マインドファイターズ

2キセイセ

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探索編(四章)

173.昔の夢

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「今日は終わりらしい…明日からは慎重に動くぞ。」

「はい」

王の寝室に耳を立てていた3人は、自分達の部屋へと帰り、着々と作戦の話を進めていた。
そして…午後1時が回った頃、彼らは深い睡眠に着いていた。










「ん…ああ?」

「あっ!アルス!起きたんだ…」

…どこだここ?
何度も見ているであろう家の内装。俺の隣にいる藍色の長い髪を持つ少女。癖のように俺は窓を見た。

風になびかれて、草むらは小さく踊っていた。その風景はどこか懐かしさを感じる。

「……ん?」

俺には、この少女が誰か分からない。記憶を失っているからか?それともただ単に関わりのない人か…。

「……ふふっ。やっぱ変わってないや。」

その少女は俺をじーっと見てそう言った。
まるで、急いできたかのように、彼女はずっと息を切らしていた。
いつもより、少女は髪が整っていないような気がした。

「変わってない?」

「そ、最近辛い体験してたよね。私、全部見てたから!」

彼女はそう、少し自慢げに話していた。

ここは…ダンダス村か?
俺の故郷であろう場所は、記憶を失い初めて見た時よりもずっと綺麗で栄えている村であった。
だが、そこに素晴らしいなどとは思わない。
ただ懐かしい。

「…こええな。知らないだ…?」

その少女を知らない誰か、とは思えなかった。
その理由は分からない、だが、この風景や時間にずっといたい、不思議だがそう感じた。

「あちゃー…私の事、覚えてなかったか。」

「申し訳ない。」

「いいよ!全然…。気にしてないし…。」

彼女はそう返事をして、そっぽ向いてしまった。ほんの少しだけ力の入った声で、気にしてないと言いつつも気にしている。
そんなわかりやすさが、いつの間にか愛おしく思えた。

「…あっはは。分かりやすいな。」

「もっとクールな人になりたいってのに…。なんでこんな…。」

俺が気づけば笑ってそう言った事に、彼女はうなだれ、真剣に考え始め、頭に手をついてそう返事をした。
そんな少女を見て、俺はこう声をかけた。

「別にならなくていいだろ。そのまんまを受け入れて貰えれば。」

「…じゃー、アルスは私のそのまんまを受け入れれるの?」

「…」

「黙られるのがいっちばんキツイの…。性格治すからさー、黙るのはやめてよー!」

「さっき言ったこと忘れたのか?」

そう言うと、少女はふと我に返った。

「あっ。…私はアルスの特別な存在になりたいだけなのかもね。…アルスのためならどんな姿にでも、どんなモノにでも変われる…予定だから。」

「やめとけ…。そこまでしなくてもいいから。」

そう言って、二人は別々の方向を向いた。
だがしかし、横目では目が合っていた。

「あっ…最後に…覚えておいて、"カトリン"、私の名前だよ。起きたらしっかりメモ取ってねー!」

その声が、途中でかすれながらも聞こえた瞬間。
アルスの目は覚めた。随分と鮮明な夢だ、まるで体験したことかのような…。

カトリンに言われた通り、アルスは即座に彼女の名前を紙に書いた。

「…濡れちまった」

名前を書くだけなのに…何故か滴る涙は、思い出した少しの過去に向けられたものなのか、ちょうど彼女の名前にかかってしまった。

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