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131.〖ロンウェル〗過去 △
しおりを挟む一体、何が起こっている?
「オラッ! 最近、調子に乗りすぎなんだよ!! 下民共がっ!! さっさと金だせよっ!」
「ぎゃあああっ!! 痛い痛い痛いっ! た、助け……っ」
「いぎっ!! や、やめて下さい……!」
「ははははーーーっ!! やっぱ、この魔法具すげぇな~! これのお陰で、市民全員が俺達の奴隷になったも当然だ!」
街の人達が、首輪のような物をつけられ。
複数いる兵士達が、手首バンドのようなものを叩く度。街の人達が、踠き苦しんでいる。
俺はその兵士達に見付からないよう、直ぐ物陰に身を隠す――。
「何故……? 俺の仲間が、そのような事をするなんて……。何か、何かがあった筈だ……」
ここ2週間の間。俺とヤツィルダさんは、用があって国を出ていた。
ヤツィルダさんが、この国を離れたのは――以前、ヤツィルダさんが訪れた国が2週間ほど前に、大きな災害が発生したようで。伝書で、救助要請が届いた。
国がある程度、落ち着いたというのもあり。ヤツィルダさんは、街の人達にそれを伝えてから、その国へ向かった。
そして、俺が国を離れた理由というのは……。ヤツィルダさんが、これからこの国に居着くならば、絶対に必要不可欠となる魔法具があるのだ。
それで、ヤツィルダさん同様。街の人達に、当分は国を出ると伝え。他国にいる仲間から作業場を借り、その魔法具の製作を行っていた。
製作が完了し。今日、この国に戻ったら……――このような現状になっていたのだ。
「ヤツィルダさんに、伝え……。いや、これは……俺が何とかしないと――」
ヤツィルダさんが、いくら頭が切れるとはいっても。暴力の前には、なす術もない。
それに、あの魔法具は――強い魔術師が作ったものだと……性能を見て分かった。
それは、人を隷属させることが出来る魔法具というものは、並大抵の者では作ることは不可能だからだ。
ならば、今。この状況をどうにか出来るのは……。一級魔法具職人の等位を持っている、俺しかいないと思う。
「見るところ……。精密に出来ているあの魔法具を外すのは、流石に難しいかもしれないな。力を無効化するような魔法具を作るしかないか……?」
魔法具が作れるとはいっても。正直、他の人が製作した魔法具の、全てを把握するのは難しい。
何故なら、魔法具はその作った本人にしか仕組みが理解出来ない……ということもざらにあるからだ。
そう初めに分かったのは……。他の人が作った魔法具を、自分が仮に製作したら、どんな魔法具が出来るのか? という、仲間内で時々やっている遊びからであり。
それで、全く同じ物を真似し、作ろうとしても。それを作り上げるまでの過程が、何故か途中から変わってしまい。形が違って出来たり、他の性能も更に含まれていたりと……。魔法具は、作る人の個性が非常に強く出る。
しかし、魔法具職人が『全く同じ物を真似し、作ろう』とするのは『遊び』としてのみであって。他の人が作る魔法具がいくら良い性能だと思っても、その発想を盗んでまで誰かに販売はしないという拘りもあるのだ――。
「実物がないからには……どうしようもない。俺の魔法では、大勢いる兵士達から奪い取るのは難しいな……」
防御壁を張れたとしても、あくまで守りに徹することしか出来ない。
その間は、場所を移動することも出来ないから……。結局は、いつかは魔力切れを起こしてしまう。
もし、移動の出来る防御壁があれば違っただろうが――。
「ふぅ……。よし、行くか……」
俺は、覚悟を決め――その兵士達の元へと向かった。
********
「くっ…! まさか、あの男がいるなんて……」
以前、ヤツィルダさんを連れて行こうとしていた中年の男が、あの場に居た。
それで……魔法具を入手するどころか、俺は牢屋に捕らえられてしまい、殴る蹴るの暴行を受けた。
自分の能力を誰かに知られたくなくて、何とかそれに耐え、やり過ごそうとしたのだが――笑いながら本当に殺そうとして来たので、俺は防御壁を張った。
少しの間。男はこの場所に留まり、俺に暴言を吐いていたが……。それに飽きたのか、今は何処かへと行っているようだった。
「恐らく、俺を殺そうとしているのだろうな……」
あれから1日は経過したと思うが、食事が運ばれて来ていない。このままでは、何時かは餓死するだろう――。
――
――――
「――はぁ……っ、ぅう……」
暴行によるせいか、昨日から熱が出ているみたいで、頭がクラクラする。
「お~お~! ちゃんと、弱ってるな~? まったく、あんなクソみたいな魔法を使いやがって! 社会のゴミクズがっ! 世に必要とされない魔術師がっ!!」
「……っ、ガハッ! ぐ、ぅ……っ!!」
いつの間にか、中年の男が来ていたようだ。
急に強く腹を蹴り上げられ、息が詰まった。
何がそんなに楽しいのか……。大笑いしながら、俺をずっと蹴っている。
――何も出来ずに、終わるのか。
今まで生きて来て、何かを成したい……という強い気持ちを持ったことはなかった。
けれど、ヤツィルダさんがこの国を変えていくのを見ているうちに、それにとても感動し。漸く、自分も一緒に何かをしたいと……強く思えたのに――。
「ぐびゃーーーーーッ!!?」
俺を蹴っていた足が止まり、上から鋭い悲鳴が聞こえた。
そこに視線を向けると……無表情なヤツィルダさんがいて――。
風魔法で中年の男を宙に浮かせ、首をギリギリと締め上げている。
その表情は、俺の知っているヤツィルダさんではなく。違う人物かのように、狂気を孕んだ雰囲気を漂わせていた。
「――お前、どう死にたい……?」
そうヤツィルダさんが言った瞬間。中年の男はグルンと白目を剥き、気絶をしたようだ。
ヤツィルダさんは、男をポイッと床に投げ捨て。俺の元へ駆け寄って来た。
「ロンウェル!! ああっ……! スゲー傷だらけに……!」
先程の狂気を収め。俺の身体を見て、アワアワと泣きそうな顔をしている。
「私は、大丈夫です……。それより、ヤツィルダさんは、今すぐにこの国から出て下さい……! 私達が国を離れていた時に、王が何かをしたようで……ですから――」
すると、俺の言葉を被せるように「全て、俺に任せろ!」とヤツィルダさんは、ニッと笑った。
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