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貴重なものをみすみす渡すわけ、ありませんよ
リーゼロッテの決断 5
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「リーゼ。今日、魔力石を作り出しに行こうと思う」
レティシアとの三人での話し合い後、ベルンハルトは即座にバルタザールへと連絡を取った。
結界のために使用できるほどの魔力石を手配できる可能性があること。それの譲渡に伴う話し合いの場にリーゼロッテを出席させること。魔力石を用意できた際に、相応の対価を要求すること。
国王相手に、身の程を知らないと言われそうなぐらいの条件を提示した。
それでも、それを呑んででさえも魔力石を必要としているバルタザールが、手紙を返してくるのに時間はかからなかった。
「はい」
魔力石を作り出すために必要なのは膨大な魔力。リーゼロッテはこの日のために、いつも以上に気を遣って体調を整えた。
事情を知ったヘルムートが、リーゼロッテにつきっきりだったのも仕方がないことだろう。
「レティシアにはすでに連絡を取った。これまでの経験から、最も多く魔力石が埋まっている場所に案内してくれるよう伝えてある」
レティシアはリーゼロッテの魔力の強さも、魔力石の場所も熟知しているはずだ。
森の中での案内は、任せておけば間違いない。
「森まで、ベルンハルト様もついてきてくださいますか?」
「それは、もちろん構わぬが。私はリーゼの邪魔にはならぬだろうか?」
「邪魔だなんて! 当たり前です。側に、いて欲しいのです」
国の結界のために魔力石を作り出すなどという責任ある役目が、無事に務まるのだろうかという不安に押しつぶされそうになりながら、リーゼロッテはここ数日、眠れぬ日々を過ごしていた。
リーゼロッテが魔力石を作り出したのはたった一度。それも指の先ほどの小さなもの。
リーゼロッテの魔力が強いものだとベルンハルトとレティシアにどれだけ説得されようとも、そんな言葉を信じられるわけもない。
幼い頃から魔法が使えないと罵られてきたリーゼロッテに、そんな自信などあるはずもない。
ベルンハルトの服の袖をそっと握ったリーゼロッテの手は、ベルンハルトの大きな手に握り返された。
握られた手に、ほんの少し力が加えられると、その強さはリーゼロッテ自身にも力を与えてくれているようで。
「約束したからな。常に、側にいると」
『それは、王城でのことで……』そう言いかけてリーゼロッテは口をつぐんだ。
そう言ってこの手を離されてしまっては、森についてきてもらうことはできないかもしれない。
「約束ですよ」
払拭されない不安と、こみ上げてくる緊張に、リーゼロッテも強く手を握り返した。
「さぁ、行こう」
前回はアルベルトに支えられて、一人でくぐった広場へと続く扉。
アルベルトに開けてもらった扉の前で、ベルンハルトがエスコートのために差し出してくれた手を取った。
「はい」
真っ暗な空間が広がる扉の先も、今日は何も怖くない。ベルンハルトの手を手繰るように、扉をくぐった。
一瞬歪んだ視界が開けていけば、目の前に広がるのは色とりどりの緑。濃淡様々な緑色を全て詰め込んだような景色。
「まぁ! こんなに素敵な景色だったんですね!」
リーゼロッテの口から感嘆の声があがった。
「雪に覆われていない景色をここから見るのも、不思議な気分だ」
「ベルンハルト様も滅多に見ないのですか?」
「ここに来るのは討伐の時だけだ。いつだって雪景色だな」
「あら、もったいないですね。こんなに綺麗ですのに」
「ははっ。ここはレティシアと会うためだけの場所だ。そのように言ったのはリーゼが初めてだろうな……いや、そもそもここに当主以外が来たことが初めてだろう」
「そういえば、アルベルトさんもそのようなことを言ってらっしゃいました」
そう言って顔を崩して笑ったリーゼの頬に、ベルンハルトの手がそっと触れた。
「べ、ベルンハルト様?!」
「そんな顔を私に見せてくれるなら、これから何度でも連れて来よう。ここだけではなく、どこへだって貴女を連れて行くから」
「ありがとうございます。それでは、早く今回のことを終わらせないといけませんね」
「あぁ。それもそうだ」
ベルンハルトの口元にも、優しい笑みが浮かぶ。その穏やかな時間が、リーゼロッテの緊張を解していき、リーゼロッテのために与えられた時間に、気持ちが温まるのを感じた。
「ベルンハルト様。もう、大丈夫です。レティシアのこと、呼びましょう?」
「わかった」
ベルンハルトが「レティシア、待たせた」と一言声をかければ、青空に描かれた若草色の線。
「本当に! いつかしらって、気が気じゃなかったわ」
レティシアらしい悪態の後、いつもの自信に満ちた顔が目の前に現れた。
「レティシア。お待たせしてすいません」
「リーゼ。月並みな言葉しか言えなくてごめんなさい。それでも、貴女ならやれるわ」
「ありがとうございます」
少し困ったような顔をしたレティシアが、龍へと姿を変える。
リーゼロッテとベルンハルトを前に、背中を落とし、上を乗るようにと促した。
「リーゼ。行こう」
レティシアの背中から見下ろした森は静まり返っていて、リーゼロッテの訪問を望んではいないような気にさえなってくる。
そんなリーゼロッテの感情などお構いなしに、レティシアの体は森の中へと入っていった。
「ここか」
「そうよ。多分、これまで最も多くの魔獣がここで魔力石に変わっていったわ」
レティシアが連れてきたのは、森の中でも突然木々がなくなり大きく開けた場所。四方を見渡すことができ、邪魔なものもないこの場所は、たしかに魔法を使いやすいのかもしれない。
「私も幾度となくここへ連れて来られたな」
「魔獣が来るのもよく見えるでしょう?」
「このように森の中まできてしまって、魔獣が邪魔をしには来ないのだろうか?」
「今日はね、そこら中で龍たちがうろついてるわ。結界の中に入って来られるような魔獣達、徒党を組まない限り敵うわけないもの」
静まり返った森の状態はそのせいもあったのか。龍達に見張られた弱い魔獣達は、その身を縮こませているに違いない。
「何もかも任せっきりになってしまったわ」
「私が勝手にやったことよ。気にしないで」
リーゼロッテは軽く頷くと、その場の真ん中に進んで行った。
レティシアとの三人での話し合い後、ベルンハルトは即座にバルタザールへと連絡を取った。
結界のために使用できるほどの魔力石を手配できる可能性があること。それの譲渡に伴う話し合いの場にリーゼロッテを出席させること。魔力石を用意できた際に、相応の対価を要求すること。
国王相手に、身の程を知らないと言われそうなぐらいの条件を提示した。
それでも、それを呑んででさえも魔力石を必要としているバルタザールが、手紙を返してくるのに時間はかからなかった。
「はい」
魔力石を作り出すために必要なのは膨大な魔力。リーゼロッテはこの日のために、いつも以上に気を遣って体調を整えた。
事情を知ったヘルムートが、リーゼロッテにつきっきりだったのも仕方がないことだろう。
「レティシアにはすでに連絡を取った。これまでの経験から、最も多く魔力石が埋まっている場所に案内してくれるよう伝えてある」
レティシアはリーゼロッテの魔力の強さも、魔力石の場所も熟知しているはずだ。
森の中での案内は、任せておけば間違いない。
「森まで、ベルンハルト様もついてきてくださいますか?」
「それは、もちろん構わぬが。私はリーゼの邪魔にはならぬだろうか?」
「邪魔だなんて! 当たり前です。側に、いて欲しいのです」
国の結界のために魔力石を作り出すなどという責任ある役目が、無事に務まるのだろうかという不安に押しつぶされそうになりながら、リーゼロッテはここ数日、眠れぬ日々を過ごしていた。
リーゼロッテが魔力石を作り出したのはたった一度。それも指の先ほどの小さなもの。
リーゼロッテの魔力が強いものだとベルンハルトとレティシアにどれだけ説得されようとも、そんな言葉を信じられるわけもない。
幼い頃から魔法が使えないと罵られてきたリーゼロッテに、そんな自信などあるはずもない。
ベルンハルトの服の袖をそっと握ったリーゼロッテの手は、ベルンハルトの大きな手に握り返された。
握られた手に、ほんの少し力が加えられると、その強さはリーゼロッテ自身にも力を与えてくれているようで。
「約束したからな。常に、側にいると」
『それは、王城でのことで……』そう言いかけてリーゼロッテは口をつぐんだ。
そう言ってこの手を離されてしまっては、森についてきてもらうことはできないかもしれない。
「約束ですよ」
払拭されない不安と、こみ上げてくる緊張に、リーゼロッテも強く手を握り返した。
「さぁ、行こう」
前回はアルベルトに支えられて、一人でくぐった広場へと続く扉。
アルベルトに開けてもらった扉の前で、ベルンハルトがエスコートのために差し出してくれた手を取った。
「はい」
真っ暗な空間が広がる扉の先も、今日は何も怖くない。ベルンハルトの手を手繰るように、扉をくぐった。
一瞬歪んだ視界が開けていけば、目の前に広がるのは色とりどりの緑。濃淡様々な緑色を全て詰め込んだような景色。
「まぁ! こんなに素敵な景色だったんですね!」
リーゼロッテの口から感嘆の声があがった。
「雪に覆われていない景色をここから見るのも、不思議な気分だ」
「ベルンハルト様も滅多に見ないのですか?」
「ここに来るのは討伐の時だけだ。いつだって雪景色だな」
「あら、もったいないですね。こんなに綺麗ですのに」
「ははっ。ここはレティシアと会うためだけの場所だ。そのように言ったのはリーゼが初めてだろうな……いや、そもそもここに当主以外が来たことが初めてだろう」
「そういえば、アルベルトさんもそのようなことを言ってらっしゃいました」
そう言って顔を崩して笑ったリーゼの頬に、ベルンハルトの手がそっと触れた。
「べ、ベルンハルト様?!」
「そんな顔を私に見せてくれるなら、これから何度でも連れて来よう。ここだけではなく、どこへだって貴女を連れて行くから」
「ありがとうございます。それでは、早く今回のことを終わらせないといけませんね」
「あぁ。それもそうだ」
ベルンハルトの口元にも、優しい笑みが浮かぶ。その穏やかな時間が、リーゼロッテの緊張を解していき、リーゼロッテのために与えられた時間に、気持ちが温まるのを感じた。
「ベルンハルト様。もう、大丈夫です。レティシアのこと、呼びましょう?」
「わかった」
ベルンハルトが「レティシア、待たせた」と一言声をかければ、青空に描かれた若草色の線。
「本当に! いつかしらって、気が気じゃなかったわ」
レティシアらしい悪態の後、いつもの自信に満ちた顔が目の前に現れた。
「レティシア。お待たせしてすいません」
「リーゼ。月並みな言葉しか言えなくてごめんなさい。それでも、貴女ならやれるわ」
「ありがとうございます」
少し困ったような顔をしたレティシアが、龍へと姿を変える。
リーゼロッテとベルンハルトを前に、背中を落とし、上を乗るようにと促した。
「リーゼ。行こう」
レティシアの背中から見下ろした森は静まり返っていて、リーゼロッテの訪問を望んではいないような気にさえなってくる。
そんなリーゼロッテの感情などお構いなしに、レティシアの体は森の中へと入っていった。
「ここか」
「そうよ。多分、これまで最も多くの魔獣がここで魔力石に変わっていったわ」
レティシアが連れてきたのは、森の中でも突然木々がなくなり大きく開けた場所。四方を見渡すことができ、邪魔なものもないこの場所は、たしかに魔法を使いやすいのかもしれない。
「私も幾度となくここへ連れて来られたな」
「魔獣が来るのもよく見えるでしょう?」
「このように森の中まできてしまって、魔獣が邪魔をしには来ないのだろうか?」
「今日はね、そこら中で龍たちがうろついてるわ。結界の中に入って来られるような魔獣達、徒党を組まない限り敵うわけないもの」
静まり返った森の状態はそのせいもあったのか。龍達に見張られた弱い魔獣達は、その身を縮こませているに違いない。
「何もかも任せっきりになってしまったわ」
「私が勝手にやったことよ。気にしないで」
リーゼロッテは軽く頷くと、その場の真ん中に進んで行った。
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♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
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