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118.不思議な猫
しおりを挟む「――ほら、ヤツが潰れてしまうだろう? こっちにおいで」
俺が、子供達に揉みくちゃにされているのを見かねてか。ロンウェルに用があって、席を外していたレイドがこちらに戻ってきた。
「あっ! お父さん~!!」
輝緑が、レイドにギュウギュウと抱きつきに行き。それに釣られるように、輝紫と輝赤もそちらに流れて行った。
輝灰は、俺の膝に座り。輝白と輝黒は、俺の隣に腰かけた。
レイドが、3人の子を受け持ってくれて。よかった~と安堵する。
ふぅ~……。同じ親から生まれてるのに、子供達は性格がバラバラだからか……。けっこう大変なんだ。ま、皆スゲー可愛いくて堪らないけどな~!
輝緑は、めちゃくちゃ甘えん坊な男の子で。俺やレイドが大好きなんだ。けど、他の人には引っ込み思案で怖がりなところがあるから……。ちゃんと、親離れが出来るようにしてあげないとと思っている。
輝灰は、やんちゃ坊主な男の子で。いつも元気でパワフルなんだ。ただ、元気過ぎて、他の人に迷惑をかけてしまわないかが心配だな。
輝赤は、おっとりとした女の子で。静かで大人しいんだ。だからか、他の子に少し遅れを取ることが多いから、そこは気にして見ている。
輝紫は、溌剌とした女の子で。物事をハッキリと言い、おませなところもある子なんだ。その真っ直ぐに伝える性格が、人に押し付けているところもあって。だから、そうしないようによくよく言い聞かせていた。
輝白は、とても優しい男の子で。物腰が柔らかく、常に自分よりも、他の人を優先して行動しているんだ。それだから、損な役回りを誰かに押し付けられていないか、俺は目を光らせて注視している。
輝黒は、クールな男の子で。周囲の状況をしっかりと観察してから動くような、地頭の良い子なんだ。輝白が凄く大好きなのは良いんだけど……。輝白に何か難癖をつけようとする子を、泣かせるまで追い詰めるところがあるのが困りものだ。
「――レイド悪いな~。ロンウェルとの、話は済んだのか?」
「ああ、大丈夫だ。少し、報告したいことがあっただけだからな……」
レイドは、3人の子を抱き上げながら。どこか遠くを見て、思案顔をしている。
ん? どうしたんだろ? レイド、何か悩んでいるのかな……?
「レイド、どうしたんだ? なんかあったのか……?」
ハッとしたように、レイドはこちらを見て。首を振った。
「いや、大したことではないから……大丈夫だ」
「そう? だったら良いけど……」
ん~、まぁ……。人に話したくないものを、無理に聞き出すことは良くないしな。
例え、勝手知ったる仲でも。踏み込んで欲しくない領域ってのは、誰にでもあるものだし……――。
「――塔主様。これ、良かったら子供達にあげて下さい」
ロンウェルが、お盆の上にお菓子をたくさん乗せ。自分の部屋である、此処へと戻って来た。
「おっ! あり――」
「「「「やった~~~っ!!!」」」」
「――あっ! こらっ!!」
ズドドドドーーーーっっ!!! と。輝白と輝黒以外の子供達が、ロンウェルのお盆に群がった。
「あははははっ! 皆、相変わらず元気ですね~!! はいはい、いま置きますからね~?」
ロンウェルは、自分をグイグイと強く押してくる子供達に、動揺したり慌てたりもせず。テーブルの上に、そのお盆を置いていた。
それで、子供達は。そのお菓子に夢中になって、部屋の中が静かになった。
けど……。輝白と輝黒の2人は、そのまま俺の隣で静かに座っていた。
「ほら、輝白と輝黒も食べに行きな?」
俺が、そう言うと。輝白は頷き、皆の元へと向かい。それに続くように、輝黒も向かって行った――。
「ロンウェル、気を遣わせちまって悪いな……」
「いえいえ! 賑やかで良いですよ~!」
ロンウェルが楽しそうに、ニコニコとしながら笑っているので。それにホッと力が抜け、俺も笑った。
はぁ~! ロンウェルが、迷惑とか思ってないみたいで良かった……。
――チリン。
ロンウェルの部屋についているキャットドアから、鈴つきの首輪をしているクリーム色の猫が入って来た。
「お~、ミィ! 久しぶりだな?」
『みゃ~んっ!!』
ミィは、俺の足元に歩み寄って来て。そこに、自分の匂いをスリスリと擦り付けている。
********
猫のミィは、7年くらい前に魔術塔に来たのだが。その来ることになった経緯が、ちょっぴり不思議で――。
いつカフェの中へと入って来たのか、魔術塔の扉の前に居座っていたんだ。
魔術塔に入る者は、ミィが入らないように気を付けながら扉の中に入っていくという日々が続き、困っていたのだが……。それ以上に困ったのが――。
その間。ミィは、ご飯を一切食べなかった。
お水は、少量だけ飲んでいたが。ミィの近くにご飯を置いても、全く食べず。ただひたすらに、その扉を見詰めていた。
それで……。魔術塔の子が、ちょうど家族が猫を飼いたいと言ってたからと、実家にミィを連れて行ったのだけれど――。
そこでは、水さえも飲まなくなってしまって。だから当然、ミィは倒れてしまい。その魔術塔の子が、慌てて連れ帰って来た。
動物病院で診てもらったら、ミィは病気とかではないと診断され。しかも、獣医には――「この子は、強い拘りのようなものがあるのかもしれない。一度、それを叶えてあげては?」と言われたのだ。
だから、最初は。ただ魔術塔内にミィを入れてあげようとしたのだけど……。抱き上げていた人の腕の中で、酷く暴れてしまって。まるで――『このままでは、絶対に入らないから!』と意思表示をしているようだった。
それで、前例はなかったけど。猫も、魔術塔の一員になれるのかを試してみた。
すると、普通は動物にはないのだが……。ミィには魔力があるみたいで、魔術塔の一員になるのが承認されたんだ。
承認が終わり、魔術塔内にミィを下ろすと。ふらふらとしながらも、真っ先に5階にある科学室へと歩いて行き。その扉を、前足でカリカリと引っ掻いた。
だから、その扉を開けると……。ミィは、そこにいたロンウェルへと飛び付き。甘えた声を出しながら、ずっとスリスリとすり寄っていて――。
あまりにもロンウェルに懐いていたから、「過去に生き別れした猫か?」と聞いた。
けど――「いえ……。猫を飼ったことも、預かったこともないです」と言われて。全員が、この魔力を持つ不思議な猫に対し、首を傾げた。
そして、それからは……。今までの事が嘘であるかのように、ミィはご飯をモリモリと食べていて。
名前は、一番懐かれているロンウェルが決めることになり。それで『ミィ』と呼ぶことが決定した。
その後。ロンウェルは、ミィが過ごしやすいように段差などを低くしたり、キャットドアを作ったりと、魔術塔内を改造してくれて……。
そうしているうちに、いつの間にか。魔術塔にある、ロンウェルの部屋へとミィは居着き。ロンウェルは苦笑しながらも、満更ではないようだった。
それから、今まで。ミィはロンウェルの部屋、一筋で入り浸り。今に至る――。
********
「ミィ……。もう、終わりだ」
『みゃ~ん?』
――レイドが、ミィをひょいと抱き上げ。ロンウェルに渡してしまった。
「ああ~! もう、レイド!! 別に良いじゃんっ! ミィが、せっかく来てくれたのに~!」
「……ミィは、ロンウェルに懐いている。ヤツに好意が向いたら、示しがつかないだろう?」
レイドは、形容の出来ない妙な顔をしながら。ミィを視界に入れていた。
はぁ? 示しって何だ……? しかも、なんだよ。その表情は……。
あっ! もしかして、ミィが俺に懐いてるのが羨ましいのか……?
ミィって、めちゃめちゃ可愛い猫だからな~? レイドも、本当はグニグニと触りたいのかもしれない!
レイドは、ミィに嫌われている訳じゃないと思うんだけど……。
ミィは、レイドには一歩引いているというか……。何でか、少し萎縮している感じがする。
――でもな、レイドの言っている事は……絶対に間違いだ。
「はぁ~……。レイド、あれを見ろよ! 俺に対するミィの好意なんて、小さいもんだろ?」
「…………」
ミィは、ロンウェルに対しては『うみゃ~ん! うみゃ~ん!!』って、語尾にハートマークをつけるようにして鳴いている。
「――あ……。ミィちゃん、来てたの……?」
輝緑が、モジモジとしながら。俺とレイドの近くに来た。
皆は、まだお菓子を食べているけど。輝緑は少食なところがあるから、もう満足なんだろう。
「ん……? まあ、今さっきな」
「……僕、何かしたのかな? 何でミィちゃん、僕のこと嫌いなんだろ……? どうすれば、好きになってくれる? もっと、優しくすれば良いの?」
あ~……。そうなんだよな。ミィは、他の子供達にはまぁまぁ大丈夫なんだけど。なんでか、輝緑に対してだけ威嚇をするんだ。
むしろ、輝緑は。ケモフとかの小動物には、一番好かれてるんだけど……。ミィだけは、輝緑がいくら優しく接しても懐くことはなかった。
「ん~と……。生き物ってな、相性とかもあるんだ。だから、無理に距離を縮めようとせず、相手が歩み寄ってくれるのを待つのも大事なんだぞ? そうすれば……。いつかは、ミィが輝緑のことを知りたいな……と思ってくれるかもしれないからな」
輝緑は、俺の言葉にコクコクと頷いて「うん、ミィちゃんがそう思ってくれるまで。僕、待つ……」と言い、ニコリと笑った。
良かった、良かった……。輝緑は、俺とレイドの言葉なら素直に聞き入れてくれるから。物事を教える時は、とても楽だ。
ただ、その盲目的なところが。少しだけ、心配ではあるけどな……。
――あ、そういや。レイドと、ミィのことで話してたんだっけ?
輝緑と話していた間。ずっと黙っていたレイドへと、視線を向けると――俺達を見て、柔らかな優しい表情を浮かべていた。
俺は何だか急に、とても恥ずかしくなってしまって……。逃げるように、お菓子を食べている子供達の様子を見に行った――。
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