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第3の事件とデート

穏やかな教室

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前田との通話を切り、そろそろ寝るかと考えていると、またスマホに通知が届く。今度は伊藤だ。「今通話できる?」というメッセージが来ていた。盗撮の件だろう。俺が「了解」と送るとすぐに電話がかかってきた。
「ごめんなさい夜遅くに。大丈夫だった?」
「ああ、特に問題ないぞ、やるべきことは終わってるからな」
「それは良かった。掲示板見た?」
「ああ、見たぞ。また盗撮写真が掲載されていたな」
「そうなの。で、考察を深めたいなと思って。まず私が推測したことを聞いてくれる?」
「いいぞ、話してくれ」

「まず1番気になったのは画像が逆さまであることね。これは撮影機器を逆向きにして撮影したことを意味しているわ。今までは普通に撮影していたのにここだけ逆ということは、逆じゃないと撮影できなかったということでしょうね」
「そうだな」
「前田さんが一人で歩いていることに気づいて慌てて撮影したのでしょうね。前田さんに聞いてみないと行けないけど、不審な動きをしていた生徒がいたかもしれないわ」

「前田曰く不審者に心当たりはないらしいぞ。慌ててではあるが自然に撮影したんだろうな」
「…… いつ前田さんと話したの?」
「さっきだ。その件で相談を受けててな。スマホを逆さにして持っているような生徒が前にいたなら気づくだろう、という話をしていた」
「…… なるほど。すっかり信頼されているのね。まあそれはさておき。それであれば、犯人は慌ててではあるけど自然に撮影できる、何らかの機材を使用した可能性が高いわね。」

「そうだな。それが何かは想像つかないが、何かしらの特殊な機材を使っているだろう」
「そうね。そして次に気になったのは写真の角度ね。今回は水平の高さで撮影されているは。少し低い位置から撮影したようね」
「俺もそれは考えた。おそらく腰のあたりなどで撮影したんだろうな。手に機材を持って撮影した可能性が考えられる」
「そうね。今までの写真から犯人は比較的背の高いという仮説があるから、それを前提とすると今井くんの言う通りだと思うわ」

「後は、背景から見てこの写真は3組の前辺りで撮影されたものでしょうね。そして日の当たり方から昼前でしょう。前田さんは私たちのクラス、1組から6組の方向に歩いているときに撮影されたはず。となると、1組、2組、3組の生徒の可能性が高いわね」
「なんでだ?」
「昼休み以外の休み時間に教室から遠く離れる生徒は少ないわ。教室から出た時に前田さんを見かけて撮影したと考えて良いでしょう。そうなると4~6組の生徒は一度前田さんの姿を見かけて3組の方に向かい、Uターンして撮影したことにならない? それは怪しすぎると思うんだけど?」

「うーん、正面を向いて撮影した可能性もあるからな。超小型カメラをポケットに入れて撮影した場合だとどうだ?1組から出る前田を見かけて6組から歩いて行って撮影した可能性もある」
「…… それはそうね。じゃあこの話は忘れて。他に気になったことと言えば…… この前田さんは最近の前田さんね。夏服だし、日焼けしてるわ」
「そうだな。犯人は撮り溜めをして投稿しているのではなく、撮影次第順次投稿していると見て良いだろう」

「後は…… 今気づいたけど、これはもう犯人は同級生で確定ね。さすがに都合よく上級生や下級生が2年生の階にいて前田さんにも気づかれないとは思わないわ」
「言われてみれば。2年生以外で休み時間にいる場所ではないからな」
「ええ。ここまでの犯人像を整理すると、背が比較的高い、グラウンドで活動する部活に所属している、同級生ね。で、同じクラスの可能性が高いと」
「同じクラスの可能性が高いのか?」
「2年生のこのタイミングでこういうことを始めたわけでしょう? 恋慕にしても憎しみにしても嫉妬にしても何かしらのトリガーが最近あったと考えるのが自然でしょ。そうなると接点が多い同じクラスの可能性は十分考えられるわ」
「なるほど……」

「そういえば何か前田さんは言ってなかった?」
「いや、特には。ただ、思ったより過激な写真ではなくてちょっと安心したって言ってたな。あまり気にしているそぶりはなかった」
「ああ、そうね。でも掲示板で煽られてなかった? 次が怖いと思う」
「そうだな、それは言っておいた。スカートは気をつけたほうがいいんじゃないかって」
「まあ過激な写真と言えばスカートの中の撮影だもんね。完全に犯罪だけど。スカート長くするって言ってた?」
「いや、スラックスにしようかな、って言っていた。どうするのかはわからないけどな」
「なるほどね。足長いし、似合いそうだね」

そんな話をしていると日付が変わりそうな時間になっていることに気づく。
「もう12時だな。そろそろ寝ないと明日の朝練に響きそうだ」
「そうね…… ちょっと話しすぎたわね。睡眠不足だと筋トレに響くの?」
「ああ、やはり体調が万全であってこそのトレーニングだな。体調が完璧でない時は全力が出せないもんだ。伊藤も筋トレやってみたらどうだ? 人生変わるかもしれないぞ」
「人生が変わるほどすごいものかしら…… まあ考えておくわ。とりあえずおやすみなさい」
「マシンの使い方ならいつでも教えてやるぞ。おやすみ」
 俺は通話を切ると、すぐにベットに入った。深夜まで起きている人はすごい。よく起きていられるものだ。
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