閉じられた図書館

関谷俊博

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「麗子さんは、きみにそう言ったんだね。本の整理は共同作業にすると」
医師の言葉に、ぼくはうなずいた。
「なるほど。イマジナリーコンパニオンは和解を申し出てきましたか」
「どうしてなんですか?」
口をはさんだ祖母に、医師は向きなおった。
「以前に話したことがあったでしょう? イマジナリーコンパニオンは、自問自答の具現化としての役割を果たすことがあると」
「良くわかりません」
「つまりイマジナリーコンパニオンは、葛藤するこの子の心の代弁者なんですよ」
「病気は悪くなってしまったのですか?」
祖母は深いため息をついた。
「いや、そうとも言えませんな。この子の心は既に揺れ始めている」
「揺れ始めている…」
医師の言葉を、祖母はただ繰り返した。
「そうです。こうすることで、この子は心のバランスを保とうとしているのです」
「何故そのような変化が起こったのですか?」
「良くはわかりませんが、たぶん、あの女の子の存在が、この子の心を揺さぶっているのです」
死んだ魚のような生気のない目で、医師は診察室の天井を見あげた。
「しかしですなあ…永遠に生きる、ですか。それは怖ろしいことだと、私は思いますがね」
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