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76.〖レイド〗過去

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 ヤツィルダが消滅するに至った経緯を、その場にいた者達に伝えられた……――。


 禁術機の術にかかり俺が倒れてから数刻後。記録の為に会議室へと入った魔術塔の者達が、状況に漸く気がついたようだ。

 あの禁術機を持っていた女性は、魔力切れで意識を失っていたらしい。

 その後直ぐ。俺に術をかけた禁術機が、どのような性能があるものかを解析すると。俺の予想通りに、魂だけを延々と過去、未来、更には異世界へと飛ばす能力だった。

 しかも、術をかけられた者の身体は死ぬことはなくなり。それが終わりなく、ずっと続いていく。

 それを解術する方法は。術にかかった者の為に、心の底から己の命を捧げられる人のみ、解術が出来るのだと言っていた。

 ヤツィルダは、俺の状態による伝書を受け取った次の日には、魔力切れを起こしかけながらも魔術塔へと戻って来たという。

 それからは、俺も知っているように……。ヤツィルダは俺を解術したせいで命を落とし。同時に、禁術機もバラバラに壊れたようだった。


 俺は、魔術塔の者達から話しを聞き終えた後。直ぐに、まだ魔術塔にある禁術機を破壊しようとした。

 すると、科学班の者に。禁術機を無理に壊せば、暴走する可能性が極めて高いと慌てて止められたのだ。

 それを実際に試すのは、あまりにも危険な為。安易に行うことは出来なくなってしまった。

 やり場のない怒りを感じている俺を見てか。科学班の者達が、まだ研究中であるものの話をしてくれた。

 それは――……科学班の者達は、禁術機の能力を弱体化することが出来ないかと、ずっと考査をしていたようであり。
 その有効な方法として挙げられたのは、禁術機は元々【磁気】により仲間にテレパシーを送り合っているから、その【伝達を行う機能部分】を利用するというものであった。

 原理としては、禁術機同士の伝達機能を強制的に繋げて離れないように連結をしてしまえば、それを分離しようとする力が起こる。
 すると、禁術機の殆どの力が仲間の方へ流されるようになって、お互いの強い力がぶつかり攻撃し合うようになるというものだ。

 そして、その連結は――攻撃に特化し、極級の魔法を扱える者でないと、術の発動すら難しいようである。

 それらの話の通りならば、禁術機を連結する機械が作られた時。それを行えるのは、現状で俺しかいなかった――。



 ********


「ハートシア様……。本当に、申し訳ありません」


 ――あの禁術機を持っていた女性が、泣きながら謝りに来た。


 禁術機の術者は、頭がおかしくなってしまう筈だったが。恐らくは禁術機が壊れたことで、それが無効とされたのだろう、と科学班の者達が言っていた。

 この女性が何処であの禁術機を見つけたのかというと、買い物した袋の中に紛れるようにして入っており。何だろうと触れた途端、意識が奪われたという経緯だったようだ。

 何故、その袋の中に入っていたのか、誰がそれを入れたのかは……今も分かっていない――。


「俺が油断をしたのが悪いんだ。だから、謝らなくて良い」

 そうだ。あの時に、俺が気を抜かなければ……このようなことにはならなかったかもしれない。

「いいえ、それだけじゃありません! 私の、私の……せいで、塔主様は……。う、ぅうっ……!」

 女性は顔を手で覆い、本格的に泣き出してしまった。

 禁術機の呪縛から解かれた時。この女性はそれを聞かされて、何度も自分を責めたのだろう――俺と、同じように。


「ヤツィルダは……。きっと、そのように泣いて欲しくはないのではないか? そういう奴だろう?」

 女性はヤツィルダのことを思い出しているのか、少し遠くを見るような目をしてから、コクリと頷き。

「謝るつもりが、励ましてもらって……すみません」

 まだ涙を流してはいるが、少し気持ちか落ち着いたように見える。


 それから直ぐに、科学班の休憩時間が終わったということで、女性は塔主の部屋から出て行った。


「ふっ、未だ抜け出せていないのは、俺だというのにな……」


 俺は、まだヤツィルダが居るような気がして。時間があれば、塔主の部屋に向かってしまう。


 ヤツィルダが言っていた、煌びやかな棚も直ぐに分かった。

 けれど、あんなに気になっていた、クリムルの酒を取り出す気にもなれない。


「ヤツィルダ。俺と一緒に、盃を交わすと言っていただろう? お前がいないと、クリムルの酒を飲む気にもならない。だから――」


 ――戻って来てくれ。

 口が震えて、その言葉を紡ぐことが出来なかった。


「……く、そっ! なんで、こんな事に……」


 今、俺の心を占めているのは……――後悔だ。

 ヤツィルダと俺は、同じ時を生きる筈だった。だから、ヤツィルダは、ずっと俺の隣にいるだろうと思い。それを、疑いもしていなかった。
 ……最低なことに、俺がどんなに邪険に扱おうが。気にしていないというような態度で、いつも笑って話し掛けてくるヤツィルダに甘えてもいたんだ。

 先のことなど、誰も知らない。共にいるのが、当たり前ではなかったというのに……。


 ――俺は、ヤツィルダの筆跡である契約書を、手に持っている。

 これだけが、ヤツィルダを感じ取れる唯一の物だった。あんなに長く一緒にいて、これだけしか無いだなんて……笑い話にもならない。
 本当なら、これに触れる資格すら、俺には無いだろう。ヤツィルダの優しさを受け取るだけだった、俺には……――。
 それを、分かってはいても。気付けば、縋るように握りしめてしまうのだ。


 そうしてしまうのは――跡形もなく、身体が崩れ落ちるのを見たからだ。
 あれは、まるで……。ヤツィルダが初めから、この世に存在していなかったかのように見えて……――。

 あの光景を思い出すと、悲しくて、悲しくて。胸が押し潰されているように……苦しくて堪らなかった。


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