上 下
45 / 56

海 ①

しおりを挟む
 


 ――最初の記憶は、キラキラと輝いた両の眼だった。
 次に、寒くて凍えた身体が暖かなものに包まれる感覚がした。

 自我が出来てから、理解する。
 僕は、この子――未来ちゃんに助けられたんだと。
 車というものに轢かれた子猫だった僕を、動物病院といった場所に連れて行ってくれた。
 泣きながら『助けて、お願い!』と先生に訴えたのだと、未来ちゃんのおばあちゃんが誇らしげに笑って言っていた。

 それで、僕を『海』と名付け、2人の【家族】にしてくれた。

 未来ちゃんは、とってもとっても優しい女の子なんだ。
 僕は、未来ちゃんと10年も一緒にいるけど。一度も、怒った姿を見たことがない。
 僕が、悪戯をしても困ったように眉尻を下げるだけ。だから、そんな顔を見たくなくて、自然と悪戯するのは止めた。

 大好きな未来ちゃん。僕が死んだら、未来ちゃんの守護獣になろうと心に決めていた。
 守護獣とは、この世で経験をたくさん積んで、悟りを開けた動物がなれるものなんだ。
 僕は、既に人間の言葉も理解出来ていて、それになれる方法だって分かっている。
 未来ちゃんが天命を全うするまで、ずっとずっと守るつもりだ。
 でも、未来ちゃんは『海は、すごくすごく長生きしてね』っていつも言うから、後10年くらいは頑張って生きようと思ってる。

 それに僕も、出来るだけ長く生きていたい。

 だって、未来ちゃんにぎゅって抱きしめられるのが気持ちよくて、いつも喉が鳴ってしまう。
 『可愛いね』って言われて、頭を撫でられるのも大好きなんだ。



 ♢◆♢


 いつからだろう。未来ちゃんが、悲しそうな顔をするようになったのは……――。

 僕とおばあちゃんの前だと、元気な未来ちゃんだけど……僕には直ぐに分かった。
 未来ちゃんからは――強い悲しみの匂いがする。

 だから、隠れて未来ちゃんを見た時。悲しそうな顔を浮かべ、声を押し殺して泣いていた。

 なんでだろう……。なにが、そんなに辛いんだろう。

 だから、僕は……未来ちゃんを外に行かせたくなかった。
 きっと、外に行くから辛い思いをするんだ。

 けど、未来ちゃんは『帰って来たら、遊ぶね。待ってて』と僕の頭を撫でてから、外へ行く――。

 一度だけ。未来ちゃんが外に出る瞬間を狙って、ドアから飛び出そうとした時があった。
 ずっと未来ちゃんの側にいようと思ったんだ。

 でも、未来ちゃんは『行かないでっ! お願い、行かないで! ひとりにしないで……!』と泣きながら僕を引き留めた。
 未来ちゃんから離れようなんて、考えてもいなかったけど。そう勘違いさせてしまったようだった。

 それからは、玄関には近付かないようにした。未来ちゃんが、怯えたような怖がっているような……迷子の子供のような顔をしてしまうから――。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

意味がわかると怖い話ファイル01

永遠の2組
ホラー
意味怖を更新します。 意味怖の意味も考えて感想に書いてみてね。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

透影の紅 ~悪魔が愛した少女と疑惑のアルカナ~

ぽんぽこ@書籍発売中!!
ホラー
【8秒で分かるあらすじ】 鋏を持った女に影を奪われ、八日後に死ぬ運命となった少年少女たちが、解呪のキーとなる本を探す物語。✂ (º∀º) 📓 【あらすじ】 日本有数の占い師集団、カレイドスコープの代表が殺された。 容疑者は代表の妻である日々子という女。 彼女は一冊の黒い本を持ち、次なる標的を狙う。 市立河口高校に通う高校一年生、白鳥悠真(しらとりゆうま)。 彼には、とある悩みがあった。 ――女心が分からない。 それが原因なのか、彼女である星奈(せいな)が最近、冷たいのだ。 苦労して付き合ったばかり。別れたくない悠真は幼馴染である紅莉(あかり)に週末、相談に乗ってもらうことにした。 しかしその日の帰り道。 悠真は恐ろしい見た目をした女に「本を寄越せ」と迫られ、ショックで気絶してしまう。 その後意識を取り戻すが、彼の隣りには何故か紅莉の姿があった。 鏡の中の彼から影が消えており、焦る悠真。 何か事情を知っている様子の紅莉は「このままだと八日後に死ぬ」と悠真に告げる。 助かるためには、タイムリミットまでに【悪魔の愛読書】と呼ばれる六冊の本を全て集めるか、元凶の女を見つけ出すしかない。 仕方なく紅莉と共に本を探すことにした悠真だったが――? 【透影】とかげ、すきかげ。物の隙間や薄い物を通して見える姿や形。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 表紙イラスト/イトノコ(@misokooekaki)様より

処理中です...