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133.〖ロンウェル〗過去
しおりを挟む傷だらけな俺の仲間を、王の元から救出し事情を聞くと、王はヤツィルダさんが城に押しかけ暴れたことで、強い防御魔法を使える人物に己を守らせれば良いと思ったようだ。
それで、防御系の魔術師を必死に探したところ、隣国に住んでいるという情報を入手したようで、仲間が見つけ出されてしまったという。
しかも間の悪いことに、魔法具を製作していた時に兵士が無断で家の中へと上がり込んで来てしまい、そのせいであのような魔法具を作らされていたということだった。
解放された仲間はすぐに市民につけられていた魔法具を全て外し、その一人一人に謝りながら隣国に帰って行った。
――その後、小耳に挟んだ話だと。王は、俺が製作した魔法具をなんとかして無効化しようと必死だったらしく。
破いたり、燃やしたり、遠くへと捨ててみたりしたようだが、全部が無駄な労力で終わったようだ。
俺はそうされても大丈夫なよう、全て抜かりなく製作した。だから、いくら王が足掻こうが、どうすることも出来ないだろう。
終いには、己が酷い目に合わせた防御系の魔術師をまた拐って来ようとしたようだが――既に住居を移しており、その場はもぬけの殻だったという。
それからは、これはもうどうしようもないとやっと理解したのか。王は、しょんぼりと大人しくなっていった。
********
「ロンウェル! 俺、面白い魔法を使う奴を見つけたんだー! だから、ちょっとそいつ追いかけて、詳しくその使い方とか聞き出すからさ~。この国、出るわ! その魔法を、絶対にものにしてみせるっ!」
ヤツィルダさんは、握りこぶしを作って。やってやる! という顔をしていた。
「えっ……? い、いつ戻られますか……?」
ヤツィルダさんにずっと言おうとしていたことがあり。今日、それを伝えようと思っていたため、慌ててしまう。
「ん~? いつだろ? まぁ、この国もさ。すっかり、落ち着いてきたし。俺がいなくても、もう大丈夫そうだからなぁ~……――ん? それで……何かあるのか?」
王が大人しくなってからは、国民の人達が各々で物事を取り組めるようになって、市場なども栄えてきた。
それで、他国の者達がよく観光で訪れるようにもなっている。
そしてヤツィルダさんは、最近は国民達の取り組みに口を出さず、あえてそれらを見守るだけにしているようだった。
「あ、あの……! ヤツィルダさん……」
「……?」
今、言おうか? ……いや、ヤツィルダさんは国を出たいと言っている。それでは、変に引き留めてしまうかもしれない。
俺は、初めて自分が何かを成せたこの国から離れ難く。腰を落ち着ける住居をここへと決めたが、ヤツィルダさんもそうとは限らない。
それに――ヤツィルダさんは、だいぶ前から色々な国を回って、人助けをしていると言っていた。
なら、一ヶ所に留まることをしないと、決めている可能性もあるのだ。
「あ、いえ……。確かに、王が大人しくなったので……国は問題ないですね。その、ヤツィルダさんは凄いですね? このように、人助けをしようという志が……。親の教えですか?」
言おうとしていたことを無理に止めたからか、モゴモゴと変なことを口走ってしまった。それをヤツィルダさんは特に気にした様子はなく、「ああ~! それはな?」と嬉しそうにニカッと笑った。
「俺さ、孤児なんだけどな~……。捨てられてた俺を、大事に育ててくれた人達がよく言ってた言葉がな――『自分から沸き起こる感情の起因は、大抵の場合は周囲の人によってもたらされる。それを逆に捉えると、自分が相手に対してしたことが、その人を幸せにも不幸にもしてしまう。だから常に、自分が行うことに責任を持ち、人が笑顔になれることをしてあげなさい』ってさ……」
ヤツィルダさんは目を細め、懐かしそうな顔をしていた。
ヤツィルダさんが孤児だと言った一瞬。俺は、『親』と言葉に出したことを後悔したが……。
大切な何かを思い出すような表情を見て、ホッとした。
それから、とても心優しい人達に、ヤツィルダさんは育てられたのだな……と思うのと同時に【孤児は、過去に陰りを抱え、苦労している】といった先入観を持っていた己を、非常に恥じもした。
「それで、俺もさ。自分が持っているこの力で、あの人達みたいに誰かを幸せに……笑顔にしたかったんだ」
寂しそうに、ヤツィルダさんは遠くを見ていて――。
その人達はもうこの世にいないのだと。ヤツィルダさんの、その寂しげな表情を見て理解する。
「ヤツィルダさんに救われ、笑顔になった人はたくさんいますから、きっとその方達はとても喜んでいますね」
ヤツィルダさんは、目を丸くした後。「そうだと、いいなぁ~」とパッと笑顔になった。
********
「よし、まだ一人分しか出来ないけど……。これなら、もうあのような事にはならない」
ヤツィルダさんが国を出てから、70年程の年月が経過していた。
俺は、前にそうであれば良い、と思っていた事――【移動式・防御壁】の習得に、ずっと励んでいた。
やっと、その防御壁をものにすることが出来たのだ。
――バタンッ!! 玄関の扉が開き、慌ただしく走ってくる音が聞こえる。
「……あれ?」
この家の鍵を渡している人は、一人しかいない。
「ロンウェル! 俺は悟った!! あれらを習得するのは、絶対に無理だとっ!!」
予想通り。ヤツィルダさんが扉の前で、何故だか清々しい顔で佇んでいる。
――ヤツィルダさんには、たびたび伝書を送り、縁を切らないようにしていた。
それで、その伝書に――俺が、防御系の極級魔術師だということと。ヤツィルダさんに渡していた魔法具は、本当は全て自分が作っていたことも伝えた。
ヤツィルダさんは、それに非常に驚いたようで。その3日後にやって来て、凄い凄いと褒めちぎった。
そして何が何だかよく分からず呆気に取られている俺をそのままに、直ぐまた国を出て行ってしまったのだ――。
「え~と? 『あれら』とは、前に言っていた面白い魔法というものですか?」
「ああ! あんなの出来ない!! 絶対に、無理だっ!!」
「ヤツィルダさんが無理、と断定するのは珍しいですね? いつもは、どうにかなる! といった感じですのに……」
「うん! だって、絶対に無理なんだよ!! ロンウェルだって、あれを見ればそう思うはずだ!」
ヤツィルダさんは腕を組み。ウンウンと頷き、自分の中でそれを納得しているようだ。
ヤツィルダさんとは、ほとんど伝書でしか話をしておらず。今、久しぶりに会ったのだが。
会わなかった時期などなかったかのように、ヤツィルダさんとは話しやすい。
それはきっと、ヤツィルダさんが俺と壁を作らずに接してくれているからかもしれない。
そんなヤツィルダさんにだから。俺は、自分の秘密を伝えようと思えた。
――しかし。ただ、ひとつ……。魔法具を作っているのが【防御系の魔術師】であるということだけは、俺だけの問題ではないため。ヤツィルダさんであっても言えなかった。
もし仮に、何かがありその事実が漏れてしまった場合。
防御系の魔術師達は捕らえられ、あの時のように、ただ消費されるようになってしまうと思うのだ。
だから、魔法具を作っている全員が。
同じ仲間以外で、どんなに親しい人がいたとしても、この事実だけは例外なく『誰にも伝えない』ということを決めていた。
「――ん? あれ……? ロンウェル、何か……してる?」
ヤツィルダさんは俺を見て、首を捻ったり目を細めたりしている。
「……? ああ、そうでした」
まだ防御壁を発動したままだった。
「これは、移動式の防御壁です」
「へ……? な、なんだって?」
じぃ~と凝視された。
ん? もしかして、性能や経緯を知りたい、とかか……?
ヤツィルダさんは、時が止まってしまったかのように俺をただ見詰めているので、簡潔にそれを話すことにした。
「これは、防御壁を極端にまで薄くし、対象に張り付かせることで、それごと移動が出来るようにしたのです。これの習得は、けっこう大変でした。その対象が動くことで防御壁が弾けてしまったり、性能面を同じようにするのが難しく、なかなか出来ずにいましたけど……。最近になり、やっと出来るようになったのです」
俺が話し終えると。ヤツィルダさんが、そろそろとこちらへと近づいてきて、俺の身体をペタペタと触り――目をぱちくりと、まん丸に見開いた。
「えぇ……? お、お前って、やっぱり天才? ただでさえ、極級の防御壁って凄いのに……。移動まで出来るって、ヤバくない?」
「……天才、凄い?」
たまに、ヤツィルダさんが何を言っているのかが分からない時がある。
俺のような、防御系の魔術師は――。
攻撃系の魔術師のように、魔法で木を切ったり、物を運んだり、火を起こしたりと……。日常生活で役に立つことは出来ないし。
回復系の魔術師のように、怪我を負った人を治すことだって出来ない。
だから、人の役に立てることは無いのだ。
しかも、攻撃系や回復系の魔術師は、高い等級であればある程に……。豊富な種類の魔法を使えて、その性能も高く。魔法を使用出来る回数も増える。
だから仕事に困ることもなく、皆から重宝されている。
それからも分かるように、防御系の魔術師は世の中に役立つことは出来ない。
せいぜい、人と人とのいざこざの時。周囲に防御壁を張るくらいしか使い道がないのだ。
「いえ、このようなこと……。全然、大した事ではありません」
きっと、俺が魔法で変わったことをしていたから、ヤツィルダさんが気を遣ったのだろう……。なんだか、それを申し訳なく思う。
すると、ヤツィルダさんは不快そうに顔をしかめた。
それで、自分がなにか失言をしてしまったことに気がついたが、その失言がなんだか分からず、上手い言葉も思いつかない。
立ち尽くし黙っていると、ヤツィルダさんはガシガシと頭を掻き、ふぅ~とため息を吐いてから「あのな……」と言葉を発した。
「――俺は、自分が出来ないことを出来るロンウェルを尊敬するし、素直に凄いと思う。でも、相手にそれは大したことじゃないと、沈んだ顔で否定しかされなければ……それは気分の良いものじゃないぞ? 俺は、お前に自信を持って欲しい。それは、お前にしか出来ないことだ」
「――……」
尊敬する……? ヤツィルダさんのように凄い人が、俺のことを?
何故、そんな……俺が特別かのようにヤツィルダさんは言うんだ? まさか、からかっているのだろうか……?
ヤツィルダさんを見ても、真剣な顔をして真っ直ぐ俺に視線を向けていて。心からそう思い、俺に言葉を伝えたのだと分かった。
だからだろうか『忘れるな』というように頭の中で、その言葉が幾度も再生される。
「――そうですか……。ありがとうございます」
まだ、自分に自信は持てない。
けど、ヤツィルダさんがそのように言ってくれた事で、前向きになれたような気がする。
俺は、その言葉全てを絶対に忘れないようにしようと――心の中に大切にしまい込んだ。
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“全てを打ち明けられるのは、いつになるだろうか”
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注2:ソフトな表現、ストーリーメインです。苦手な方は⋯ (省略)
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