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134.〖ロンウェル〗現在
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【塔主の間】に用があり扉を開くと、塔主様がソファーの上で、ぐで~んとしていた。
「塔主様、いらっしゃったんですね?」
「あ~……。うん……」
これは……。また、ハートシア様と何かあったな?
俺は塔主様に何も聞かず、お目当ての資料を棚から出し、手に持つ。
「――なぁ、ロンウェル」
――来たな。
「お前と、俺ってさ~……。めちゃくちゃ長い仲じゃん? ここに居る、どんな人よりも先に出会ったし……――俺が、この魔術塔の塔主になったのだって。ロンウェルからの推薦でなったようなもんじゃん?」
そう、あの当時。俺が塔主様に言おうとしていた事は――『魔術塔の塔主になって欲しい』というお願いであった。
********
魔術塔を、自分がここだと思えるような土地に設置したいと思い。ずっと、国を転々としていた。
もし、そのような国を見つけることが出来て、魔術塔を設置する時には、初めに塔主となる人物を設定しなければならない。
当初は、俺自身がそれになるつもりだった。
代表というものには、正直なりたくはなかったが……。
俺しか魔術塔内にいないのなら、そうだとしても、特に問題はないと考えていたのだ。
――だが、塔主様と出会ったことで、その認識が変わった。
塔主様と一緒にこの国を変えていったことによって、ここから離れがたい……という気持ちになり。
だから、この国に魔術塔を設置し、己の腰を据えようと決めた。
そう決めたのと同時に。この魔術塔を、本当の意味で活かせるのは――絶対に、塔主様しかいないと思った。
それは、製作した自分自身でも驚く程。魔術塔という魔法具は逸品であり、同じ物をいま作れと言われても、不可能と思うくらいの出来なのだ。
だからこそ、俺ひとりが住むだけの住居として使うだなんて、この魔法具の優れた性能を腐らせることになるだろう。
きっと、塔主様だったら……。この魔術塔を、困った人の為に使ってくれると思った。
――俺が塔主様にそれを言ったのは、塔主様が国に戻ってから数日後。
塔主様が『当分、この国にいる』と言ったことで、俺は勇気を出し『魔術塔の塔主になって欲しい』と伝えた。
初めは塔主様に『無理! 無理! 絶対、無理』と拒否されたが。
俺が『魔術塔であれば、恵まれない大勢の人を保護することだって出来る』というのと、『長い時を生きる、“自分達の居場所”にもなる』と、ずっと頼み込んだ。
結果、塔主様は俺の勢いに根負けし、それを了承してくれたのだ――――。
********
「魔術塔の、塔主になってからさ~……。初めの頃、大変だったよな~? この国の王は、空気になってたから問題なかったけど、市民の奴らが調子に乗ってて……。魔術塔の取り組みを馬鹿にしてくるわ、突っかかってくるわで……」
「はい……。あの当時は、そうでしたね」
塔主様を知っている街の人達は、寿命により全員が亡くなっており。だから勿論、塔主様のことを慕っている者は、誰一人いなかった。
しかも、以前いた市民の全員が亡くなって、時が経つ毎に。王が何も言わないからか、自分勝手な態度をとる市民が多くなっていた。
「まぁ……。俺が離れてた年数でまるっと国民が入れ替わってたから、俺を知ってる人が居なくなってたし、しょうがないのかもしれないけどさ~。本当に、大変だったよな~?」
「はい、多大なご苦労をかけて……すみませんでした」
俺はそれを何とかしたかったのだが、どうすれば良いのか分からなくて、ずっと動けず。
結局、塔主様が魔術塔の取り組みを定め。俺に指示を出してくれるまでは、そのままの状態になってしまっていたのだ。
「うん、うん! じゃあさ、本当にそう思ってるなら――ロンウェルから、レイドに何か言ってくれよっ! 今のほうが俺、めっちゃくちゃ苦労してるんだから~~っ!!」
うん。塔主様は、それを言いたかったんだな……。
「いえ……。ハートシア様は、塔主様にだいぶ妥協をしています。塔主様も、ハートシア様に妥協して差し上げればよろしいかと……」
「はぁああ~?? 絶対、妥協なんてしてないだろ!? 街中で可愛い子供服があってそれを見てたらさ、店員が近付いてきて、ただ会話してただけだぞ? それのどこに、レイドの変態スイッチが入る要素があんだよっ!?」
話を聞いただけでは、確かにそんな事で……と思うかもしれないが。塔主様は多分、その店員さんに親しげに身体を近付けたり、何かをしたのだろう。
――ハートシア様によると。塔主様が【ヤマダ】の時は、だいぶクールな感じだったようだ。
確かに、数回ほど見た時には、どこか人と一線を引いたような雰囲気があった。
当人に聞いてはいないから、分からないが……。もしかしたら、あちらの世界で過ごした環境によるものか? と、思ってはいる。
環境によって、人は変わるからだ。
塔主様は過去の記憶が戻ったことで、自身の考え方も取り戻したのだろう。
俺からすると、こちらの塔主様の方がしっくりくるから、戻ってくれて良かったと思う。
けど、なんだか……。塔主様、人との距離感がおかしいんだよな。
もともと陽気な人ではあったけど、こんなにグイグイ来る人だったっけ?
ああ、それか……。白の禁術機による、プレゼントがなくなった反動か?
なんか、『人との距離感を気にせず、こんな人混みにも紛れられるなんて、チョー嬉し~!!』とか言ってたし。
……そういえばその後、塔主様が『レイドに、意味不明に襲われた!』と、今みたいに愚痴りに来たな……。
「めっちゃ妥協してんのは、絶対に俺の方だっ!! そもそも、ロンウェルにも俺は妥協してんだぞ? 本当は、お前にはちゃんと名前で呼んで欲しいのにさ……。これは俺のけじめだ何だって言うから、今まで黙ってたんだ! こうなったら――レイドに言うか、俺の名前を呼ぶか、どちらか一つだからなっ!!」
「はい、はい……」と聞き流していたが、塔主様に面倒な選択を迫られた。
「塔主様、それは命令ですか? でしたら、私に『そうしろ』と、ちゃんと命令をして下さい」
塔主様は「いや~、別に命令じゃあ……」と、モゴモゴと何かを言っている。
塔主様は、何かを成す時にはキリッとしていて、目を奪われるほどに格好良く、指導者として申し分ないのに。
普段はふにゃりとしていて、威厳がなく、必要のない命令などをすることを嫌うのだ。
だから俺は、あえてそのように言った。
俺が、塔主様をいつも気にかけているハートシア様に対し、苦言を呈するのは論外だとして……。
塔主様の名前を言わないのは、周囲の者達に示しがつかないからというのもあるが……。一番は、ここの魔術塔の塔主に対し、馴れ馴れしく名前で呼ぶ自分が想像出来ないからだ。
これは、自分を卑下している訳ではなく――。
もともと他の人に対し、一歩引いて話したり接したりしてしまう癖のようなものがあり、どんなに親しい仲であってもその癖が自然と出てしまうのだ。
こんなこと、人に説明するのは難しいし。わざわざ理解を求めようとも思ってはいない。
――塔主様は、まだ何やらモゴモゴと言っている。
仕方ない。気を逸らすためにも、ハートシア様が、いかに塔主様の事を大切に思っているのかを教えてあげるか……。
「塔主様。ハートシア様が何故、直ぐにダンジョンへと現れなかったのか……お聞きになりましたか?」
まあ、恐らくは聞いていないだろう。
ハートシア様は、自分語りをするのが苦手であり。塔主様は、過去のことをあまり振り返ったりはしないから、気づいてすらいないのかもしれない。
「え? ……――あっ! そういや、そうだったな? 何でレイド、直ぐに来なかったんだ?」
驚いた表情を浮かべたということは、俺の考えていた通り、言われるまで気づいていなかったようだ。
塔主様は、俺の話を聞く姿勢になっている。
気を逸らすことに成功したと、ホッと息を吐き。ハートシア様の“血の滲むような努力”を話すため、口を開いた――。
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