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127.〖炎竜〗現在(終)

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 ※『126.〖炎竜〗現在(終)』をご覧になった方へ。
 一話の長さと見やすさを考えて、分割しました。内容は変えていないので、飛ばして次の話からお読みになって大丈夫です。



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 話し終え。2人に視線を向けると――主は目を赤くし、レイドは顔を歪めていた。

『そのような顔をしなくてもよい。もう、過ぎた過去のこと……。後悔はしても、その事実を変えることは、絶対に出来ぬからの……――それに、2人には謝らなくてはならん』
「な、なにを……?」

 主は鼻を啜りながら、首を傾げ。レイドは、下を向き黙っている。

『ワシは……。山へ訪れた主を、突っぱね続けたじゃろ? それのせいで、2人に酷く苦しい思いをさせてしまったのだと思うのじゃ……。もし、あの当時。主に着いていくことで、火山から出て。それで、世界の状態に早く気がついておれば……。ワシじゃったら、核達を守ることが可能だったかも知れぬからの……』

 ワシは、もう人とは関わりたくない……と意固地になり。山に訪れた主とも、しっかりと向き合うことはしなかった。

 だが、主と接しているうちに、過去の友を思い出し。その当初から、一緒に過ごすのが楽しいと思ってはいたのだ。

 しかし結局は、主の申し出を断わり続けた。
 けれど、主が一切訪れなくなったことで。ワシは心配で心配で、いてもたってもいられなくなり……――。

 主が居を構えている国を、以前に聞いていたのでそこに向かった――すると、主が亡くなったことを知ることとなったのだ。

 そして……。セルディアと、魂の基柱の色が同じ、レイドの存在にも気がつき。酷い脱力感に襲われた。

 それは、セルディアと似ているところが一つもない……全くの別人になっていたからだ。

 人間を観察したことで、以前からそのことに関しては分かっていたのに。もう二度と……。あの2人や、主にも会うことは出来ないのだと。実際に、それを自分と関わりの深い、人間の魂で再確認し。もう、全てがどうでも良くなってしまった。

【禁術機】といわれる存在が生まれたということも、その時に知ったが。ワシには関係のないことだと、見て見ぬ振りをし……。再び、火山へと戻ったのだ。

 ただ心のどこかでは、まだ期待を捨て切れていなかったのだと……。禁術機の術にかけられたことで、それに気付かされたのだが――――。


「いや、炎竜は俺を突っぱねてはいないだろ? 俺が、山をずっとウロウロしてたら。見かねて術を解いて、姿も現してくれたじゃんか。それこそ、知らんぷりすりゃ良かったのにさ。あの時は、ありがとな!」

 主は、その時を思い出したのか。嬉しそうに笑みを浮かべていた。

「それにさ、苦しい思いをしたのは……。俺よりも、レイドだからな。世界の歪みだって、炎竜の責任でも何でもないだろ? だって、そうなった原因は……。人間のせいだったんだ。俺達が、もっと早くに気が付くべきだった……」
『主……』

 眉をギュッと寄せ――主はそれに関して、非常に後悔しているようだった。

「――確かに、苦しい思いはしたが……。だからと言って、何故、それが炎竜の責任になるというんだ? ヤツの言う通り。その業を背負うべきは、炎竜ではなく……人間だ」

 レイドも、顔をしかめ。主と同じような、後悔の表情を浮かべている。

 2人にそんな顔をされたら、謝るに謝れなくなってしまうではないか……。

 けど、話をしたからか。なんだか心が軽くなったような気がする――。


『ホッホッホッホッ!! なんじゃ? なんじゃ? 懺悔大会のようになってしまっておるの~? 湿っぽい話は、これで終いじゃっ! 話を聞いてくれて、ありがとの~! すっきりしたわい!!』


 ワシが盛大に笑い出したからか。主とレイドは互いの顔を見合せ、苦笑していた。


 ――その後、いつの間にか。各地のご当地グルメの話とか、観光スポットの話などに話題が変わった。


『今度『甘い竹焼きさん』というものを持って来るから、楽しみにしていての~!』
「甘い竹焼きさん? 変な名前だな……」
「はははっ! なにそれ、まじウケる~! めちゃくちゃ楽しみにしてるな~!!」

 レイドは面白い物を想像したのか、目を細めてクスリと笑い。
 主に至っては、ツボに入ったのか大爆笑している。

『主、笑い過ぎて腹がよじれてしまうぞ~?』

 それから少しして。主は、なんとか笑いを収められたようだ。

「――なあ、炎竜。お願いがあるんだけどさ~……」
『ん? なんじゃ?』

 ――主は、間を置き。『主』と言うのを、止めて欲しいと言った。

『では、何と呼べば良いかの?』
「『ヤツ』って、呼んで欲しい」

 次は、ワシが笑ってしまった。

『ホッホッホッ! それは、レイドが呼んでいる呼び名じゃろう? 流石に、ワシがそう呼ぶのはの~? そんなこと言うと、レイドに怒られてしまうのでは――』
「俺達を『大事な友』と思ってくれている炎竜には、そんな事で怒りはしない」

 ワシの言葉を遮るように、レイドは涼しげな顔でそう言っていて――。

 心の内を言い当てられ。呆然と、レイドの顔を凝視した。

「あっ! レイドも、気づいてたんだな? ――炎竜、あの言葉に詰まってた時に……『大事な友』って言おうとしただろ?」
『な、何故……そう思ったのじゃ?』

 主は、キョトンとし――。

「え? だって……。炎竜が『同士』って言う時、あまりにも視線が泳いでいたし……。その2人、セルディアとレイナの話をしていた時の炎竜の目がさ――俺達に向けてた目とそっくりだったから、流石に分かるよ」

 ああ、そうだったんか……。ワシは意識せずとも、2人をそのように見ておったのじゃな。

『――そうじゃな……。ワシは何時からか、そう思っていたようじゃ』
「じゃっ! 決まりな! 今度からは、ちゃんと『ヤツ』って呼んでくれよ~? 正直、『主』って言われてるの、ずっと恥ずかしかったから良かったーー!!」
「確かに、『主』と呼ばれるのは恥ずかしいな……」

 ヤツとレイドは、気持ちを共感しているのか、2人でウンウンと頷いていた。


 2人をぼぅと眺めていたら――その姿が、セルディアとレイナであるように見えた。
 それは、瞬く間にヤツとレイドの姿に戻ったが……。確かに、ワシの目にはそう映った。

 そして……『再び、2人に逢うことが出来たのだ』と。その言葉が、ストンと胸に落ちてくる。

 それは確証もないことなのに、これこそが正解であるのだと……不思議とそう思えた――――。


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