れと言われても、不可能と思うくらいの出来なのだ。
だからこそ、俺ひとりが住むだけの住居として使うだなんて、この魔法具の優れた性能を腐らせることになるだろう。
きっと、塔主様だったら……。この魔術塔を、困った人の為に使ってくれると思った。
――俺が塔主様にそれを言ったのは、塔主様が国に戻ってから数日後。
塔主様が『当分、この国にいる』と言ったことで、俺は勇気を出し『魔術塔の塔主になって欲しい』と伝えた。
初めは塔主様に『無理! 無理! 絶対、無理』と拒否されたが。
俺が『魔術塔であれば、恵まれない大勢の人を保護することだって出来る』というのと、『長い時を生きる、“自分達の居場所”にもなる』と、ずっと頼み込んだ。
結果、塔主様は俺の勢いに根負けし、それを了承してくれたのだ――――。
********
「魔術塔の、塔主になってからさ~……。初めの頃、大変だったよな~? この国の王は、空気になってたから問題なかったけど、市民の奴らが調子に乗ってて……。魔術塔の取り組みを馬鹿にしてくるわ、突っかかってくるわで……」
「はい……。あの当時は、そうでしたね」
塔主様を知っている街の人達は、寿命により全員が亡くなっており。だから勿論、塔主様のことを慕っている者は、誰一人いなかった。
しかも、以前いた市民の全員が亡くなって、時が経つ毎に。王が何も言わないからか、自分勝手な態度をとる市民が多くなっていた。
「まぁ……。俺が離れてた年数でまるっと国民が入れ替わってたから、俺を知ってる人が居なくなってたし、しょうがないのかもしれないけどさ~。本当に、大変だったよな~?」
「はい、多大なご苦労をかけて……すみませんでした」
俺はそれを何とかしたかったのだが、どうすれば良いのか分からなくて、ずっと動けず。
結局、塔主様が魔術塔の取り組みを定め。俺に指示を出してくれるまでは、そのままの状態になってしまっていたのだ。
「うん、うん! じゃあさ、本当にそう思ってるなら――ロンウェルから、レイドに何か言ってくれよっ! 今のほうが俺、めっちゃくちゃ苦労してるんだから~~っ!!」
うん。塔主様は、それを言いたかったんだな……。
「いえ……。ハートシア様は、塔主様にだいぶ妥協をしています。塔主様も、ハートシア様に妥協して差し上げればよろしいかと……」
「はぁああ~?? 絶対、妥協なんてしてないだろ!? 街中で可愛い子供服があってそれを見てたらさ、店員が近付いてきて、ただ会話してただけだぞ? それのどこに、レイドの変態スイッチが入る要素があんだよっ!?」
話を聞いただけでは、確かにそんな事で……と思うかもしれないが。塔主様は多分、その店員さんに親しげに身体を近付けたり、何かをしたのだろう。
――ハートシア様によると。塔主様が【ヤマダ】の時は、だいぶクールな感じだったようだ。
確かに、数回ほど見た時には、どこか人と一線を引いたような雰囲気があった。
当人に聞いてはいないから、分からないが……。もしかしたら、あちらの世界で過ごした環境によるものか? と、思ってはいる。
環境によって、人は変わるからだ。
塔主様は過去の記憶が戻ったことで、自身の考え方も取り戻したのだろう。
俺からすると、こちらの塔主様の方がしっくりくるから、戻ってくれて良かったと思う。
けど、なんだか……。塔主様、人との距離感がおかしいんだよな。
もともと陽気な人ではあったけど、こんなにグイグイ来る人だったっけ?
ああ、それか……。白の禁術機による、プレゼントがなくなった反動か?
なんか、『人との距離感を気にせず、こんな人混みにも紛れられるなんて、チョー嬉し~!!』とか言ってたし。
……そういえばその後、塔主様が『レイドに、意味不明に襲われた!』と、今みたいに愚痴りに来たな……。
「めっちゃ妥協してんのは、絶対に俺の方だっ!! そもそも、ロンウェルにも俺は妥協してんだぞ? 本当は、お前にはちゃんと名前で呼んで欲しいのにさ……。これは俺のけじめだ何だって言うから、今まで黙ってたんだ! こうなったら――レイドに言うか、俺の名前を呼ぶか、どちらか一つだからなっ!!」
「はい、はい……」と聞き流していたが、塔主様に面倒な選択を迫られた。
「塔主様、それは命令ですか? でしたら、私に『そうしろ』と、ちゃんと命令をして下さい」
塔主様は「いや~、別に命令じゃあ……」と、モゴモゴと何かを言っている。
塔主様は、何かを成す時にはキリッとしていて、目を奪われるほどに格好良く、指導者として申し分ないのに。
普段はふにゃりとしていて、威厳がなく、必要のない命令などをすることを嫌うのだ。
だから俺は、あえてそのように言った。
俺が、塔主様をいつも気にかけているハートシア様に対し、苦言を呈するのは論外だとして……。
塔主様の名前を言わないのは、周囲の者達に示しがつかないからというのもあるが……。一番は、ここの魔術塔の塔主に対し、馴れ馴れしく名前で呼ぶ自分が想像出来ないからだ。
これは、自分を卑下している訳ではなく――。
もともと他の人に対し、一歩引いて話したり接したりしてしまう癖のようなものがあり、どんなに親しい仲であってもその癖が自然と出てしまうのだ。
こんなこと、人に説明するのは難しいし。わざわざ理解を求めようとも思ってはいない。
――塔主様は、まだ何やらモゴモゴと言っている。
仕方ない。気を逸らすためにも、ハートシア様が、いかに塔主様の事を大切に思っているのかを教えてあげるか……。
「塔主様。ハートシア様が何故、直ぐにダンジョンへと現れなかったのか……お聞きになりましたか?」
まあ、恐らくは聞いていないだろう。
ハートシア様は、自分語りをするのが苦手であり。塔主様は、過去のことをあまり振り返ったりはしないから、気づいてすらいないのかもしれない。
「え? ……――あっ! そういや、そうだったな? 何でレイド、直ぐに来なかったんだ?」
驚いた表情を浮かべたということは、俺の考えていた通り、言われるまで気づいていなかったようだ。
塔主様は、俺の話を聞く姿勢になっている。
気を逸らすことに成功したと、ホッと息を吐き。ハートシア様の“血の滲むような努力”を話すため、口を開いた――。
12
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
俺が総受けって何かの間違いですよね?
彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。
17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。
ここで俺は青春と愛情を感じてみたい!
ひっそりと平和な日常を送ります。
待って!俺ってモブだよね…??
女神様が言ってた話では…
このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!?
俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!!
平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣)
女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね?
モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる