進水式

関谷俊博

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気づくと父さんと二人、ぼくはボートにのっていた。
あたりはまっ白で何も見えなかった。
霧…霧だ…。こい霧があたりをおおっている。
どうしてぼくと父さんは、こんなところにいるんだろう?
父さんは、ゆっくりとボートをこいでいる。
「父さん…どこへ行くの?」
ぼくは父さんにたずねた。
「魂の島さ」
父さんの声には何の感情もこもっていなかった。
「魂の島…」
ぼくは父さんの言葉を繰り返した。
「東に海で死んだ男たちの魂が集まる島がある。そこへこれから行くのさ」

海は凪いでいた。オールをこぐ音だけが、ぎしぎしとひびいた。
「なに言ってるんだよ、父さん!」
ぼくは叫んだ。
「そんなところへ行って、どうする気だよ!」
海で死んだ男たちの魂が集まる島。寂しく哀しい場所のような気がした。
「おまえこそ何を言ってるんだ。郁弥」
あいかわらず、心のこもらない声で、父さんは言った。
「おまえはあんなに街を出ていきたがってたじゃないか」
濃い霧はオールにもまとわりついて、ボートはなかなか前に進まなかった。
「だから郁弥。行こう。父さんと一緒に」
「いやだ!」
ぼくは叫んだ。
そんな寂しい場所へなど行きたくなかった。
「行くんなら、父さん一人で行けよ!」
そのときぼくは、自分の声で目がさめた。夢を見ていたのだ。

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